| 2001年01月02日(火) |
WORLD’S END |
ここは創作ページ。ってことで。笑
【WORLD’S END】2002/09/28 毎朝。7時3分発のJR。 それに乗るために駅へ行く。大体毎朝、10分前に駅に着く。 冬の朝。吐く息が白い。ホームへつづく階段を登る、自分の足元。 揺れるスカートに黒のブーツ。 足元ばっかり視界に入るのは、俯いてるのは、生きるパワーが落ちてる証拠だ。 と思う。 ホームに着いて、ふと見上げた空は、嫌になる位に青い。 たぶん。 誰にでもそういう時はある。って知ってる。 なにが悪いってわけじゃなく。 単に、仕事がうまく行っていなかったり。家に帰れば、家族と喧嘩ばっかり だったり。好きな人もいないとか。それだけのことだった。 でも、ひとつ歯車がズレると、どんどんズレが大きくなっていってしまう。 どうしようもない。どうしたらいいの。どこに行ったら。 そんな言葉が、ぐるぐる回る感じがした。私の中で。
ふと気付くとウォークマンで聴いていたテープがいつの間にか終わり、 音楽が途切れていた。駅のホームのベンチに座って、バッグから他の カセットテープを取り出し、ウォークマンの中身を替える。 そのカセットケースには、「和浩 11/28ライブ」と書かれていた。 和浩、という名前のその子は、私の学生時代の友達エミちゃんの、そのまた 友達だ。その子は、プロではないんだけど、バイトをしながら、たまにひとりで ライブハウスで歌を歌ったりしているという話だった。そのテープは、昨日 飲みに行った店で、エミちゃんが私にくれたのだ。 「霞にあげる。まあ聴いてみなよ。なかなかイイよ?」って。 そんな風に言った。
昨日の夜、寝る前に一度部屋で流してみたけれど。 酔っぱらってたせいもあり、単に流して聴いてただけだった。 ちゃんと聴くのは、今が初めてだった。 (でも昨夜、なんか聴きやすくてイイ感じだったよね。) そんなことをぼんやり思いながら、再生ボタンを押した。
それは、ライブハウスの喧騒も混ざった、がさがさな音だったけれど。 しばらくすると、ふいに拍手と歓声が沸き起こり。 たぶん、アコースティックギターの音が。聴こえてきた。 (あ。) きらきらしてる。 ・・・そんな風に思った自分に、一瞬笑ってしまった。なんか、我ながら、 あまりにもかわいい感じ方をしたような気がして、ちょっと笑った。 でも。 なんか、その前奏が。木漏れ日みたいに、きらきらと。まるで光が降るような イメージで、聴こえてきたから。 まるで太陽の光が、雲とか木々の葉っぱの隙間から、やわらかく差すみたいに。 そんな風に思った。その瞬間、歌が流れ出した。彼の声が、耳に流れ込んできた。 びっくりした。 朝っぱらから、本気で泣くかと思った。 透明な感じがする声だった。男の子の声なんだけど、少し低くて、でもソフトで きれいな声だった。 その子の声は、とても透明に響いて、かさかさにかすれた私の心の奥の方に、 なんだか水みたいにすうっと染み込んでくるような気がした。 砂金みたいに、きらきら光る。心の奥に、軌跡みたいに、美しく残像を残す。 大袈裟なのかもしれないけれど、正気と狂気の境目にいた私を一瞬で助けてくれた。 そんな風に思った。 クレジットを見てみたら。 それは、“WORLD'S END”という名前の曲だった。 WORLD'S END。世界の終わり。 でも、もしかしたら。 ひとつの世界の終わりは、もうひとつの世界の始まりかもしれない。 そう思った瞬間、プルルル。と音がして。 電車がすべり込んでくる。私は立ち上がり、止まっていたかのような時間が 動き出す。 ほんのちょっとのきっかけで。何か変わるかもしれない。変わるかもしれない。 そんな風に思いながら私は電車に乗り込み、早速エミちゃんに携帯から、 テープのお礼と、次のライブに一緒に行く。と、メールをした。
【氷の花】 夜。静かだなと思って、ふと窓の外に目をやった。 「・・・あ」 雪が降ってた。 私は日記を書いていた手を止めて、しばらく窓の外を眺めた。 カタンと思わず窓を開けて。息を吸い込む。 胸に、冷たい冬の空気。そして暖かい部屋に、ぴゅうと風が入ってくる。 「・・・さむっ」 急な寒さにそう呟いて、少し身体を縮めたけれど、でも私の心はとても静かで、 何も考えられないでいるような、でも冴えているような不思議な気持ちで、 降って来る雪の結晶を、ただ、見ていた。
