川底を流れる小石のように。  〜番外編〜  海老蔵への道!
もくじを見てみるひとつ前現在に近づいてプチ画像日記


2003年12月26日(金) 幕見。その3 千秋楽!

 午前中だけ仕事して、午後は大掃除。
 4:30には掃除も終わり、解散〜。

 このまま歌舞伎座に駆けつけるにはチョト早いと思い、スタバで一休み。
 (ここで一つ目の間違い)
 さらに今日は銀座で降りて、ウロウロ。
 新之助襲名のでっかいポスターが、地下鉄の駅に張りだされてると聞き、
 それを見てみたいと思ったからだ。
 (ここで二つ目の間違い)

 それがいけなかった。

 まず、真っ先に寄り道せずに歌舞伎座に行っていれば、
 一つ目のお芝居のラスト10分だけ出る新之助が見られたはず!と気がつくのが遅すぎ。
 さらに、いくら千秋楽とはいっても、
 三階B席は1つふたつ空いてるんじゃねえか?と思ったのだけど、
 たどり着いた時には、当日券の窓口はとっくに閉まってた。
 そして、1つ前の踊りから、幕見に入れば、
 人気の最後の演目は座ってみられるぜ!と思っていたのに、
 ポスターが見つけられずにウロウロしていたら、ちょっと遅れて、
 幕見の窓口もいったん閉まってた。
 しかも考えることは皆同じらしく、
 踊りの時からすでに「立ち見です!」の張り紙がー!

 なので結局、寒空の下、1時間以上も立ちんぼして開場を待ち、
 さらにやっと入れても、芝居を今日も立ち見する羽目に・・・・。

 ちぇ〜と思いつつ並んで待ってると、
 みるみるうちに列は伸びて、
 後ろの方の人達は「立ち見でも入れないかもしれません」と言われていた。

 開演前、見やすそうな手すりのポジションをコートで確保。
 冷えた体でトイレに並ぶ。
 開幕ギリギリに手すりの位置に戻ると、
 隣の日本語の達者な外人さんに、
 「コレは、いる!のシルシですか〜?」と聞かれてしまった。
 「はい、いる!のシルシです〜。
  一人で来たし、トイレ混んでたの〜」と変な日本語で答えたら、
 「ああーそうなのねえ」と笑われた。
 暗くなってからもゾクゾクと立ち見客がつめかけ、
 見やすいハズのポジションも、立錐の余地もない程に混み合う。

 見渡すと、へっぽこな西側の席ですらギッシリ満員。
 やっぱり千秋楽だねえ。
 大向こうのかけ声も、あちこちから飛びまくってた。
 熱気がすごい。

 新之助の坊主に惚れ込んで、スキをみてはベロベロ舐め回す牛娘の役は、
 片岡亀蔵さんが怪演していて面白いのだが、
 今までは、ペロペロと舐め回す真似だけしていた。
 それが今日だけは、本気でベロベロと舐め回すので、
 新之助も本気で嫌がり逃げ回り、
 芝居の流れが一瞬止まるほどの、組んずほぐれつ。
 場内は大爆笑の渦〜!
 今までも、いちいち手ぬぐいで、舐められた腕や耳や頬をぬぐいつつ台詞を言うのだったけど、
 今日は、マジで拭いていた。
 わはは。
 匂ったりして、いや〜な顔までして見せて、
 マニア(?)にはたまらん一幕に。

 そんな新之助の素(?)を見られただけで、今日の疲れも吹っ飛ぶっちゅうもんだ。

 場内の熱気や、新之助亀蔵のアドリブ(?)に負けじと、
 勘九郎、福助も熱かったが、
 やっぱり破壊力は新の勝ち。
 (そんな破壊力もどうかとも思うけど、楽しいからヨシとする)
 むしろ、少し蓮っ葉すぎでは?と思っていた福助の「おきわ」が、
 せっせと、笑いや取っ組み合いの収集をしてやってた。

