愛なき浜辺に新しい波が打ち寄せる
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2015年03月30日(月) コンビニネタ18

 いつの間にやら期末テストの時期に。真田はテスト前後に郭とまた勉強できたらいいな、と思ってはいたんだけど、連絡できず。郭は、家庭教師のバイトがまあまあ大変になってきた。高校入試までそんなに間がない。郭が教えてる中三の子は、D高が狙える成績ではあるけど、余裕というわけではない。その子も親も、絶対的にD高を希望していて、かなり郭を頼りにしてる。「どうしても受かりたいんです。受からなければならないんです。お願いします」と、子にも親にも頭を下げられ、郭は、家庭教師のバイトを引き受けたことを後悔していた。そのせいで、自分の勉強に支障が出るようなことはないが、とにかく気が重い。荷が重い。
 テストは終わり、真田は、古典の出来が今までになくよかった。郭のおかげだな、と思う。そのことを伝えたいんだけど、やはり連絡できない。郭は、コンビニに寄ることもあるんだけど、真田が入ってるはずの曜日に行っても、会えない。別の曜日に入ってるフリーターの人の都合で、真田は一時的にシフトが変わっちゃってるんです。真田はなんとなく、もうこのまま郭とは疎遠になってしまうような予感がしてた。必死といってもいいくらいの勢いで繋がりを作ろうとしてた(図書館とか、郭の家に行ったときとか)のが嘘みたい。いや、あのときの必死さがあったから、今は諦めがつくというのもあるかも。一方、郭は、真田にしばらく会わないと、寂しいような、物足りないような、味気ない感じなんだ。連絡すればいいって思う。バイトいつ入ってるのか聞けばいいし。でも、聞けない。聞けばいいのに。
 そんな感じで顔を合わす機会のないまま、冬休みに突入しちゃう。
 12/24の夜のこと。雪が降ってきた。郭は、家庭教師先の家の窓から、雪を見る。中三の子は、雪に気付いてない。気付いたとしても、雪なんてどうでもいいだろう。
 真田は、未だにシフトが狂ったままで、本来出る曜日じゃないけど、クリスマス・イブの夜にバイトしてる。ゴミを捨てに外に出たとき、雪が降ってきた。
(あ、雪…!
 郭は、今、どこで何してるんだろう。雪が降ってるのに気付くかな?)
 真田が、バイト上がって、店を出ようとしたときに、入店してきた客が。
「…郭!」
 郭は、ちょっと息を切らせてる。家庭教師が終わったらコンビニ寄ろうと思ってたんだけど、勉強の後で、教え子の母親から色々相談をされたりしてるうちに時間が経ってしまい、もし今日真田がシフト入ってたとしてもバイト終わって帰ってしまう…、ってことで、慌ててコンビニに来ました。
「おつかれさま。悪いけど、15分くらい時間ある?」
「えっ、うん、全然大丈夫」
 この寒いのに、近くの公園でマチカフェしちゃうよ。真田はバイト上がった後だったので、入れ替わりで入ったバイトの人がコーヒー淹れたよ。雪はとっくに止んでます。ちなみに二人ともカフェラテ。真田は郭に、紅茶もあるよって言ったんだけど、郭は真田と一緒のにした。
 ベンチに座って、二人でカフェラテを飲む。真田は、郭が何か話すのを待ってたんだけど、何も言わないので、自分から。
「期末テスト、古典、出来たよ。えい…、郭のおかげで」
 英士、って呼びそうになった。
「英士でいいよ」
「…じゃあ、俺も、一馬で」
「国語以外は?」
「あー、英語が悪かったかな…。長文が全然駄目だった…」
「そう。期末どうかなって、気になってはいたんだけど、ちょっと時間が取れなくて」
「いやいや、それはもう。気にしてもらってただけで、ありがたいというか、なんか、すみません」
 そしたら郭が、ふっと笑って。
「かたいよ、一馬」
 あっ、ほんとに、一馬って呼んだ。真田はなんか感動する。
「う、うん、そうかな? そうかも?」
「次は英語をやろうか」
「うん…ありがと…」
 あー、次が、あるんだ、って。真田は、信じられないような気持ちになる。
「あ、今日、雪、降ったな」
「そう。…一馬が、バイト先で、雪を見てる気がして」
「うん、見てた」
「行ったら、会えるかと」
「…うん」
「それで、一緒にコーヒーでも飲めたらいいかと思って。それだけなんだけど」
 真田は、なんだか頭も胸もいっぱいのような、空っぽのような、言い様のない気持ちになって、何も言葉が出てこなかった。
「遅いし、そろそろ帰ろうか」
 郭が腕時計を見た。ちょうど15分経っていた。
「うん、英士、ありがとう」
「いや、こちらこそ」
「ううん、いや、ほんとに。なんかほんとに、すごい、嬉しい」
 嬉しい、という言葉ではとても言い表せない思いなんだけど、相手には、嬉しい、としか言い様がない。
「初めてコンビニのコーヒー飲んだけど、思ったより美味しいね」
 次は俺が淹れたい、って真田は思った。淹れるといっても、ボタン押すだけだけどね。
 郭は、近くのゴミ箱に、空いたカップを捨てたけど、真田はなんとなく捨てるのが惜しくて、持って帰りたい、って思った。でも、郭に続いて捨てました。


2015年03月29日(日) コンビニネタ17

 落ち着いてないけど、続きを書いちゃう。

 日程はあっさり決まり、11月初めの日曜になったよ。真田は一応、若菜も誘ってみたけど、「勉強会なんだろ? 行くわけねー」と言われました。真田は郭に、よかったら自分ちに来てほしいって言うんだよ。こないだ郭んちにお邪魔したから、次は自分ちに呼ばなきゃって。そういうとこ、律儀なんです。郭は、図書館でいいのにな、って思ってるんだけど、断るのも何なのでOKする。どこかそのへんで待ち合わせて真田家へ。若菜から聞いていたものの、まあまあの豪邸ぶりに、郭はちょっとびっくりするよ。真田の母親に笑顔で出迎えられ、郭はややたじろぐ。いかにも優しそうなお母さんで、見た目は真田に似ていない。真田が、若菜以外を家に招くなんて、めったにないことなので、母親はとても喜んでる。一体どのようにもてなそうか悩んでましたが、真田に、「そんなに色々しなくていいから…」と不安げに言われ、「そうよね…」ってなりました。
 母の焼いたアップルパイを食べてから、真田の部屋で勉強するよ。真田の部屋は、物はそれなりに多いんだけど、整然としてる。
「すごく片付いてるね」
「そう? 郭のとこの方が綺麗にしてると思うけど」
「うちは綺麗にしてるというか、閑散としてるんだよ」
「いやいや」
 ちなみに結人の部屋は雑然としています。
 それで勉強するんだけど、郭がノートに字を書いてる様子を見て、真田はなんとなく違和感を覚える。あれ、なんだろう? …ああ、鉛筆(シャーペンだけど)の持ち方が自分とは違うんだ。今まで全然そんなの気付かなかったけど。
 手元をまじまじと見られてることに気付いた郭が、
「持ち方が間違ってるの、気になる?」
「えっ」
「なかなか直せなくて」
「いや、間違ってるのかどうか分からないけど、俺の持ち方とは違うなと思って」
 真田は鉛筆や箸の持ち方を、幼い頃にまあまあ厳しく教え込まれてます。郭は自己流です。で、自分の持ち方が違ってることを分かってる。
「真田はどう持ってる?」
「こう?」
 それで、持ち方を比べっこするんだけど、真田はなんか恥ずかしくなってきて、
「まあ、ちゃんと書けて、本人が不自由ないなら、持ち方は別にいいんじゃないか?」
「直すよ、徐々に。持ち方」
「そう?」
「真田に教えてもらうよ」
(……!)
 これは郭の気遣いなんだな、郭は優しいな、神様だな、って真田は思う。勉強みてるのを、真田が申し訳なく思わないように気遣ってる、と。実際、それは間違いではないんだけど、気遣いとか優しさとかいうより、郭なりに真田と打ち解けようとしてるだけなんです。
 真田は、郭に優しくされて、嬉しいんだけど、なんか悲しい気持ちになる。嬉しいのに、悲しいって、どういうこと? なんだか対等じゃない感じがつらいのか? いや、対等でありたいとか思ってない。優しくされて、嬉しく思って、感謝して、その感謝は受け入れてもらえるだろう。でも、それ以上の好意なら、迷惑になるだけ。それがつらいのか? そんな、色々助けてもらった上に、勉強までみてもらってるのに、これ以上何を望むというのか…。とかまあ考えちゃいつつも、古典を中心に勉強をして、時間は経過し。
「もうそろそろ帰るよ」
「うん、ありがとう、ほんとに。…よかったら、また来て」
「うん、うちにもまた来て」
 もう二度と、郭がうちに来ることがなくても、自分が郭の家に行くことがなくても、寂しいとか悲しいとか思うんじゃなくて、一度でも行き来ができてよかったと思おう。この出来事を、大切な思い出にしよう。真田は、神妙な思いになる。嬉しくて、悲しい。
 じゃあね、と言って帰路に着く、郭の背中を、その姿が見えなくなっても見送っていた。きっとまた会えるのに、これが最後な気もしていて、それがとてもつらいのに、これでよかったのだ、という思いにもなる。やたら感傷。どうして? もう答えは出てるのに、出たところで、どうにもならない。


2015年03月24日(火) コンビニネタ16

 今月末はまあまあ立て込んでおりまして、今後しばらくは日記を書けない予感です。また来月入って落ち着いたら続きを書けたらいいなーと思っております。
 それでは続きです。

 真田は、嘘みたい…、とか思いながら、帰宅しました。帰ってから、母に、若菜家も若菜の友達(郭)もクッキー美味しいと喜んでたと言うと、「ほんとに!?」と大喜びでした。郭のことは、「若菜の友達で、若菜と同じマンションのD高生」と伝えてて、実際そうなんだけど、友達の友達ではなく、友達、って堂々と言える日が来るといいな、と真田は思ってる。ついでに、名前で呼び合えたらいいな、とも。
(あっ! 連絡先、聞いとけばよかった! それにしても結人の奴…)
 なんか一言言っとこ(でも、結果的にはこれでよかったんだけど)、と思って携帯を出すと、若菜から、LINEのグループ招待がきてる。若菜と郭と真田の、三人のグループだよ。
『今日はすまん。楽しかったか?』
『郭、今日はありがとう。
 結人、今日は楽しかっただろうな。彼女とデートだって?』
『バレてるし。すまん。彼女都合で、約束が土曜から日曜になっちゃった。ちなみに、彼女とは、夏期講習で知り合った。G女(高校)の子』
『真田、こちらこそありがとう。
 結人の彼女の話はどうでもいい。あと、結人は知ってると思うけど、俺はLINEで雑談はしないのでよろしく』
『一馬、英士はこういう奴だけどいいの?』
『俺も雑談はあんまり…』
『いいよ? お前らとLINEで雑談しても面白くないから! そんで、今日楽しかったかって聞いてんのに、それは秘密なのかよ』

