| 2001年02月01日(木) |
【メリイゴウラウンド】 |
【メリイゴウラウンド】 ある冬の日の夕方。 私と直人は待ち合わせをして、夕方の遊園地に行った。 偶然、二人ともその日、午後から仕事がお休みになったのだ。 『スターランド』という名前のその遊園地は、私・北原笑美子が子供の頃から、 いや、たぶん生まれる前からずっとある。 そのせいか、白い手すりのところどころが錆びていたり、アトラクションの装飾 の色が、色褪せたピンクやブルーになっていたりする。 そんな所に、時の経過を感じるなあと思う。
「すごい。ぜんぜん人がいない!」 人気のない遊園地に驚いて私が言うと、直人が笑顔で言った。 「ここって昔からあるから結構さびれてるしね。 大体、平日の夕方とかに家族連れで遊園地なんかに来ないだろうし」 くすくす笑う。 「かえって、人がたくさんいてもびっくりするよね」 「そだね。今日ってほとんどオレたちの貸切ってかんじ」 「それもイイね」 とりとめのない会話をしながら、「冬だからやっぱり寒いね!」なんて笑って、 手をつないで。 観覧車に乗ったり、オモチャみたいに遅い子供向けのジェットコースターに 乗ったり。人が全然いなくて安っぽいファーストフード店みたいなところで、 寒い寒いと言いつつソフトクリームを食べたりしながら。 私たちは、その遊園地のいちばん奥にある、こんなさびれた所にしてはちょっと 豪華で大きな、メリーゴーラウンドの前で足を止めた。
大きくて、金色の装飾に白い馬。カボチャを魔法で馬車にしました、って感じの、 小さくて、金銀の飾りが付いた馬車。 人はだれもいないけれど、オレンジのライトに照らされている。 だんだん訪れてくる夕方から夜にかけてのうす闇に、そこだけが切り離されて 浮き上がって見える。 「ここって目玉がメリーゴーラウンドだったんだよね。むかし。ちっちゃい時」 私は言った。今もそうなんだろうね、と直人が答えた。 「メリーゴーラウンドって」 「うん?」 独り言みたいな直人の声の響きに、私は隣の彼を見上げる。 「最初に作った人の孫の名前がメリーだったらしいよ?」 「ほんと〜?ソレ」 明らかに疑い深い感じの私の声に、直人、ははっと笑った。 「ごめんウソ。今の作り話」 「やっぱりね!」 でも、と思いなおして、私は続けた。 「・・・でもまあ、罪のないウソだよね。そういうの」 くすくすと笑い、私は言った。 「髪は金髪よね。そのメリーは」 「そうだね。巻き毛だろうね」 調子に乗って直人が返す。 「うん。・・・で、ピンクのワンピース着て乗ってそうなイメージね」 「そうそう。おじいさんはそれを外から見てる」 「かわいい光景だよね」 「そうだね」 直人と喋っていると、なにかが。心の中で広がって、あたたかい気持ちで 満たされる。そんな気がする。 それが他愛のない冗談みたいなものであっても、なんでも。 ケンカだってするけど。 この子と、いつか、ばらばらになって別々の道を歩いてしまうようなことが あるだろうか? そんな日が来るだろうか? 「乗る?」 もの思いにふけっていたら。ふと、直人がそう言った。 「いや、なんか、見てて満足しちゃったんだけど。私」 「あ、オレも」 「ごはん食べに行こうか?」 「じゃああそこ行こうよ。駅前にできたダイナー&バーみたいな洋風レストラン 兼居酒屋みたいなところ」 「あ、気になってた!」 「じゃあ決まりってことで」 振り返ったら。 夕暮れ時、遠くに日が沈み、地上に近い空はピンクやオレンジや金色。 吐く息が白いくらいに冷たい空気。 そして天空、闇が訪れる少し前の、うすい青の空には輝く星がひとつ、 澄んだ輝きを放って、遠く高い場所で独り、光っていた。 「直人。星が出てる」 「あ、ほんとだ。あれ何ていう星?」 「わかんない。北極星? それとも金星? 宵の明星とか言わない?」 「なんかそれ、聞いたことある気がする。宵の明星って」 「キレイな言葉だよね」 「そうだね。宵って夕方のこと?」 「うーん。たぶん。 ・・・ねえ、ここってスターランドって名前だから星がよく見えるの?」 「さあ?・・・でも」 一瞬言葉を切って、気付けば二人は同時に言っていた。 「すごい綺麗にみえるね」 その声はだれもいない遊園地に甘い余韻を残して響いて。私たちは顔を見合わせ、 笑顔になる。 隣にいる直人の、赤いダッフル。私の着ているオフ白のコートも。 この夕暮れのさびしい誰もいない遊園地の、徐々に濃いブルーにつつまれていく 一瞬のうつくしさに調和していたらいいと。そう思う。 世の中に、永遠のモノなんてきっとない。それはわかってる。 わかってるけど。 くるくると回り続けるメリーゴーラウンド。 そんな風に私たちが、おとぎ話みたいにずっと続けばいい。と思った。
|