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■■ 海賊の島ウェーブ(…ネタ?)
長い長い時を夜の悪逆に染め、いにしえの奇跡によって封じられてなお昼を脅かし続けた夜の王は、ようやく打ち倒され塵と消えた。 荒い呼吸をととのえながら、輝かしい黄金色の髪を揺らして『担い手』が振り向く。かつて父祖がもてる全ての敬愛を捧げたという高貴なる剣士は、むしろ優しげに見える笑みを疲れきった顔にのぼらせ、深い美声でアンサルバンを呼んだ。 「血脈の末に再び勇者をあらわしたこと、天上でドゥシンも誇りに思っていよう。勇者よ、そなたこそが私を解き放ち、世界にまことの平和をもたらしたのだ」 いにしえの勇者、アンサルバンの父祖、かつて『担い手』とともに夜と戦ったドゥシンの末裔として、これほどの栄誉はない。末裔の殻を脱ぎ捨て、いにしえの影から逃れ、アンサルバンはとうとう自身が勇者となったのだ。 歓喜に打ち震えるアンサルバンに、『担い手』は老賢者のような懐の深いまなざしを向けている。 いにしえの昔、自分ごと夜の王を封じ込めたそのときから、加齢を忘れた『担い手』の外貌は活力みなぎる若さを保ち続けているが、その目を見れば、彼が人の幾世代にもわたって生き続けてきたということが一目でわかった。 アンサルバンは、いにしえのドゥシンの血を継ぐ者として、そして新しい勇者として、解き放たれた『担い手』の前に膝をついた。かたわらに、夜の王の息の根を止め、その血に塗れたままの剣を置く。 「並びなき方、我らの平穏を担う永久の責め苦よりのご帰還を、心よりお喜び申し上げます。父祖ドゥシンに連なる者として、今一度、この身に流れる血をあなたに捧げ――」
「起きろってんだよ無駄飯ぐらい!」 甲高い女の声で、アンサルバンの甘美な夢は掻き消えた。次いで、頭から勢いよく水を浴びせられる。 後ろ手に縛り上げられた状態では水を拭うことすらできず、アンサルバンは暗澹たる思いで目を開いた。まつげでは防ぎきれなかった水が目に入る。痛い。 「ったく、何の役にも立ちゃしないくせに飯だけは一人前なんだから、厄介だったら……」 ぼやけた視界の中央で、明るい金髪を潮風になびかせた女海賊が、空になった桶を後ろに放り投げる。 「ほら、とっとと立ちな。アンタとはここでおさらばだ」 「それが島主への捧げものか? 手荒に扱って、島主の機嫌を損ねても知らないぞ、ミラ」 乱暴にも襟首を引っつかんでアンサルバンを立たせた女海賊が、割り込んできた声を聞いて手を離した。 「ニーイー! わざわざ迎えに来てくれたの」 「ミラが生きた人間を盗ってきたって、島中で噂になってるよ。あんまり珍しいから、はやく見てみたくなってね」 盗ってきただの捧げるだのと、完全に人としての尊厳を無視されているアンサルバンは、現実を拒否するように目を閉じる。ニーイーと呼ばれた推定海賊が、無造作に腕を掴んだ。 「とりあえず、貰っていっていいか。島主が暇を持て余してる」 逃避も空しく、現実は厳然としてアンサルバンの目の前にあった。 いにしえの勇者の末裔アンサルバンは、勇者どころか海賊の捕虜になり、悪名高き海賊の島の主に上納されてしまうのだ。酷使されて捨てられるか、弄ばれて殺されるか――暗いばかりの先行きに、アンサルバンが為す術は何もないのだった。
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なんか一節終わった感がありますが、100題海賊の島のネタ一部。軽く波が来た気がします。断片的なネタだけなら、3題くらい連作でいけそうな感じ。ただし、まだそれぞれがつながっていきません。 ファンタジーっつーかゲームっぽい展開かもな珍しく、と思っているうちに、夢オチ。自分でつらつら考えてて、若干アンサルバンが哀れになりました。 名前どころか二つ名ですら長ったらしいアンサルバン。作中では使えないだろうけど、略すとしたらサルだろうなあ。
2005年08月26日(金)
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