 翌日(月曜)、学校で。ちなみに、真田と若菜は別のクラスです。
「俺、郭に、たまに勉強教えてもらえることになった!」
「ほー、嬉しそうだな」
「嬉しいよ」
「あっそー。まあ頑張れ」
「いや、真面目な話、結人こそ頑張った方がいいよ。何しに塾行ってんの? 塾代もったいない」(嫌味ではなく素です)
「ほんと余計なお世話だから」
「同じ塾の彼女、可愛い?」
「何だよ、急に。可愛いに決まってる」
「…郭って、彼女とかいるのかな」
「あ、その問いに繋げたかったわけ。そんなん本人に聞けよ。中学んときは、意外とモテてたぞ」
「そうなんだ。やっぱり…」
「なーにがやっぱりだよ。意外だろ。小学校んときは、全然そんな感じじゃなくて、暗くて近寄りがたい的な。それが中学になったら、クールでいいみたいな。は? なんだそりゃ! 女子意味分からん!」
「結人って、変なとこで熱くなるよな」
「まー、でも、中学のときは彼女いなかったな。今は知らん。どうでもいいし。D高って可愛い子あんまりいなさそうだよな」
「普通にいると思うよ」
「D高行くくらい頭良くてしかも可愛いって、それきっと性格がよくないぞ」
「うわー、偏見…」

 帰宅後。若菜は暇があると、郭んちに雑談しに行きます。一応連絡するけど、突然の時もあり、郭に迷惑がられてる。携帯で雑談に応じないなら直接行くまでよ、ってな感じ。迷惑。郭家は、父親がいません。母親が遅くまで仕事のことが多い。郭には姉がいるが、就職して独立しています。郭は家事を大概こなせるよ。
「お前がタダで勉強みてやるなんて、すごいことじゃん」
「ついでに結人もみてやろうか」
「やだー。塾行ってるしー。お前に何かを教えてもらうということ自体やだ」
「俺もやる気ない奴に教えるのは、お金貰っても疲れるから嫌だ」
「一馬はさぞやる気がおありでしょうな」
「あるよ」
「英士と仲良くなりたいという下心もあるかもしれん」
「なんでお前はそういうことを」
「あってもいいじゃん。一馬のこと嫌なら、勉強なんてみないだろ」
「それはそうだ。嫌じゃない。嫌になるような出来事は起こってない。今後起こったらみるのやめるだけ」
「ケケケ」
「何その笑い方」
「だって英士が、クールぶって言い訳してるから。笑っちゃう。ケケケケケ」
「お前もう帰れば」
「もっと雑談しよーよー。うち、まだ晩飯できてないんだよー」
 なんとか若菜を帰らせて、郭は考える。何故こうなったのかと。図書館で真田に、話がある、と言われたとき、どうして軽く流せなかったのか。その後、分からない問題を教えてほしいと言われたときも。結局、たまに勉強みることになったし。面倒なことになったら嫌だ、と思っていたはずなのに、無下にはできない、という気持ちの方が強かった。結人の友達だから? まさか、それはない。そんなことを配慮してやる甘さも、そんなことが気にかかる繊細さも持ち合わせていない。何かの縁を感じてる? いや、妙な場面でよく遭遇するな、とは思うけど、そんな縁、正直困る。それなら、何故? 結局、多少面倒なことになったとしても構わないと思った、思ってる、ということだ。それって…。

 翌日、火曜日、真田がシフト入ってる日。コンビニに郭が来ます。ちょうど客足が途絶えてて、まあまあ暇な雰囲気のときだった。
「あっ!」
 真田は、わー! って気持ちになる。レジ袋やらの補充をしてたけど、自分は今何してるんだっけ、みたいになる。
 郭は商品を取ると、真田のいるレジに来る。
「おつかれ。額、大丈夫? 赤くなってるけど」
「あ、ちょっと赤いだけで、もう、全然、何とも」
 あー、初めて、レジする…。緊張する。でも、感動する …ん? 感動? ただレジするだけで?
「普通にできるね」
「一応、普通にできます…」
 そしたら、郭が、ちょっと笑った。
(あー…、笑った…)
 これ、どういうこと? 郭が笑って、それで、それだけで、自分はちょっと、泣けてきそうになるって。
(笑った顔、可愛いなあ…)
 なーんて。でもほんとに、可愛かったんだ。
「勉強の件だけど、またそのうち、日程を決めようか」
「……はい」
(………あー、ほんと、なんか泣きそう)


2015年03月23日(月) コンビニネタ15

 真田は覚悟を決めて、一人で行くよ。手土産は、母親の手作りクッキーです。パンにしようかケーキにしようか何にしようかと悩んでる母に、クッキーでって、真田が言った。若菜は何でも食べるけど、郭の好みが分からない。なるべく無難なものにしたかった。そもそも、母親の手作りのものを持って行くのは気恥ずかしいんだけど、張り切ってる母親に悪いし、若菜母が、真田母の作るものが大好きなんです。真田母は、パンやお菓子作りの趣味が高じて、自宅で教室を開いたりしているよ。母が、若菜家宛の手土産も持たせたので、真田は、先に若菜家に寄る。インターホンを押すと、若菜母が出てきた。
「ごめんね。一緒に英士君のとこ行くことになってたんだって?」
「あ、一馬だ! なんか美味しいの持って来た?」
「こら!」
 まあまあ年の離れた若菜の弟(小2)も出てきた。若菜には、姉と弟がいます。
「あ、これ、皆で食べて下さい」
「うれしい! ありがとう!」
 弟にも、食べてな、と笑顔で言う。
「やったー! お母さん、今食べたい、すぐ食べたい!」
「後でね。一馬君のお母さんの作るお菓子は、ほんと美味しいもんね」
 若菜は、若菜の姉とそっくりで、二人とも母親似なんだけど、弟は父親似で、若菜にはあんまり似てない。弟は、人懐っこく、素直で、兄(結人な)のように、要領がいい感じではない。結人が小さいときと全然感じが違うな、と真田は思ってて、弟のことを可愛いと思ってる。こんな弟ほしいな、と思うこともある。真田は一人っ子だよ。
「あ、兄ちゃん、今日、彼女とデートだって」
「…へー、そうなんだ」
 そういう理由なんだ!? 彼女の話とか、全然聞いてないけど。
「もー、それって、言っちゃっていいやつ? まあいっか。ほんとごめんね、一馬君!」
「いえいえ…。ところで、郭君のお宅は、1103で合ってます?」
「ん? うーん、多分! そんな感じ!」
 えっ…。一階には、部屋番号の一覧はあったけど、名前はなかったから、不安なんだけど。真田の心配を読み取ったのか、「ちょっと待ってね! 確認してくる」と、一旦中に戻り、しばらくしてから戻って来る若菜母。
「合ってたよ! いってらっしゃーい」
「バイバイ、一馬!」
 早めに着いたので、まだ時間に余裕がある。5階から11階まで階段で上がることにした。
(い、意外としんどかった…)
 約束の時間まで、まだ間がある。10分も。しばらく待とう。はーー、緊張する。…どうしよう。どうしようって、ここまで来といて、どうしようもこうしようもない。しばらく待って、インターホンを鳴らすだけだ。でも、どうしよう…。あ、9分前。って、1分長っ! 一旦、一階まで戻ろうか。いや、それもなあ。…中の音、聞こえるかな? いやいや、まさか。なんやかんや考えつつ、ドアに耳を付けようとしたとき(もはや不審者)、
 ガチャ、と、ドアが開き、
 ゴンッ、真田の額にドアが当たってしまいましたとさ。まあまあなぶつかり具合だったよ。真田は、衝撃で、クラっとした。
「!!」
 大概のことでは動じない冷静な郭だが、予想外の出来事に動揺した。郭は、一階に降りて真田を待ってようと思ったのです。若菜家に寄ることは知らなかったよ。
「ごめん! 大丈夫!?」
「だ、大丈夫…」
 二人共、うろたえながらも、とりあえず中に入り、リビングへ。真田は、痛む額を押さえながら、綺麗にしてるな…、と郭家について思います。綺麗にしてるというか、物が少ない。モデルルームみたいに、生活感がない。若菜家と同じ間取りとは思えない。
 郭がすぐに氷嚢を用意して、真田に渡す。
「ありがとう」
「ごめんね。確認せずに勢いよく開けたからこんなことに…」
「いやいやいや、俺が悪いので! こちらこそごめんなさい…」
 ドアに顔近付けてたから…。
「ほんとに大丈夫?」
「うん、全然大丈夫」
 恥ずかしいし、情けないし、申し訳ないんだけど、このアクシデントのおかげで、何を話せばいいのか分からずシーンとなる…という事態が避けられ、間が持ったぞ。とか、ポジティブに考えてみたところで、気まずいことに変わりはなく。
「あっ、これ、よかったら」
 手土産を渡すのを忘れてた。
「気を遣わなくていいのに。でも、ありがとう。…手作り? お母さんの。結人から聞いたことあるよ。お母さん、教室開いてるんだってね」
「いや、うん、最初は趣味でやってただけなんだけど、いつの間にかそんな感じになっていたというか…」
 郭に何を飲むか聞かれ、真田は、何でも、と答える。
「コーヒーか紅茶かお茶があるよ」
「郭と一緒でいいよ」
「俺は紅茶にするけど」
「じゃあ俺も紅茶をお願いします」
 それで、紅茶を飲みながら早速クッキーを食べます。郭が美味しいと言って食べるので、真田はホッとする。
(甘いもの、食べるんだ…)
 旨辛豚キムチ味のカップ麺のせいか、辛党のイメージがついてた。辛いのも甘いのもいける人もいるが、どうも郭がお菓子を食べてる様子を想像できなかった。でも、今、真田の目の前で食べてる。お互いやっと、人心地ついた。
「あっ!」
 大事なこと言うの忘れてた。
「何?」
「図書館で教えてもらった問題と似たようなの、テストで出た! ほんとに出たからびっくりした。もちろん、郭のおかげで、解けたよ。ありがとう!」
 真田が、ちょっと興奮気味に、ほんとに嬉しそうに言うから、郭はなんとなく気圧されて、でも、正直悪い気はしないし、胸が少し温まるような感じがして。
「どういたしまして」
「…あの、実は、俺…」
 何を言われるんだ? と、郭は少し身構える。
「数学より全然、国語と英語が苦手なんだ。特に国語、っていうか古典が」
「…うん」
 なんだ、勉強の話か、と郭はホッとする。
「それで、ちょっと今から教えてもらうことできる? 中間テストなんだけど。古典、ほとんど点が取れなかった。解答見ても、なんかピンとこないし、先生に聞きに行くにしても、うちの古典の先生の授業、分かりにくくて…」
 郭の返答を待たずに、真田はバッグから、テスト問題と答案やらルーズリーフやらペンケースを取り出して、机に置き始める。そして、ふと、
「あっ、ごめん、俺、なんか、勝手に。迷惑?」
「いや、勉強熱心だな、と思って」
 D高生に言われると、なんか嫌味だけど。
「えっ、いや、そういうわけでは…」
「いいよ。俺も古典は出来る方じゃないから、お役に立てるかどうかは分からないけど、一緒に考えるよ」
 真田の国語のテストの答案は、古典が見事に☓だらけ。
(答案見られるの、なんか恥ずかしいけど、学校違うし、教えてもらうんだから仕方ないな…)
 この古文どう解釈したの、と聞かれ、真田の考えた訳を話すと、斬新だね…、とか言われました。ちなみに、漢文はもっと斬新な解釈をしてました。まあまあな時間をかけ、郭に古典を教えてもらいます。真田は、古典が嫌いなんだけど、ちょっと面白いかも? という気になってくる。
「なんか、分かってきた!」
「それはよかった。俺も勉強になったよ」
 あ、優しい。これは、気を遣ってくれてるんだな。この優しさに、甘えちゃいけない、もう迷惑かけちゃいけない、いい加減にしろって思われたくない。なのに…。
「郭、ちょっと、俺、お願いがあるんだ。結人から、中三の家庭教師してるって聞いたんだけど、同学年の、つまり、俺の家庭教師をしてもらうことってできる? 週一でとか、何曜日の何時とかじゃなくて、都合が合うときだけでいいんだ。当然、時給払うよ。俺の、バイト代で。なので、お願いします。…あ…、もちろん、無理なら、断ってくれていい、です」
 郭は、顔には出さないものの、気圧されている。真田があまりに一生懸命に言うから。ほんとはこんなお願いができるような人じゃない、相当な勇気を出して言ってる、というのが伝わってきて、たじろいだ。
「…結人からどう聞いてるのか知らないけど、家庭教師というか、近所の子の受験勉強の手伝いをしてるだけだよ。その子の志望校がD高だから役に立てるかなと。それで、親の知り合いで、個人経営の塾をやってる人がいて、その人を通して契約してるから、時給が発生してる、という。か、」
 一馬、と言いかけて、一瞬止まった。若菜がいつも、一馬、って呼ぶから、うつっちゃうんだよね。
「真田からお金を貰って勉強を見るというのはできないよ」
 じゃあ、うちの親がその塾と契約すれば問題ないってこと?
 と、真田は思ったが、それなら郭はそう言うだろう。できない、と言うのなら、できないのだ。落胆よりも、やっぱり…、という気持ちが大きかった。
「…そうだよな、無理なこと言ってごめん…」
 言わなきゃよかった、と思ってる? 郭を困らせただけだし。それはもちろん思ってる。でも、言ってよかったと思う気持ちもある。無理でも、駄目でも、迷惑でも、一応言ってみてよかったと。こんな…、こんなタフさが、自分の心にあったなんて。
「契約とか抜きで、こうやって、たまに一緒に勉強するのでいいなら、問題ないよ」
「…………えっ!」
 そんな、それって…。
「たまには人と一緒に勉強するのもいいかもしれない」
「ほんとに!?!?」(まあまあ大声)
「うん。
 クッキー、美味しかったしね」
(……!)
 甘いもの、嫌いじゃないんだ。それとも、社交辞令? でも、それでもいい。
「また何か持って来るよ」
(お母さん、ありがとう。そしてまたお願いします!)