 勘九郎が河豚の毒で殺されるシーン、
 勘九郎は大阪から流れてきた元女形のてぬぐい屋という設定なので、
 ピラリと裾から真っ赤な長襦袢がはだけて倒れるのだが、
 昨日のクリスマスバージョンでは、サンタのアップリケ、
 今日は?と思って見ていたら、
 赤に白い文字でクッキリと「大入」の文字が。
 満員の幕見から眺めてるせいか、そうそう!とばかりに気持ちよかった。

 私の前には手すりがあるから楽だが、立ち見2列目の人たちは、さぞ見づらかろうと思ってたが、
 後ろの若いカップルが、楽しい!来て良かったね!入れてよかったね〜!と
 ささやき会うのを聞いて、嬉しくなる。

 とにもかくにも、しんどいながらも大満足で、今年最後の歌舞伎座にお別れ。
 来年も通うぜい!
 まってろ歌舞伎座!さあこい海老蔵!ってなもんだ。

 そうそう、結局寄り道の甲斐あってポスターは見つかり、携帯カメラでぱちり!
 睨んでご覧にいれまする!のポーズ。
 ポスターからでも睨まれると縁起が良さそうだぜ、などと眺めつつ、帰宅。

 
 ○○追記○○
 その昔から、市川宗家に睨まれると、その年は風邪をひかないと言われていたそうな。
 口上でも、このポスターのような美しい元禄見得が見られるのでしょうか?
 わくわく。


   追記オマケ

 先日26日分としてアップした分ですが、
 ここにコピーしておきます。

 あけましておめでとうございます。
 新しい一年も、おそらく成田屋な年になることと思います。
 どうぞよろしくおつきあいください。

 使い勝手の違う、よそのお家のパソコンからにつき、
 用件のみ更新させていただきます。

 万が一、ちょっとでも新之助に興味をもたれた方がいらっしゃいましたら、
 明日2日の夜、19:00より、
 NHK教育『初春江戸のにぎわい』という番組で、
 歌舞伎座から生中継がある予定です。
 めったにない生中継で、ライブな新之助を楽しんでみてはいかがでしょう?
 後半の「花街模様薊色縫」(さともようあざみのいろぬい)
 通称「十六夜清心」に清心役で新之助が出ます。
 松竹HPより。
 【十六夜清心】
 極楽寺の所化清心(新之助)は、扇屋の遊女十六夜(時蔵)となじみ、女犯の罪で寺を追われます。二人は心中を決意し、稲瀬川に飛び込みますが、十六夜は俳諧師の白蓮(左團次)に助けられて、その愛人となり、清心は泳ぎが得意のため死にきれず、せめて十六夜の弔いをしようと、通りかかった小姓の恋塚求女(梅枝)の金を奪い、殺してしまいます。その場で死のうとする清心ですが、雲の切れ間から月が覗いた瞬間、ふと、思います。この犯罪を知っているのは、お月様と自分だけ。ならば……と、非道な悪の世界へと足を踏み入れてゆきます。江戸後期の退廃的な世相を反映した、背徳の美しさが妖しい世話物。黙阿弥ならではの、聴かせる名せりふにも事欠きません。時蔵、新之助ともに初役。新しいコンビの魅力にも、未知の楽しみが膨らみます。(平成十六年一月)

 私も新年早々縁起がいいわい!とばかりに、
 今から、とても楽しみにしています。
 
 
 とりいそぎ、お知らせまで。
 ではたま!


2003年12月25日(木) 幕見。その2 誰か止めて。



 今日も歌舞伎座に行ってしまった。。。

 最後の演目「狐狸狐狸ばなし」はお笑い劇場みたいな軽いお芝居で、
 幕見は若者に大人気。
 その演出が、23日からクリスマスバージョンになったという。
 新のサンタ姿か〜、そういうクリスマスもありだな!とイブの深夜に思い立つ。
 幕見の開演時間(19:25〜)を確認し、
 職場からの最短乗り換え案内を検索。
 18:29発の電車に乗れば間に合う。
 ギリギリだ。