しずかに降る。いくつもいくつも。 白い花びらみたいな氷のカケラが、しんとした世界に、降り積もっていく。 そして雪が降っているのに、真っ暗な空の遠くの方には、雲の切れ間から ぼうっと白く、月がふたつ輝いていた。 (天気雨。みたいなものかな。) 夜空は微妙に晴れてるのに、雪が降っている、その情景が。 ぼんやり考えて、遠いその二つの月を見上げた。 ・・・世界がちがう。 私は今、違う世界にいる。 そのことを自分に言い聞かせるみたいにして、月を睨むように見た。
私が、彼氏である玲(アキラ)と一緒にここに来たのは、半年くらい前のことだった。 それが、偶然のことだったのかは、よくわからない。 ここは日本じゃないのだ。玲が生きてきたと言うこの世界は。21世紀の日本 ではない。テレビもラジオもない。車もない。信じられない。 でも言葉は通じるし、息もできる。 正直言って、まったく訳がわからない状況にいるなあと思う。 マンガみたいだ。夢オチだったとしても信じるって感じだ。 ただ、もともとこっちの世界の住人だったらしい玲は(それも信じられないこと だが)、私の記憶だけは消すことができなかった、と、意味深なことを言った。
その玲が、私の生まれた日本で、あっちの世界で暮らしていたことが原因で、 治らない病気にかかっているなんて、そんなバカみたいなことを私が知ったのは つい最近のことだ。 それこそ、なんだそれ。って話だと思う。信じるわけないだろう!って思う。 思うけど。
何が運命かなんてわからないけれど。 黙って泣いてばかりいるわけにはいかないから、できる範囲でできることを やろう。そんな決意みたいな気持ちが胸に渦巻いては消える。
「・・・あれ? 薫」 ふいに下の方から、私を呼ぶ声がした。 聴きなれた、低い声。心に冷たくて甘い、気持ちのいい余韻を残す。 「・・・あきら」 私も彼の名を呼んで、目を合わせた。 透明な瞳。何もかも見通すことができるみたいに綺麗な。 こんな目をした人を他に知らない。 白っぽい服を、着ていた。背後の雪の白に、溶けちゃいそうな気がした。 「・・・ダメじゃん。寒いのにそんな外に出たりしちゃ。なにしてんの?」 心の中では、玲は体調悪いんだから、すぐ部屋に入れなきゃって思うのに、 顔が笑顔になるのを止められない。私の中のどこかが、玲に不意打ちで会えた ことを、純粋に喜んでいると思う。 そうしたら、玲も、少し笑顔で言った。 「オマエ、人のこと言えないじゃん。なんで窓開けてんの? 部屋、寒くないのかよ?」 「うるさいな!」 思わず笑顔になる。玲と話すと、笑うことを思い出す。それはすごく幸せな ことで、でも同時にとても切ないことのような気がする。 「なんか、キレイだなあと思って。思わず窓開けちゃった」 「ああ、オレも」 やわらかく、微笑んで。 「思わず外出てみたくなって。外出ちゃった」 「でも玲、部屋、入らなきゃ。熱とか出たらいけないし」 「そーんなヤワじゃないって」 「だって」 「大丈夫大丈夫。厚着してるから」 ひかる笑顔で。そんな風に言って笑う。見てるとやたらと切ない気持ちになる。 神様に祈るような気持ちになる。この瞬間を永遠に続けさせてくださいなんて。 叶うはずもない、バカみたいな、でも切実な祈りだ。
「・・・なんか、あれだね」 ふと、玲が思い出したように言った。私を見上げたままで。 「あれって?」 首をかしげて問う私に、彼は続ける。 「こういう構図って、ロミオとジュリエットみたいだよね」 言われて、映画のロミオとジュリエット、バルコニーに出ているジュリエットと 下から見上げてるロミオのシーンを思い出して泣きそうになった。 瞬間的に、あの二人の結末まで思い描いてしまったからだ。 「あの二人は悲恋だよ・・・」 私の声のトーンが落ちたことに気付いたのか、玲は一瞬心配そうな瞳をした。 ・・・ように見えた。 でも私は。 突如思いついて、がたんと音を立てて、窓を全開にして。 