2015年03月21日(土) コンビニネタ14

 読んで下さってる方、ありがとう。メッセージ下さる方、ありがとう。圧力なんて感じてません(笑)元気が出ます、ありがとうございます。20回で終わらせるのが目標だったんですが、もう少し延びるかも。でもまあ25まではいかない。だから、もうしばらく続くけど、そのうち終わります。お付き合いくださる方はどうぞよろしく。普通の日記もそのうち書くよー。

 では続き。
 分からない問題があるというのは本当です。さっぱり分からんのではなく、理解が難しい、という程度の分からなさ加減だけど。真田は、数学は最も得意です。苦手なのは、英語と国語で、英語は、他の教科に比べたら苦手、という程度なんだけど、国語が、古典がさっぱりです。分からなさすぎて、郭になんてとても聞けない。まあとにかく、数学の問題を一問、教えてもらいました。真田は、大変緊張していたので、説明がちゃんと頭に入ってくるか心配していたけど、大丈夫だったよ。
 さすがにお腹が空いてきたので、真田は帰ることに。郭は、もう少ししてから帰るとのこと。恐縮しつつ丁寧にお礼を言って、真田は帰る準備をする。
 別れ際、
「真田」
 郭に真顔で呼ばれたので、何を言われるのかと、ヒヤヒヤする真田。
(もう今後はこういうのは勘弁して、みたいに言われるのかも? 言われても仕方ないけど…)
「さっきの問題だけど、似たようなのがテストに出るかも」
 それ、予言!? やっぱ神様!?
「…あ、うん、…出るといいな」
 
(はーーーー)
 図書館を出たら、やっとまともに呼吸ができた。それにしても、お腹が減った…。お腹はペコペコだけど、胸はいっぱいです…なーんて。
 それで、テストなんですが、実際、似たような問題が出たんです。郭の言う通り。真田は、その問題を見たとき、あっ、と声が出そうになった。かなりテンション上がった。もちろん、ばっちり解けました。
(また助けられちゃった…)
 そしてテスト期間は終わり、英語と国語以外は手応えあり。明日は早速バイトだよ。郭、来るといいな。あの問題出たよって、言いたいなあ。
 翌日、残念ながら郭は来ませんでした。

 ある日、学校で、若菜から、
「日曜はシフト入ってないよな」
「人手不足のときは頼まれることもあるけど、基本、火・木・土」
「この日曜は?」
「入ってない」
「じゃ、暇だな。英士んち行くから、お前も来いよ」
 暇って決め付けてるし。まあ暇なんだけど。
「…それは、郭の了承を得てるのか?」
「英士でいいよ。そりゃ得てるだろ、普通。英士んちなんだし」
「俺も来ていいって言ったんだ?」
「もちろん」
「じゃあ、行く」

 若菜は、帰りに、マンションのエレベーターで、郭と一緒になる。
「お、ちょうどいいとこに」
「何」
「日曜、お前んち遊び行くわ」
「何しに? いいけど」
「お菓子とか、何も用意しなくていいぞ」
「何それ。しないよ」
「俺もしない。一馬が持ってくるだろうから」
「…真田も来るの?」
「一馬な。来るよ。問題ある?」
「問題はないけど、何で事後報告なの?」
「問題ある?」
「あるよ。それ言いたいだけだろ」
「お、着いた。じゃーな!」
 若菜家のが下の階なので、先に降ります。

 前日になって、若菜から真田に連絡が。
『すまん、一馬、明日、俺は行けんくなった。お前だけで英士んち行って。1103号室なのでよろしく』
 えー!! ちなみに若菜は、503です。間取り一緒。
『じゃあもう、また今度にしようよ。明日でなくていいだろ』
『もう英士には、一馬だけで行くって伝えてる。いいってよ』
 さっき、若菜は、わざわざ郭の家まで行って直接伝えた。そしたら郭に、真田と同じく、また今度にしたら、と言われたが、「一馬、楽しみにしてるのに可哀想じゃん。手土産だって用意してるぞ」で押し通したよ。これは、若菜の企みではなく、ほんとに行けなくなっただけなんです。若菜は、土曜に予定があったんだけど、それが日曜に変更になってしまったんだ。


2015年03月20日(金) コンビニネタ13

 今日は珍しく日記に書くようなことがある日だったので、たまには普通の日記を書きたいんだけど、今日もネタなんです(なんで…?)PC開く間ができたら、ネタは日記とは別にしたい…。というか、はよ終わらせたい(素)もういいって気になってきた(素)
 以下続きです。
 そうこうしているうちに、中間テスト間近です。真田は、常々、授業の復習やらを自宅学習しておりますので、テストだからって慌てたりしないよ。って、すごいな。そんな高校生もいるんだな。テストが迫る休日、クラスの友人何人かで、図書館で勉強するかってなって、誘われる。真田は、一人で家でやったほうが進むんだけどな、と思いつつも、嫌だと感じる程でもないので、行くことに。真田、クラスに友達いたんだね。よかったね。
 入館して、すぐ気付いた。あの人(郭)がいることに。相変わらず、淡々とした様子で、机に向かっている。勉強してるんだろうけど、あまりに涼しい顔をしているので、雑誌でも眺めているように見える。そういえば、コンビニで会ったときもいつも、淡々としていた。何でもない様子で、道を教える。地図を描く。お釣りを拾う。渡す。カップ麺を拾う。それを買うと言う。何食わぬ顔をして。もしも、愛想よく微笑んでいたなら。きっと真田は、大きく気後れしてしまう。今でも充分、気後れしてるけど。
(ああ…)
 真田は、ため息をつく。また、会ってしまった。嬉しいのか、困惑なのか、どっちでもないのか、どっちもなのか、自分の気持ちが自分で分からない。でも、また、会ってしまったのだ。
 真田は、全然勉強に身が入りません。郭とは離れた場所に座っているので、郭の姿は見えないし、郭からも見えないし、それについては安心しているけど、郭のことばかり気になってしまう。真田の席からは出入り口が見えるので、郭が出て行かないかと、図書館の自動ドアが開閉する度に、目をやってしまう。
(あああ……)
 仲間内で、もうそろそろ出るか、ってなった。腹も減ったしな、と言われ、もうそんな時間かと時計を見る。いつのまにか昼前だった。結局全然勉強できなかった。
 このまま、帰るのか。まだあの人が館内にいるはずなのに。
「ごめん、俺は、もうちょっと残って、キリがいいとこまでやってから出る」
 言うのに勇気がいることだったが、思わず言っていた。
「おー、さすが。真田は賢いもんなー」
 冷やかすような調子ではあったが、特に気にした様子もなく、他の友人達は、またな、と言って出て行った。
 つい、自分だけ残っちゃったものの、ほんとにあの人、まだいるのか? 出るのを見逃してしまってて、もういないかも。でも、それがどうした? それならそれで、仕方ない。また今度、改めてお礼を言おう。また今度っていつ? 毎度そう思って、未だに言えてない。今日言わなければ、きっと、もう言えない。そんな気がする。
 真田は、小学生時代に、言おうと思ったことを言えずに悔いたこと(多分両想いの女子がいて、その女子は、真田に対して率直だったんだけど、真田は素直になれなかった。そして、女子は引っ越してしまった。)があり、そのことをふと思い出したりもした。
(よし、いるかどうか見に行って、いたら、言いに行こう。その前に、トイレに行って、ちょっと落ち着こう)
 それでトイレに入ろうとしたら、トイレから出てきたあの人と鉢合うっていう。
「「あっ」」
 お互い驚いて、少し止まった。
「偶然だね。テスト勉強?」
 先に口を開いたのは郭だ。
「あ、はい」
「そう」
 じゃあ、と真田の横を通り過ぎようとする郭を、
「あの!」
 と呼び止める。自分の声が、図書館中に響いている気がしてしまう。館内は、決して騒がしくはないが、人々の話し声や足音が、うるさいほどではなく聞こえていた。さっきまでは。なのに今は、シーンとしているように感じられる。言えるのか。今、ここで。トイレの前だけど。いや、トイレの前とかそんなの関係あるんだろうか。
 郭が、何、と目で問うている。
「お忙しいところすみませんが、ちょっとお話が…」
 堅苦しい…。
 郭が答えるまでに、少し間が合った。
「ちょっと休憩しようと思って。ロビーに行くから、そこででいい?」
「あ、はい」
 ロビーに向かおうとする郭に、真田がついて行こうとするので、
「トイレは?」
「…行きます…」
「じゃ、後で」
 トイレから出た真田は、ロビーに続くドアの前で深呼吸する。まあまあ大きな規模の図書館で、ロビーもそれなりに広いし、人も多い。すぐに見つかるかな。
(いた…)
 すぐ見つかった。何故なら、出てすぐのとこにいたから。すぐ分かるように、そこにいてくれたんだろうか。さっさと終わらせたいから?
 郭は、ペットボトルの水を飲んでいる。近々、真田は、同じ水を買って飲むだろう。そんな自分は何か恥ずかしい。
 真田は、緊張しながら、郭の隣に座る。言えるだろうか。不安だった。でも、口を開けば、意外とあっさり言葉が出てきた。
「あの、何か色々と、度々、すみません。そして、ありがとうございます。道を教えてくれたことから始まって、お釣りを拾ってもらったり、カップ麺を拾ってもらったり。ご迷惑をおかけてして、すみませんでした。ありがとうございます。なかなかちゃんと言える機会がなくて、気になってて…」
 言えた。ぎこちないけど、言えた。
「たまたまそこに居合わせただけだから、気にせずに」
 郭は、何でもないように言った。
 たまたま、そこに、居合わせただけ。実際その通りなんだけど、三度も。三度とも助けられた。自分にとっては、きっと幸運で、何かの縁を感じている、感じたい、でも、相手にとっては、きっと不運で、もういいよ、いい加減にしてくれよ、って感じなんだろう。それとも、そんな感じすらなかったり? 特に何も感じてないとか。何でもないのかも。どうでもいいのかも。
「テスト期間はバイト休み?」
「はい」
「敬語やめない?」
「えっ? ああ、つい。お客さんだから」
「店の中じゃないし、同学年だし」
「うん」
「話はこれで終わり?」
「はい、いや、うん」
「じゃあ、バイト頑張って。あと、中間も」
 そろそろ戻るよ、と言って立ち上がる郭。
 ああ、行ってしまう。そりゃそうだ。でも、まだ行かないでほしい。ほんとに? 近くにいると、緊張して、息が詰まるのに? でも、ここで終わったら、これだけになってしまう。店員とお客さんというだけ。たまたま同い年で、共通の友人がいたというだけ。何度かお客さんに助けられたけど、たまたま居合わせただけ。そして、たまたま、図書館で会っただけ。…どうしよう。どうにかしたい。どうにか先に、繋ぎたい。今、自分で、何とかしたい。…ほんとに?
「あの!」
 まだ何かあるのか、と、さすがに不審に思うだろうか。でも、静かにこちらを見返す郭の表情からは何も読み取れない。
「俺、ちょっと、分からない問題があって、数学なんだけど。それで、もし、よかったらなんだけど、教えてもらえたらありがたいと」
 まじでか。よくこんなこと言えたな。真田は自分で自分にびっくりしていた。迷惑だって分かってる。図々しい。引くかな。引いてる?
 真田が、謝って前言撤回しようとしたところで、
「いいけど。俺に分かる問題なら」
(……神様……!)


2015年03月19日(木) コンビニネタ12

 土曜日、今日のシフトは、早朝から昼までだ。真田は、早出が好きだった。6時からの勤務で、5時に目覚ましをセットしていたが、目覚ましが鳴る前に目が覚めた。早い時間なのに、外はもう明るくて、犬の散歩をしている人もいれば、通勤中らしき人もいて、一日は動き出している。自分の一日も動き出してる。
(時間あるし、今日は歩いて行こう)
 あ、いつもは自転車です。

 あまり忙しくないまま、午前中が終わろうとしていた。いつも納得いかないのは、客が少なくても、すぐにゴミ箱がいっぱいになることだ。家庭のゴミが普通に入ってる。でももう、それにも慣れてしまった。
(上がる前にゴミ捨てとこ)
 それで、ゴミをまとめていたら、
「おーおー、頑張っとるねー。飲みかけの缶コーヒー、そのままポイしていい?」
 それ、一番嫌なパターン。
「ゆう、」
  振り返ると、結人の後ろに郭がいて、言葉に詰まってしまう。
「おつかれさま」
「あ、どうも…、こんにちは…」
 何故ここで、こないだはありがとうございます、と、さらっと言えない。もう、気持ちが深くて、そんな簡単には、ありがとう、が言えなくなってる。言わなきゃなんだけど。
「お前、何時まで?」
「12時。もうすぐだけど」
「ふーん、じゃ、これからうち来ねえ? なんか適当に買って、うちで食おうぜ」
 (それって、三人で、ってことだよな? そんな、急に言われても…。心の準備が…)
 真田は動揺する。郭は郭で、結人の提案にちょっとびっくりした(聞いてないから)けど、それは顔には出ない。
「いや、俺は、ちょっとこの後、用事があって…」
「ふーん、そー。ざーんねん。じゃ、また今度な!」

 バイトからの帰り道、真田は後悔する。咄嗟に断ってしまったけど、「うん」って言えばよかったかも。行けばよかったかも。でももし、もう一度あの場面になっても、思わず断ってしまう気がしてる。

 その後、若菜と郭の会話。
「あいつ、嘘つきやがったな。用事なんかないくせになー」
「あるかもしれないじゃない」
「いやいや、ないない」
「急に言うからだよ」
「あえての急にだぞ。事前に言っといたら、聞いたときからずっと緊張してそうだもん」
「結人の提案に、俺もちょっとびっくりしたよ」
「でも別にいいだろ? 一馬も呼んだってさ」
「俺は別にいいけど、急に言うから」
「いいじゃん。友達になってやれば。あっちはお前のこと、神様だとか王子様だとか言ってたぞ」(王子様なんて一言も言ってない)
「それはちょっと怖いよ」
「確かに(笑)」


2015年03月18日(水) コンビニネタ11

 ある平日の夜、真田が、カップ麺の品出しをしているとき、
(もうちょい詰めれるか)
 なるべく多く陳列しようと詰めてたら、
(あっ、無理だった!)
 カップ麺が一つ、棚から飛び出して落ちちゃう。丸いから転がるし。
「あっ」
 そしたら、そうです、また、あの人に、郭に出くわしちゃう。落ちたカップ麺を拾って、見つめる郭。郭が見つめているのは真田じゃなくカップ麺だよ。新製品です。旨辛豚キムチ味。
(もう、何でこういう場面ばっかり…。でもなんか、こんな予感がしてた…ような?)
「…すみません!」
 真田は、カップ麺を受け取ろうと手を伸ばすが、
「買いますので」
「えっ、あっ、そうですか? でしたら、こちらの、落としてない方を」
「別にこれでいいです」
「えっ…でも」
 ほんとにいいですから、と言い残して立ち去ろうとする郭に、
「あの、すみません! 若菜結人から聞いてます。真田一馬と言います」
 真田は、思わず呼び止めて、いきなり自己紹介とかしちゃう。
「結人から聞いてます。郭英士です。それより、(レジを指差し)お客さん」
「あっ」
 慌ててレジに駆けてく真田。
 そして、やっぱり、郭はいつの間にか、隣のレジで会計を済ませて出てってる。
(またこのパターン…。カップ麺似合わない…。しかも旨辛豚キムチ味…)
 そして、また、お礼言えてないですよ。ちなみに、郭は、家庭教師のバイトの帰りです。
 二度あることは三度ある。真田は何か、運命的なものを感じてる。郭は、ますます、「ほんとにこの人は大丈夫なのか」って思ってる。真田は帰り道、郭のことばかり考えてしまう。 
 もしも、もしもだけど、あの人が女の子なら、または、自分が女の子なら、これは、恋と呼んでも差し支えないのかもしれない。でも、そうじゃないから、この気持ちは、感謝、尊敬、憧れ、…好意…。でも一番は、申し訳ない、って気持ちだけど。
 次会えたら、今度こそ、ちゃんと、ありがとうって言わなきゃ。
 郭が買ってったカップラーメン、真田も買ってみた。そして後日、食べた。辛いというより、味が濃くて、美味しいとは感じられなかった。無理して食べきったのに、不思議な満足感がある。あの人も、これを、自分と同じものを食べた(食べる)のだろうと思うと。


2015年03月17日(火) コンビニネタ10

 夏休み明けテスト、真田はとてもいい成績だったよ。真田は夏休み中、バイトだけでなく勉強も頑張ったのだ。本当はE高よりも偏差値の高い高校に行きたかった。でも、自信がなくて諦めた。それをまあまあ悔いている。若菜と同じ高校なのは嬉しいんだけどね。大学受験はもうちょっと頑張るぞ、という気持ちでいる。高一の夏からそんなことを考えているなんて、真田は真面目で偉い子ですね。休みが終わったので、真田のシフトは変わります。土曜は日中、平日は週一か二で、学校が終わってから夜まで。平日は、入れ替わりのときに会ったことしかない人達と一緒に入るので、緊張してたんだけど、全然大丈夫でした。大人しそうな男子大学生と、フリータの若い女の子なんだけど、二人ともちゃんとしてるし、優しかった。
 9月初めの土曜日、真田がもうすぐ上がる時間になって、ゆうパックを持ち込んで来たお客さんが…。
「あーっ、結人!」
「若菜くん、久しぶりー」
「Cさん、どうも! ゆうパックを一馬にやらせようと思ってな。昨日、近所の郵便局に持ち込もうとする親を引き止め、わざわざここに持って来てやったぞ、わっはっはっ」
(ゆうパックなんか、何回もやってるし…)
 でも、苦手な処理であるのは確かだ。若菜は単に、面倒だから嫌いなんだけど、真田にとっては、面倒というより、荷が重く感じられて、嫌いなのだ。それは、収納代行(支払いのこと)も同じだ。実際、本当に荷が重い。間違いがあったら大変だ。
 迷いなくレジを操作して、ゆうパックを受け付ける真田の様子に、若菜は感心。
「なんだ、できるじゃん」
「できます」
「さて、なんか冷たいもんでも飲もうかな。店員さん、何がオススメ?」
「俺はアイスカフェラテが好きです」
「じゃあアイスカフェモカで!」
「お砂糖はお入れしますか?」
「お入れしないで。モカ美味しいよねー」
「決めてんならオススメ聞くなよ」
「アイスラテもちょーだい」
「シロップは? 持ち帰りの袋に入れるよな?」
「袋いらん。ラテはお前のだから、シロップは好きにして。奢りだから喜べ。もう時間とっくに過ぎてんじゃん。出てくるの待っとくから、近くで飲もうぜ」
「時間過ぎたの誰のせいだよ。ラテありがと!」
 そんなわけで、バイト上がった真田と若菜は、近くの公園のベンチでマチカフェです。
「お前、普通にできてるな。安心したわ」
「心配してた?」
「するだろ、そりゃ。初日ひどかったもん」
「心配してた割には、今日初めて来たな」
「あ、すぐに来てほしかった? しょっちゅう来てほしかった? すまんすまん、夏期講習とかで忙しかったんだもん」
「来られたら迷惑だってことが、今日よく分かった」
「そういや、こないだ、お釣り、すっ飛ばしたらしいな」
「…! あれは、手が滑って…、って、何で知ってんの!?」
「英士から聞いた」
「誰だよ」
「前も言ったけど、同じマンションの奴。お前が転がしたお釣り拾ったの、そいつ」
「D高の?」
「そうそう」
 まさか…そんな…。
 って、真田は思ったけど、まあ、そりゃそうだよね、郭だよね、お約束。むしろ、これで郭じゃなかったら、それこそ、まさかそんな、だよ。
「F病院の道案内の話も聞いた?」
「あー、お前、道説明出来なくて、テンパってたんだろ」
「テンパってはいない。困ってたんだ」
「まあとにかく、お前は心配されてたぞ? あいつは大丈夫なのかと」
(大丈夫なのか、とか心配されてたんだ…。まあ、そうだろうけど…)
「ここからD高近いからな。たまに寄るんだよ、英士。俺がバイトしてたときも来てたわ。冷たい奴だから、俺がレジにいても、隣のレジで払って出て行くんだぜ。どう思う? 労いの言葉くらいかけろって」
 道を教えてくれ、お釣りを拾ってくれた「あの人」と、結人の言う「えいし」が繋がらず、真田はなんだか混乱してしまう。
 ところで、郭は、真田が若菜の友達で、バイトの後任だって、知ってました。若菜から聞いてたので。それで、真田の様子を見て、「大丈夫なのか?」と普通に心配になっていた。
「結人、俺、道を聞かれて、上手く答えられなくて、そしたら、お客さんがすごく不安そうで、困ってて、で、どうしようって。そしたら、あの人…、結人の友達が、」
「英士」
「うん、その人が、助けてくれて、俺、大げさだけど、神様…、みたいに見えたんだ」
「大げさだろ」
「そうなんだけど」
「俺だって、知ってたら道くらい教えるぞ。地図までは描かねーが」
 地図を迷いなく描く、その様子が、遠目だったのに鮮やかに思い出される。心に深く残ってる。地図を描いてるのを、間近で見たかった。とか、そんなんだから、タバコ取り間違えるし。お釣り転がすし。
「紹介して下さいとか言っちゃう感じ?」
 若菜がにやにや笑ってる。
「…ううん、言わない感じ」
 だって、わざわざ紹介してもらって、会って、何を話す? お礼を言いたいけど、それ以外に何を? 何もない。格好悪いとこばかり見られてますが、俺は普段は結構ちゃんとしてます、とか、言い訳でもするのか。自分はコンビニのバイトで、あの人は客で、このバイトは大丈夫かって思われてる。若菜という共通の友人がいるけど、若菜に繋いでもらうのは、何か違う気がしてる。
「ふーん、まあいいわ。また店行くし。俺も、英士も」
 ちなみに、若菜の夏休み明けテストは、散々でした。夏期講習行ったのに。夏期講習では、いい出会いがあったようだよ。若菜は、今後も塾に通うことにしました。