「え、・・・薫、バカお前あぶなっ」 すとんと、そんなに大きな音を立てることもなく。 私の部屋が一階でよかった。次の瞬間には私は、窓を乗り越えて、玲の目の前に 立っていた。 「お前、はだしだろ? 寒くないの・・・ああ、室内履きはいてるのか・・・って そうじゃなくて! 何やってんの? あぶないだろー!?」 「だって!」 ぽろぽろと。こらえることもできないで、頬に涙がこぼれて。 心がとても静かだなんて、大嘘だった。 ただ、呆然としていただけだ。玲が病気だなんて状況に、対応できなくて。 私は背伸びして、玲に抱きついてた。抱きしめてた。 「だって、玲が悲しいこと言うから!」 強引に抱きついた私の背中に手をまわして。ぽんぽんと、なだめるように 背中をたたく。・・・大きな手の感触。広い肩。玲大好きだ。なんて思う。 好きって気持ちは。どこから生まれて、どこに消えていくんだろう?なんて 思う。 「・・・大丈夫だって・・・。別に今すぐどうこう、とかいうんじゃないんだから」 なだめるように、玲が言った。 「だって将来的にはわかんないって夏野(カヤ)が」 涙声で、私が答えた。 私の声、その台詞を聞いて、あのバカ、と小声で玲が呟く。 夏野というのは、玲の友達で、ここでは医者の助手みたいなこともやっている 人だ。その彼から、聞いていた。
ふう、と。 玲がため息をつくのがわかって、私はしがみつくように抱きついていたのを やめて、玲から少し離れる。 「あ、ごめん。苦しかった? きつかった?」 「や、そうじゃなくてさ」 ふわり、って。 今度は、玲の方から、私をその白っぽい上着で包むみたいにして、やわらかく、 やさしく抱きしめてくれた。 「雪って、キレイだけど、すぐ溶けて消えちゃうじゃん?」 玲の胸に押し付けた耳に、彼の声が響く。息を、してる。そしてこんなに あたたかい。生きてる。・・・私は目を閉じて、彼の声に耳を傾ける。 「じつは、さっき・・・薫が窓開けてるのを見つける前、さ」 「うん?」 「雪って消えちゃうよね、って思って。オレもこんな風に消えるんだったら 嫌だなって思いながら、歩いてたんだけど」 「何言って・・・」 ぱっと見上げた私に、くすくすと笑った。その笑顔に見とれて、思わず言葉が 出てこなくなる。涙も止まる。 息するのも忘れたみたいにして。 ただ、玲の言葉を聞いていた。 静かな夜の中で。降り積もる雪、その白い世界の中で、玲の言葉だけが、 私の胸に、直接響いた。 「そしたら、お前、ぜんっぜん予想つかないことするからさ。おもしろいよね。 なんか、生きて行くのって、そうなんだよな。って、思い出した」 ゆっくり、喋る。 「人生って、予想つかないものだよなあ。って」 私の胸に、ひとつひとつ、玲の言葉が、はっきり届いた。 しばらくの沈黙の後。 抱っこするみたいにしてくれていた玲から、少し離れて。 彼をまっすぐ見上げて。 私のやることが、少しでも、玲の力になったらいいなと思う。本当に思う。 (玲。・・・好きだよ? 大好きだよ?) なんて。心の底から、そう思って。 口に出さなくても。きっとテレパシーみたいなのってあるから。 目は口ほどにモノを言うから。絶対この気持ちは、玲に伝わっているとそう思う。 さっき、私が玲に抱っこされていたときに、私に対するかけねのない、愛情みたいな ものを玲から感じた。それも、嘘じゃないと思う。
私は言った。 「玲。・・・部屋、入ろう? 熱いお茶をいれてあげる」 「おー!いいねえ熱いお茶。別にオレとしては熱い酒でもいいけど?」 「なに言ってんの。未成年だろ!」 私の隣で。くっくと笑って。 「じゃあ、おいしいお茶をいれてくだサイ」 かわいい感じで、そう言った。 「ええ、いれてあげます! 感動して忘れられないくらいのお茶を!」 「・・・でもお茶なんだよね?」 「お酒はダメー」 くすくす笑って。 手をつないで。 てのひらに熱。きっとつたわるものがあると思う。 そして私たちはつづいていくし、歩いて行く。・・・って。 そんな風に思いながら、雪が、凍った花々のように舞い散る地平を、私たちは あとにした。
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