2015年03月16日(月) コンビニネタ9

 続き。
 あの人(道教えてあげたD高生な。実際D高かどうか分からんけど、真田はほぼ確信してる)にまた会えないかな、とか思ってるうちに、夏休みもそろそろ終わりです。真田は、高一の8/31をバイト先で迎えている。宿題は計画的に終わらせたし、夏休み明けテスト対策も一応できてる。毎年夏休みには家族で旅行に行くことになっていて、今年も行ったが、既に記憶がおぼろげだ。家族の恒例行事になっているし、両親が乗り気なので、自分も楽しそうにしているが、そんなに楽しいとは感じていなかった。でもこの夏は、割といい夏だった。初めてのバイト、無理って思ったけど、そんな無理でもなかった。そのことが、こんなに嬉しいなんて。夏休みが終わる。9月以降はシフトが変わる。まだまだ暑いけど、夏は終わりに近付いてる。そんな真田の思いなどに関係なく、店はいつも通り、昼時のピークを迎えようとしていた。真田は、レジをしながら、「ちょっとだけなら結人の気持ちが分かるかも」と思った。忙しいと快感、というの。早くしなければならない。間違えてはならない。そして自分は、なんとかそれをやれるだろうという見込み。
(あっ、あの人…!)
 隣のレジに、あの人がいるのが見えた。こないだ、道を教えてくれた学生だ。こっちのレジに来てくれたらよかったのに、という真田の思いも虚しく、学生は会計を終えそうだ。隣のレジを気にしているせいで、手元が疎かになってしまった真田は、釣り銭を渡そうとしたときに、客とタイミングが合わず、十円玉が、客の手からすり抜け、台の上を転がり、床に落ちて、出入り口方向に向かって転がり続ける。
「あっ…!」
 真田は慌てて、レジから出ようとする。客も硬貨を追いかけようとする。十円玉は、隣のレジで会計を終え、店を出ようとしていた学生の足元へ。彼は、屈んで硬貨を拾い、すぐ近くまで来ていた客に渡した。「あ、どうも」、と客が受け取る。「申し訳ありません!」という、真田の謝罪が聞こえていたかどうかも分からないまま、真田が対応していた客も、学生も、何事もなかったようにすっと店を出て行った。ああ、もう…、なんて落ち込む間もなく、次の客に対応する。
 十円玉が、真田の代わりに、あの人を追いかけてった? でも、引き止められたのは一瞬だけ。
 もうすぐバイトが上がる時間。客は少なく、店内は静かだった。Cさんは、のんびりしたペースで品出ししている。
 Bさんが、発注しながら、真田に話しかけてきた。
「9月からは、シフト変わるね。真田くん、土曜と、平日入れる日は夕方からでしょう? 私は、平日は夕方までだし、土曜はこれからはあんまり入らないつもりなの。どうしても人がいないときは入るけどね。これからも、頑張ってね。でも、無理はしないように。新しい人も入るみたいだから、シフトが一緒になったら、色々教えてあげてね」
 色々教えてあげてって言われても、真田はまだ入って一ヶ月ちょっと。まだまだBさんに色々教えてほしいことがあるのに。Cさんから少し聞いた話では、Bさんの親の調子が悪いらしく、今後はなるべくシフトを減らしていくつもりらしい。Bさんがあんまり出られなくなったら、この店はどうなるんだろう。自分は、誰を見本にすればいいんだろう。真田の不安が伝わったのか、
「真田くんなら大丈夫」
 と、Bさんは微笑んだ。
(なんで…)
 たった一ヶ月ちょっとの間、といっても毎日ではなく、週三で一緒にシフトに入っていた人が、自分を認め、励ましてくれる。それが社交辞令でも、尊敬しているBさんから言われて、真田は嬉しかった。でも、なんとなくしんみりしてしまう。
(Bさんのお父さんかお母さんか分からないけど、早く元気になるといいな…)
 それで真田は、若菜に感謝しようと思った。もし若菜に頼まれなかったら、コンビニのバイトなんて絶対しなかった。しんどいこともあるけど、始めてよかった。
(あの人…)
 そう、あの人。道を教えてくれて、お釣りを拾ってくれたあの人。またお礼を言えなかった。
 でも、また会える気がしてた。次は、慌てたりミスしたりしてる場面じゃなく、普通にレジで相対したい。


2015年03月15日(日) コンビニネタ8

 重い気持ちでバイトから帰った真田を、母は笑顔で迎える。
「どうだった?」
「まあまあ大変だったよ…」
「でしょうね」
 夕飯は、真田の好物ばかりだった。父親はいつも帰りが遅いので、後から食べます。母はバイトのことを深くは聞かず、それが救いだった。「無理して続けることないのよ」なんて、今言われたら、もっと落ち込んでしまう。
 さてさて、初日はどうなることかと思いましたが、なんやかんやで、徐々に真田は慣れます。慣れる経緯ネタなんかも色々考えてたんだけど、そういうのをいちいちやってたら、なかなか話が進まないので、そのへんは省くことにしたよ。最初、真田は、ベテランのBさんのことが怖かった。すごくテキパキしてて、何でも教えてくれるが、一度教えたことが次に出来ないと、きつく注意される。自分に厳しく、率先して動くが、他人にも多くを求める。オーナーに信頼されているのも頷けるし、立派だけど、こういう人は苦手だ…と真田は思っていた。一方、Cさんは、のんびり屋で優しい。真田が同じ失敗をしても、「大丈夫大丈夫」と言う。真田が、Bさんに度々注意されて落ち込んでると、後でそっと、「Bさんは、言い方はきついときもあるけど、いい人だから。慣れるまでしんどいだろうけど、頑張って」と励ましてくれる。だけど、働いているうちに、二人に対する考えが少しずつ変化してきた。Bさんは、Cさんの言う通り、仕事に対しては厳しいけど、いい人だ。真田が自分から動けば、必ず褒めてくれる。真田の頑張りを、ちゃんと見つけて、認めてくれる。いつも誰よりたくさん動いて、全体を見渡して、先々のことを考えて仕事をしているBさんを、真田は心から尊敬した。Cさんは、優しくて穏やかなんだけど、自分からはあまり動かない人だった。面倒なことやしんどいことは、なるべくしないで済むようにしているように見えた。もし一日二日でやめていたら、「Bさんは仕事は出来るけどきつい人。Cさんは優しい人」という印象のままだっただろう。すぐにはやめなくてよかった、と真田は思っていた。仕事自体も、最初は何が何だかさっぱりだったが、レジにも慣れたし、掃除も品出しも、さっさと出来るようになってきた。まだまだ分からないことや不慣れなことはいっぱいあるけど、最初の方とは全然違う。出来なかったこと、出来ないと思っていたことが出来るようになってくるって、すごく嬉しいことなんだ、と感じていた。大体一ヶ月くらいで慣れてきたようだよ。慣れてきたなって感じていたら、Bさんに「いい子が入ってよかったわ」と言われ、じーんとした。
 そんなある日のこと。なんとなく不安そうな様子で、六十代くらいの女性が店に入って来る。レジにいた真田と目が合うと、救いを求める顔になった。何かと身構えたら、道を聞かれたんです。F病院まではどうやって行ったらいいでしょう、と。道を聞かれることはたまにあり、分かる場所なら説明するし、分からなければ、BさんやCさん等一緒に入ってる人の手が空いていたら助け船を出してくれる場合もあるし、お客さんが「分かんないならいいや」となることもある。その女性は、分かんないならいいや、とはならなさげだった。真田は、F病院の場所はなんとなく分かるが、なんとなくでしかなく、曖昧な説明しか出来ない。隣のレジで、Cさんは接客に追われており、すぐには頼れそうになく、Bさんは、ウォークイン冷蔵庫で飲料を補充中だ。困惑しつつ分かる範囲で説明するも、女性の客は不安げな表情になり、「どの道をどう行けば…」と言う。
「F病院なら、この前の道を右に出て、最初の信号を右です。それから…、車ですか?」
 別の客が、女性に話しかけた。その客は、学生服姿で、真田と同じ年頃に見える。女性は、少しびっくりし、その後、その客に、すがるような目を向けた。「いいえ、私、歩きなんです」「歩くなら、20分以上はかかると思いますが」「ええ、ええ、それはいいんです、でも行き方が分からなくて」
 助かった、と真田は思った。すみません、と二人の客に対して言おうとしたときに、
「あのー、タバコ」
 さも不満げに、いつの間にかレジ前に立っていた別の客に声をかけられた。隣のレジには相変わらず何人か並んでいる。早くこっちでも対応しろということだ。Cさんが、ちらりとこちらを見て、レジやって、と目で訴えている。道を聞いてきた女性と、教えている学生は、レジから離れ、入り口付近に移動していた。学生は、鞄を開け、筆記用具を出している。何かと思えば、地図を描いているようだ。その様子を気にしつつ、言われたタバコを取りに行ったら、取り間違えてしまい、客は決定的に不機嫌になった。お待たせして申し訳ありませんでした、と、冷や汗をかきながら謝る。タバコ一個でこんな待たされた上に間違えられて冗談じゃねえ、という思いが痛いくらいに伝わってくる。ぴったりのお金を投げるように寄越して、舌打ちしてから客は出て行った。その後も、何人か客が並んでいたので対応し、そうこうしているうちに、道を聞いてきた女性も、教えていた学生もいなくなっていた。
「大丈夫だった?」
 と、聞いてきたCさんに、道を聞かれて説明できなくて困ってたら別のお客さんが教えてくれた、と伝える。
「そうみたいね。よかったね」
「地図描いてあげてました」
「地図ならあるんだけど」
「えっ、そうなんですか」
「でも、お客さんが多いときは、地図出して広げて、自分もよく分からない場所を一緒に探して、なんて暇ないよね。まあ、よかったじゃない。説明してくれる人がいて」
 でも、すみません、も、ありがとう、も言えなかった。制服からすると、この辺の高校なら、D高だ。別の地域の学生かもしれないし、D高生とは限らないけど、賢そうだったな。夏休みなのに制服ってことは、登校日だったんだろうか。
(迷いなく地図を書いていたな)
 その日、帰宅してから、真田はF病院の場所を調べ、地図を描いてみる。これで、次に聞かれたら答えられる。
 F病院に行きたい女性は、地獄で仏に会ったような顔で、学生を見ていた。自分も、その女性のように、もしかしたらその女性以上に、助かった、と感じていた。
 奇しくも、この日は真田の誕生日です。誕生日にバイトかよ。特に予定なければ関係ないよね! むしろ予定ないならバイトでもしてた方が。母親に、何もないなら一緒に買い物や外食にでも行こうか、と誘われましたが、シフトが入ってて変えられない、と断ったよ。
 ちなみに、真田と若菜はE高校に通っています。D高校に比べたらかなりランクが落ちますが、勉強できなくても行けるという高校ではない。まあ普通くらいのとこです。真田は、E高よりはもうちょいいいとこ行ける学力があったんだけど、間違いなく受かる自信のあるE高にした。さらにちなみに、真田父はD高出。
 まあ、それはともかく。
 もしも、次に会えたら、謝って、お礼を言おう、
 と思う真田なのでした。


2015年03月14日(土) コンビニネタ7

 はー、今日は一段と忙しかった…バイト…。ん? あれ? 土曜なのに何でバイト出てるんだっけ? よし、一昨日の続きいくか。面接は形ばかりのもので、真田は即採用です。ちなみに、面接に現れた真田と接し、オーナーはちょっと意外に感じていたよ。若菜が友達を連れてくるって言うから、まあまあチャラいのが来るのだと思っていた。そしたら、全然違うタイプの子だったから。一目見た瞬間は、無愛想に見えたので、接客向きじゃないと感じたんだけど、履歴書が丁寧で、受け答えからは真面目さが伝わってきたので、大丈夫だろうと思っている。ただ、すごく緊張してるのが分かったので、慣れるまではしんどいだろうなと心配しています。
 ところで、コンビニの立地は、まあまあ駅から近く、周りに高校やら会社やらマンションやらもあるので、平日の早朝と昼時は混みまくりです。それにしても、これは何月頃の出来事なのだろう。夏休み前くらいにしとこう。それで、とりあえずは週一のつもりだったんだけど、もう夏休みだし、週三くらいにすることに。平日二+土曜くらいで。バイト初日は土曜だった。若菜も一緒に入ります。あとは、ベテランのパート(Bさん)と、バイトの大学生(女性、Cさん)です。普段の土曜日は、そこまで混まないことが多いんだけど、その日はたまたま近くでイベントがあったせいで、客がわんさかやってきて、てんやわんや。真田には、ずっと若菜が付いていたけど、落ち着いて教える暇などない。
「アイスコーヒーSと、からあげくんの赤。あと、アイスブラスト(タバコの銘柄)。それと、これ」(振込用紙を何枚かレジに置く)「お支払いと商品は会計ご一緒でよろしいですか?」「うん」「お弁当は温めますか?」「これだけあっためて」「コーヒーにお砂糖ミルクはお入れしますか?」「砂糖1、ミルク2。あ、あと、コーヒーもう一つ。そっちはブラックで」「承知いたしました。もう一つもアイスコーヒーのSでよろしいですか? お持ち帰り用の袋にお入れしましょうか?」「うん。袋は、うーん、じゃあ入れといて」「承知いたしました。アイスブラストは何ミリでしょう?」「5」「はい、承知いたしました」「お支払い内容に間違いありませんでしたら、画面タッチお願いします」「ん」「恐れ入りますが、年齢確認のタッチもお願いいたします」「ん」「袋、お分けしますか?」「一緒でいい」
 何これ。何このやりとり。このようなやりとりが繰り返され、ゆうパックが持ち込まれたり、商品の在り処を聞かれたり、コピー機の使い方教えて言われたり、道を聞かれたり、レジ以外にも品出しやら、揚げ物やらしてるうちに、タバコが届いたり、パンが届いたり、外のゴミ箱を確認したら山盛りでゴミ出しに行ったりで、もうこれは何なのか。真田は、若菜に付いてレジに入ってるだけだったが、呆然としていた。店内はエアコンがガンガンに効いていて涼しいのに、背中にびっしょり汗をかいていた。
 休憩中、「一馬、大丈夫か?」と、問う若菜に、真田は首を横に振る。
「結人、俺、もう帰りたい」(小声)
「ほー、お前、相当な覚悟はどうしたよ? でも、そんな奴もいたらしいぞ。初日に、途中でこっそり帰ったバイトもいたらしい。まじで帰るのか?」
「帰りたいけど帰らない。帰れない」
「よし、じゃあ、最後までやれ」
「…やります」
 地獄!
 終わってから、真田はもうヘトヘトのボロボロです。
「結人、やっぱり俺には絶対無理」
「そう思うだろ? 最初はそう思うんだよ。でもしばらくしたら、あれが当たり前になるから大丈夫。慣れたらむしろ、忙しいと快感だね。日中は基本三人体制なんだけど、急に一人が途中で帰ることになって、代わりもいなくて二人体制になって、一人が電話対応とかでいないときに、客がどっと来て、結構な行列出来てるときなんか、レジやってて、ちょっとしびれるね。こんなときにゆうパックとか大量の支払い来たらどーする、とか思うと、ゾクゾクするね」
「絶対嫌だ! 結人、変だよ!」
「でもまあ、飽きる。飽きるんだよ。正直だるい。時給安いし。割に合わねー」
「…飽きたからとか、時給安いからやめるんじゃないよな? 勉強するからやめるんだよな?」
「まあ、そういうことにはなってるな」
「何それ。夏期講習とか行くのか?」
「そうそう。なんか行くことになった。かわいい子いるかもー。出会いがあるかもー」
「アホだな」
「アホだよー。お前も行くか?」
「俺は、家で勉強するからいい」
「家庭教師とかつけてもらえば? お前んち金持ちだろ」
「金持ちではないけど。家庭教師なんて…、見知らぬ大学生とかと部屋で一対一なんて、考えただけで息が詰まる…」
「でも、塾の雰囲気も嫌なんだろ」
「別の学校の生徒もいるし、なんかやだ。学校終わった後、また学校って感じで、息が詰まる」
「お前すぐ息詰まるのな。
 そういや、俺と同じマンションに、D高(この辺で一番偏差値高い高校)行ってる友達がいるんだよな。そいつ、知り合いの中三の家庭教師みたいなことやってて、俺らの倍以上の時給貰ってる。そいつに勉強教えてもらおうと思えば、教えてもらえるはずなんだけど、どうもやる気にならん。いつか一馬に紹介してやるわ」
「それ前も言ってたけど。なんで紹介しようとするんだ? 紹介していらない」
「なんで? 協調性なくて友達少ないっていう、お前との共通点があるのに」
「お前ほんと腹立つ。でも今はそんなことはどうでもいい。バイトだよバイト! 俺はどうしたらいいんだ…」
「言ってなかったかもしれんけど、来週からはもう俺いないから。なんとか頑張れよ」
「…聞いてない!」
「Bさんの言うとおりにしてたら大丈夫。Cさんもしっかりしてるから大丈夫」


2015年03月13日(金) 普通の日記なんです

 そろそろ普通の日記も書こうか…。そんなわけで現実に戻ってみる。バイトがしんどいんです。そうか…。そうなんです…。そのせいかどうかは分からんのだけど、熱が出て、声が出なくなったりして、治ったと思ったら、また熱が出て、声は出ますが、すぐかれます。それで、なんか、毎日クタクタなんです。バイトがしんどいせいで、家事が苦にならないよ。子供のワガママや、夫の冷淡さは、私をイライラさせない。バイトに比べたら、家で起こることは、大したことではなく思えます。でも、バイト中は、そんな苦じゃないんですよね。あっという間に時間が過ぎるし。でも帰宅してから、クタクタで、何このクタクタ具合…バイトのせい…? とか思ってるうちに、幼稚園の迎え時間で(昼ご飯食べる間がない)、迎えに行って、もぐ子を見たら、クタクタが治まるんだけど、夜になって、もぐ子が寝て、家事をして、さて私も寝るか…、ってなると、クタクタが覆い被さってくるんですよ! 窒息する! なので寝れない。なので妄想。みたいな感じなんです。ちなみに、コンビニネタは今後も続けるつもりです。区切りのいいとこまでは。


2015年03月12日(木) コンビニネタ6

 そしてやっと話は過去から現在に戻るんです。妄想から現実に戻るんじゃない。まだ妄想の中にいるんですよ。そんなわけで、3月8日の日記の続きなんだ。
 断固拒否、と言い切った真田だが、どうしたらいいのか悩む。悩みまくる。コンビニバイトなんて絶対嫌なんだけど、結人の頼みを無下にはできない。できるものなら応えたい。真田は、二つ目の幼稚園の入園式を今でも覚えている。自分と母親は、門の前で足が竦んでしまった。心が竦んで、動けなくなってしまった。前の幼稚園でのことに、囚われてしまっていた。でも、若菜に名前を呼ばれ、体も心も、我に返った。母親が、若菜の出現に安心したのが分かって、自分もホッとした。自分と同じ小さな手なのに、真田の手を引く若菜の手が、とても頼もしく感じられたのを、今でも思い出す。そんな若菜と、小中は別だったが、高校は同じになって、本当に嬉しかった。
 それでまあ真田は、うじうじと悩みます。若菜はそうなることを分かっていて、「悩みに悩んだ末に、断るか、断れずに引き受けるか、半々だな。どっちにしろ、この世の終わりみたいな顔して言ってくるだろうな。断るなら、無駄に罪悪感を抱いてるだろうから、適当に慰めよう。引き受けるなら、…ま、いい経験になるだろ」とか思ってる。
 真田は、母親に、「一馬、結人君の代わりに、コンビニでバイトするかもしれないって聞いたけど…」と言われます。
「えっ、いや、それはまだ、考え中なんだけど…」
「一馬がしたいなら、してみたらいいと思うし、お父さんも反対しないだろうけど、したくないなら、したくないって言えば、結人君も分かってくれるわよ」
「…そんなこと、分かってる」
 そんなことは分かってるんです。しないなら、しないでいい。そう言えば、「だよな〜」って若菜は笑って、それで終わり。それ以降、特に話題にもならないだろう。それは分かってるんだけど、「やってみる」って言える自分であれたらいいのに、と思ってるんです。
 無理しちゃ駄目よ、と母親は言った。無理しちゃ駄目って、まだ何もしてないのに、引き受けるか断るかすら決められないのに、無理をするもしないもない。何も始まってない。
 真田は、小さい頃に色々習い事をしてたんです。ピアノやらスイミングやら英会話やら書道やら。でもどれも長くは続かなかった。習い事の内容が嫌なのではなく、先生や一緒の教室の子に馴染めなかった。母親はいつも、「無理しちゃ駄目よ。やめたいのならやめたらいい」と言っていた。やめたくてやめたから、その後はホッとしたけど、罪悪感や、自分はダメなんだ、という気持ちが残った。そういうことが続くと、もう、何かを始めること自体が怖くなる。何か始めても、またやめることになるかもしれない。こんなんでいいのか。そう悩んでいるのに、母親は、始めるのが怖いなら始めなくてもいい、とでも言うのか。そんなのって…。
 一週間後、真田が出した答えは。
「俺、やってみようと思う」
「そんな思い詰めた顔で言われてもなあ」
「引き受けるからには相当な覚悟でやる」
「重っ! 重いわお前。それ一日目で潰れるわ」
「…俺もそんな予感がする…」
「まーまー、せっかくやるなら、一日ではやめんなよ。だいじょーぶだいじょーぶ! 多分!」
「多分って…。絶対大丈夫じゃない気がするけど、俺はやる…やるぞ…」(自分に言い聞かせている)
「あのー、やる気になってるとこ悪いけど、まずは面接からだから。採用されるとは思うけど、それを決めるのはオーナーだから」
 そんなわけで、真田はコンビニバイトを始めることにしたよ! 人手不足だから採用されるはずだよ! 頑張れ! 私はやめたいけど! 人手不足だからやめれないけど!


2015年03月11日(水) コンビニネタ5

 昨日の続き。若菜と郭は、登校班が同じなんだけど、特に会話もなく、クラスも違うので、友達になることはなかった。二人は、三年生のときに同じクラスになる。若菜は友達が多く、郭は一人でいることが多い。同じクラスになっても、お互い避けているわけではないが、近付こうとはしない。クラスには、一人、力のある子(腕力があるという意味ではなく、学年における権力者という意味です)がいて、一年の頃から、弱いものいじめみたいなのをしたり、自分には高学年の友達がいるんだといばったりで、先生は大して問題視していなかったが、生徒達はよく思っていなかった。その子を仮にAと呼ぼう。ある日、Aは、午後の授業が始まる前、郭に、「おい、お前、俺に宿題見せろよ」と言う。いつもAに宿題を見せてる男子(勉強ができる)が、今日は休みだったのだ。Aが、普段はほとんど関わりのない郭(Aからすると、郭は関わる価値のない、つまらないクラスメイト。郭からしても、Aは然り。)にそう言ったのは、郭が勉強ができるから。できるんだよ。できそうでしょ。特別賢いわけでも勉強熱心なわけでもないんだけど、それなりに勉強して、それなりの成績を保っています。郭は、「宿題を見せたら、何をしてくれるの?」とAに言う。周りの誰もが、普通に宿題を見せるだろうと思っていたので、クラスは一瞬にして静まり返る。Aは、自分が何を言われたのか分からず、すぐには答えを返せない。
「俺がAに、ただで宿題を見せる義理はないよ」
 郭の言いように、Aは憤慨。普段の郭なら、面倒臭いことは避けたいので、見せろと言われれば見せるつもりでいるのだが、このときは生憎、虫の居所が悪かった。この状況に、若菜はちょっと興奮した。郭に感心した。無口で、何を考えてるのかよく分からない郭が、学年一力を持っていると言っても過言ではないAに口答えして、Aを一瞬呆然とさせた。若菜は、入学当初からAのことが気に入らなかった。暴力を振るうわけではない、校則違反をするわけでもない。Aは、背が高く、運動ができ、いつも自信に溢れていて、自分より弱い者を従わせるのが好きだった。いつも何人かの取り巻きを連れ歩き、取り巻き連中に順位を付けていた。「お前は王様のつもりかよ」と、若菜は心の中で突っ込んでいた。めんどくさいから関わりたくないと思っていたAと同じクラスになり、若菜のテンションは下がっていた。そしたらAに、「若菜も俺らの仲間になるか」と言われ、さらにうんざり。「誘ってくれたのはうれしいけど、やめとくわ。一、二年からの友達いるし、」と軽く断ろうとする若菜の肩を強く掴み、「嘘つくなよ。うれしくなんか、ないんだろ」とAは言った。不敵に笑ってた。若菜は、肯定も否定もせず「お前、力強過ぎ。肩痛いんだけど」と返す。Aは、「考えとけ」と言って、去っていた。薄ら笑いを浮かべた取り巻きと一緒に。思い出すと腹が立つ。嫌になる。それはつい最近の出来事だった。
「おー、郭、よく言った!」
 と若菜は手を叩く。若菜の言葉に、緊迫していたクラスの空気が少し緩み、所々で笑いが起こったり、同意の声が上がる。AとAの取り巻きは怒って、今にも暴れだしそうな勢いだったが、チャイムが鳴り、先生が来て、一旦中断。
 その件以来、Aは、郭と若菜を目の敵にするようになった。色々嫌がらせを受けたが、郭は動じない。郭が動じないので、若菜も動じないように努める。クラスが、Aと取り巻きVS郭と若菜と若菜の仲間、という構図となり、険悪な空気に。そんなある日、Aが交通事故に遭い、救急車で運ばれる。夜間、Aが自転車で道路に飛び出して、車に撥ねられたのだ。命に別状はないが、大怪我だ。Aの取り巻きは途端に大人しくなり、クラスに一旦平和が戻ったように思われた頃、妙な噂が流れ始めた。
 Aが事故に遭ったのは、郭が呪いをかけたせいではないか
 というような。
 Aのことは、周りの多くの生徒たちがよく思っていなかったものの、面と向かって反発する者はいなかった。そんなAに立ち向かったことで、若菜達は「すごい」と感心されたり、「よーやるわ」と呆れられたり、応援されたり心配されたりだったのだが、郭に対しては、みんな感心はするものの、一体何を考えてるのか分からない、Aとは違う意味でなんとなく怖い感じがする、という思いを抱いている生徒が多かった。傍観者達だけでなく、若菜の友達もそんな感じだった。若菜の郭に対する評価は、「なんとなく感じ悪い奴」から「無口だし、よく分からないけど、度胸があって、いい奴」にすっかり変わっていたので、そんな変な噂が流れるのが納得いかなかった。
「一体、誰が言い出したんだよ、そんなこと」
「さあ。別にどうでもいいけど」
 若菜はいらついているが、当の本人である郭は気にしていない。
「実際、かけたのか? 呪いを」
「実際かけてたら、死んでたかもね」
「おいおい」
「死ななくてよかったと、思ってるよ」
「でもさ、元気になったら戻ってくるだろ。そしたらまた、めんどくさいじゃん。事故ったのは自分のせいなのに、関係ない俺らをうらむ気がする。そういう奴なんだよ」
「どこか遠くに引っ越せばいいのにね」
「ほんとそうだよ」
 そしたら、退院後、Aはほんとに引っ越しちゃうんです。
(郭って、まじで、なんかそういう力を持ってるのかもしれん…)
 と驚く若菜だったが、その後二人はかなり打ち解け、学校ではそんなにつるまないものの、お互いの家(同じマンション)をよく行き来し合う仲になる。その後、中学も一緒で、高校は別です。学力が違うから。
 って、これいつまで続けるの(素)まだ郭と真田出会ってない…


2015年03月10日(火) U-14コンビニネタ4

 昨日の続き。入園後、真田と若菜は同じクラスで、しばらくは、若菜は真田の面倒をよく見ます。でも、若菜と真田は、好きな遊びが違うので、特に仲良しってわけではない。若菜は、戦いごっことかが好きで、真田は、工作とかが好き。なので、園ではそんなに一緒に遊んでないんだけど、母親同士が仲良しなので、プライベートでも会う機会があり、そのときは、二人で仲良く遊んでる。それはそれとして、真田は、新しい幼稚園には、割とすんなり馴染めました。若菜がいたというのもあるけど、前の幼稚園と違って、自由な雰囲気で、気楽だった。前の幼稚園では、一人で遊んでたら、他の子に声をかけられて、その子達と一緒に遊ぶはめになる、というのが多かった。でも今は、一人で遊びたいときは遊んでていい。他にも一人で遊んでる子がいる。色んな子がいて、色んなことをしてる。そんな感じだった。母親も、すぐに慣れました。最初からここにしてたらよかったと思いました。真田と若菜は、小学校は校区が違うので、卒園したら離れ離れ。真田は、それがとても寂しく、不安に思います。若菜は、「かずまならだいじょうぶ!」と言います。心からそう思ってるわけではなく、適当に言ってます。でも、真田はその言葉に励まされます。母親同士が友達ということもあり、二人の交友関係は卒園後も続きます。
 続きまして、若菜と郭の出会い。二人は同じマンションに住んでるんですよ。でも、めったに会うことがないし、親同士も関わりがなく、若菜は幼稚園で、郭は保育園なので、ずっと接点がなかった。小学校に上がる頃になって、同じマンションに同じ学年の子がいるらしい、と初めて知りました。入学式の日、若菜母は寝坊してしまって、「遅れるーやばいー!」と大騒ぎしながら、父親も一緒に、足早に小学校に向かいます。少し先に、同じく新入生の子とその母親が歩いているのが見える。「あ、あの子が、同じマンションの子よ、多分」若菜母はそう言って、さらに足を早め、前を歩く母子に、かくさーん、と声をかける。子供の方はすぐに振り向いたが、その母親は、すぐには振り返らなかった。もしかしたら人違いなのではないかと、若菜と父親は不安に思った。若菜の母が、すぐ側まで行って、再度名前を呼ぶと、郭の母親は、ゆっくりと振り返る。そこで、若菜母は自己紹介をし、郭母もそれに倣う。若菜母と父が「よろしくお願いします」と言うと、郭母が、「こちらこそ」と答え、郭も「よろしくお願いします」と礼儀正しく言った。若菜母が、あんたも言いなさい、という思いで、若菜の肩を叩くが、若菜は軽く頷いただけだった。「遅れそうじゃないですか!?」と思い出したように慌てる若菜母に、郭母は、微笑むだけで、焦る様子がない。郭は、何を考えてるのか分からない顔をしている。入学式なのに、期待も不安も緊張も感じてないような雰囲気。
(こいつも、こいつのおかあさんも、なんかいやなかんじだ)
 と若菜は思っていた。


2015年03月09日(月) U-14コンビニネタ3

 しつこくコンビニネタを続けます。昨日の続きではなく、真田と若菜の出会いについて。真田は、まあまあ裕福な家庭の子なんです。それで、いいとこの子が集まるような幼稚園に受験して入園したんですが、全然馴染めなかった。真田本人だけでなく、真田の母親も、他の保護者や園そのものに馴染めなかった。それでもなんとか頑張って通ってたんだけど、そのうち、もう無理、ってなっちゃう。真田は、母の前で「ごめんなさい」って泣いて、そしたら母も「ごめんねごめんね」って、一緒になって大泣きしてしまう。そこまでして通う必要なんてあるのか。母親は悩みに悩み、父親とも相談し、結局、幼稚園をやめます。その後、そのまま家でみるのか、別の幼稚園に行くのか、定まらぬまま、母親はとりあえず子育て支援センターに行ってみるのですが、来てる子供は真田より小さい子ばかりで、そこにも馴染めなかったんだけど、職員の一人が、すごく親身になって、真田母子に接してくれ、近くの公立の幼稚園をおすすめしてくれました。自分の子供たちもそこに通っているんだけど、とてもいいよって。それで、そこの園に行くことに決めました。その職員が、若菜の母です。若菜の母は、同級生である若菜を、真田に紹介する。若菜は、真田と一緒に遊ぼうとするんだけど、真田は打ち解けられなくて、何も言葉を発しない。若菜はそんな真田に対して、「つまんないの」と思うんだけど、若菜の母に「一馬くんは、結人と同じ幼稚園に行くようになるから、色々教えてあげるのよ」と言われ、真田の母に、「お願いします」と言われ、とりあえず「はーい」。真田は、年少から年中に上がるときに入園するんだけど、たくさんの年少に混じって入園式に参加することになる。年中から入る子も、真田以外に何人かいるし、それ自体は珍しいことでも何でもないんだけど、経緯が経緯(前の幼稚園が合わなくてやめた)なので、真田母子は、不安と緊張でいっぱいの心で、入園式に臨みます。真新しい制服に身を包んだ園児が、スーツを着た母親や父親と手を繋ぎ、みんな笑顔で、続々と門をくぐっていく。真田母子は、門の前で、一瞬固まってしまいます。
「さなだかずまくん!」
 門の向こうで、真田を呼ぶ声がする。若菜結人です。今日は入園式で一馬くんが来るから声かけてあげるんだよ、って、母親に言われてたんですね。真田の母親は、若菜を見て、心底安堵する。真田の手をぎゅーっと握っていた母の力が、すっと緩むのを感じ、真田もホッとする。
「わかなゆうとくん」
 小さな声で、名前を呼び返した。
 若菜は走り寄ってきて、真田の、母と繋がれてない方の手を取り、
「にゅうえんしき、あっち。つれてってあげる!」
 
 そんな感じです。ちなみに結人は、別に面倒見がいいわけではなく、母の「一馬くんに色々教えてあげるのよ」に従っただけです。


2015年03月08日(日) 労働は素晴らしいんだよ(U-14コンビニネタ2)

 昨日の続き。続くのかよ。何が? コンビニで出会う設定の郭真です。さてさて、若菜がコンビニでバイト始めたのを知った真田は、若菜の働きぶりを見に、店に行ってみます。いらっしゃいませこんにちはー! という明るい声で迎えられた途端に、俺にはこんなバイトは無理だな…と心底思います。レジをテキパキこなしつつ、常連らしき客と楽しげにやりとりしてる若菜の様子に、再度「結人には合ってるけど、俺には無理」と思う。それから何ヶ月か経ち、若菜は真田に、「お前もバイトとかすれば? 良い経験になるぞ。年上の知り合いできるし、世界が広がる、おまけに給料貰えて、いいこと尽くし。一馬、いいぞー、自分で稼いだ金で自分の欲しいものを買うって。素晴らしいぞ、労働は。例えば、接客なんてどうだ? お前の人見知りを克服する絶好の機会になるぞ」と、まあまあな棒読みと作り笑いで言います。一馬は、超不吉な気分になり、「…いきなり、何言ってんだよ…」と。そしたら結人は、「よし、一馬、回りくどい話はやめよう。俺の後は任せた!」「何の話だよ!?」「ん? コンビニのバイトの話だけど」「ほんとにお前何言ってんの!?」そんで、若菜は事情(成績落ちたからバイト辞めるように親に言われてる。自分も辞めてもいいなと思ってる。勉強するつもりだから辞めるというよりは、コンビニのバイト飽きてきた。でも、人手不足なので、オーナーのおっちゃん可哀相。後任見つけてくるって言っちゃった。)を話す。
一「なんて勝手な…。無関係な俺を巻き込むなよ!」
結「まあまあ、落ち着いて」
一「それに、お前、バイト始めたばかりの頃、『一馬には絶対無理な仕事だ』とか言ってなかったか?」
結「それは今でも思ってる」
一「じゃあなんで!」
結「だからこそだよ、一馬。これを乗り越えれば、お前は大きく成長するぞ(棒読み)」
一「嫌がらせだ!」
結「ちなみに、一馬の母さんには既に許可は取ってあるから。一馬がしたいなら賛成だってよ。良い経験になると思うってオススメしたら、心配しながらも喜んでたぞ。あと、俺は結構シフト入ってたけど、一馬はとりあえず週一から様子見で。慣れたらもっと入ってもいいし、無理なら週一のままでいいし。テスト期間は休んでいいし、シフトの融通は結構きくから、勉学には差し支えないはずなのでご心配なく」
一「いやもうそんなんなら、俺別にいらなくなくないか!? ていうか勝手に具体的に話を進めるな!」
結「まあすぐに答え出せとは言わんわ。一週間待ってやる」
一「一週間もいるかっ。即答する。断固拒否だ」
結「じゃ、一週間後にな! いい返事待ってるよー」(去っていく)
一「待て待て! 人の話を聞けー!」
 一馬母と結人母は友達なんです。一馬母は、結人のことをとっても信頼しています。


2015年03月07日(土) 出会いはあるよ(そして、U-14コンビニネタ1)

 日記の存在を忘れたまま過ごす→思い出して書いてみる→なんとなく頻繁に書く→ふと忘れる(最初に戻る)、というサイクルを繰り返しております。週一くらいで続けていきたいものなんですが。わざわざPC開かなくてもスマホで打てるんだし。でも忘れちゃうんですよね。それ以前に書くことがないんですよね…。
 バイト先の20歳の女の子(可愛くて明るくてめっちゃいい子)が、「私、早く結婚したいんです。でも、彼氏もいないし、ここ(コンビニ)じゃ出会いないし」って言ってたんです。20歳の可愛くて明るくて優しい子が、結婚したいのに相手に恵まれないって、一体この世はどうなってるんだ。信じられない。意味が分からない。そして、コンビニじゃ出会いがない、というのには同意ですが、それは、結婚に繋がりそうな出会いは期待薄、という意味で、ただの出会いならありそうです。私のシフト(平日の午前中)のせいかもですが、毎日大体決まった人が来ることが多いです。いつものお客さんが、いつものものを買っていく、という感じ。でも、中高年の方が多めで、20歳の可愛い子の結婚相手候補になりそうな人はあんまりいないかも。コンビニで始まる恋もあるみたいですけどね。私が大学時代にバイトしてたコンビニでは、そういう話を聞きました。バイトの女の子が、常連の男性のお客さんに、バレンタインチョコを渡し、付き合い始めたそうです。それを聞いたとき、私は、すごい勇気だ! と感心したものです。だって、上手く行かなかったら、その後お互い気まずいですよね。でも、きっと上手くいく、っていう、予感というか自信というか確信に近いものがあって、告白したのかもですね。でないと、お客さんをかなり困らせてしまう、ってことになりかねないですし。でもまあ、20歳の可愛い子からチョコ貰ったら、大概の男性は嬉しいでしょうね。妻子持ちでもね。まあそんなことはどうでもいい(えっ)。つまり、結局、私が何を言いたいのかというと、男同士でもそういう出会いってあるかもねってことなんです。もちろん、リアルな話ではなく、ほもぱろ設定的にってことですが。私という人間は、ほんとに接客が向かないんですが、接客以前に、あの青白ストライプの制服が、地獄の似合わなさ加減なんですが(そうです、某ソンです)、誰なら向いてるのか、似合うのかって、やはり、若菜ゆーと様とかじゃないですかね。若菜なら、お客さんからチョコ貰っちゃうよ。彼女いるのにさー。若菜の親戚のおっちゃんが、コンビニのオーナーで、人手不足で困ってて、若菜(高一)は「バイトとかめんどくせー」って思ってるんだけど、とりあえず短期間だけでもってことで、働き始めることになる。そしたら、数日で慣れちゃって、超戦力になっちゃって、若菜としても「思ってたよりだるくない」ってことで、いっぱいシフト入るんだけど、成績が落ちちゃった(でもバイトのせいというよりは、元々成績悪く、単に勉強嫌いでしなかったからなんだけど、親からしたら、バイトのせいに感じた)ので、辞めることに。調子のいい若菜は、おっちゃんに、「代わりを見つけてくるから大丈夫」とか言って、その代わりというのが、コンビニ店員似合わない真田だよ(若菜と同じ高校で友達。小中は校区が違ってたが、幼稚園は一緒だった)的な。そんでそのうち、真田と、お客さんの郭(若菜と小中が一緒で、友達)が出会うといいよね。


2015年03月06日(金) 恋は怖くて甘美なのね

 バイトやめたい。とてもやめたい。やめないけど。そして、ほんとにやめたいのかどうかが分からない。自分の本意がよく分からない、ということが多いです。自分の気持ちが自分でよく分からないって、なんなんですかね、って感じですね。困ったものですね。「人生やめたい。やめないけど。そして、ほんとは『人生』って言いたいだけなんじゃないか」とか、昔から思ってた気がします。無意義です。バイトやめたいのかどうか分からない、人生やめたいのかどうか分からない、とかだと、お前はもっとちゃんとしろ、そもそもお前は大丈夫なのか、と怒られたり呆れられたり心配されたりだと思いますが、あいつを好きでいていいのかどうか分からない、この恋をやめたいのかどうか分からない、とかだと、心配はされても、怒られたり呆れられたりはしないと思うんだ。恋に関しては、自分で自分のキモチがワカラナイ、という、困ったものだな状態が、なんとなく許されてるというか。いや、許されてるのか? 分からんけど。イメージイメージ。私は恋をしたことがないので、恋をするって、どんな感じなのだろう、と、よく考えていました。恋をしたい、と思ったこともなく、でも、恋の話(二次創作)は書きたかったので、恋心とはどんなものなのか、ほんとに一生懸命考えていました。母が、「好きな人ができたら、その人が近付いて来たらすぐ分かる。足音で分かる。気配で分かる。そうすると、息もできなくなる。夜寝る前にその人のことを考えると、眠れなくなる」って言ってました。息できなくて、夜眠れないって、病気ですよね。というか、息できないって、命の危険を感じますよね。恋って怖いものなんですね。だからこそ、私は、恋に憧れます。おばさんになった今でも、恋をするってどんなんだろう、って考えます。したくないし、しないけど。ほんとどうでもいいことなんだけど、考えてしまうんです。まあまあ忙しい日々を送ってるつもりなんですが、精神的には暇ってことなんですね。こんなしょーもないこと考えてるんだから…。ちなみに、母の思い出の恋しい人は、私の父親ではありません。


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