 午後は張り切って仕事し、18:10に仕事終了!
 そそくさと着替え、電車に飛び乗る。
 三度も乗り換えて、東銀座に到着!
 ここから、もう一息!
 地下鉄のホームから、狭い階段を駆け上がり、
 入り口では,本日幕見は立ち見になりますけれど、よろしいですか?と聞かれるも、
 ここまで来たら悪いもくそもない。
 幕見席は4階なので、ひたすら駆け上がる。
 地下から合計すると5階ぶん。
 普段なら考えられないスッタカした足取りで!(ゼイゼイしつつではあっても)
 ひー!間に合ったーー。

 新之助の重善は、罪としつこい女から逃れるための道行きに旅立とうと、
 普段なら紺色縞模様の風呂敷包みを背負って出るところを、
 サンタ帽、サンタの白ヒゲ、白いプレゼント袋という出で立ちで登場。
 客席は大喜び!
 私もニヤニヤ。
 他にもちっちゃなクリスマス風味の演出がちりばめられ、
 楽しい時間であった。
 仕事帰りに立ち見で1時間半なんて、絶対無理!と思っていたが、
 あっという間だった。
 
 ともあれ、メリークリスマス!


 帰り道、恐ろしい事に気がついてしまった。
 夜の部、最後の演目なら、
 木曜日だったら駆けつけられる!
 ひひ。
 来月も新之助の十六夜清心は19:55〜だぜ。

 明日も大掃除があるけれど、掃除は5時には終わる予定だ。
 そして明日は千秋楽だ。
 また明日も、東銀座方面へ行ってしまうのか、オレ??
 
 



2003年12月23日(火) 幕見。その1

 歌舞伎の筋書(プログラム)は2種類ある。
 一見同じ表紙ではあるが、
 月の後半になると、その月の舞台写真が挿入されるのだ。
 
 なのでチケットを買うときも、出来れば20日すぎにしようと思うのだが、
 諸般の事情でそうとばかりもいかない。

 今月は月の半ばにすでにチケット手配済みの分は見終えていたので、
 筋書をどうするか・・・。
 贔屓の役者さんがいれば、やはり写真入りを手に入れたくなる。
 だから、不便ではあったが、まだ筋書を買わずに済ませてきた。

 これは、やっぱり幕見に行くしかないでしょう!
 だったらやっぱり実盛物語だな。
 久々の幕見で張り切って出かける。
 
 これは観たいところだけを、席は4階ではあるが、
 700円〜900円の当日券で観られる仕組み。
 一般(?)のお客さん達とは、入り口も違うし、中でもしっかり区切られていて、
 食事や売店へは行けないのだが、
 その区切られぶりが、また面白い感じ。
 
 実盛は900円だが、クーポンを持っているので700円。
 舞妓の踊りも一組になっていて、お得な気分。
 席を確保して、見渡すと、外人さんがいーっぱい。
 ほほう。
 座席は2列しかないのだが、
 1列目は、ワカモノや歌舞伎好きっぽい人、そして大向こうさんなど。
 2列目は殆どが外人さんだった。
 後ろの席で、ひたすら歌舞伎の説明をする英語の会話。
 あのストーリーの複雑な実盛でも、こうやってくわ〜しく説明するんだろうか?と
 ちょっと不安になる。
 でもでも、せっかくの(おそらく)はじめての歌舞伎見物なのに、
 前の席の日本人に「おしずかにねがいます」と言われて悲しかった・・・等と、
 異国の人の思い出に残るのは嫌だなあ〜と余計な心配をしてしまう。
 
 踊りがはじまってみると、私のお隣は大向こうさんだった。
 「なりこまやっ!」などと、声をかけてる。
 ちょっとかけ方が初々しく、上手いとはいえないが、
 五月蠅いほどにはかけてなかったので、安心。
 これが、へっぽこ大向こうさんの隣だったら最悪だろうなーと思う。
 
 そして後ろの英語で詳しく説明しつつ「HAHAHAHA!」などと笑う、
 見た目どこから見ても日本人のおじさんと、外国人のお嬢さんは、
 一幕目の踊りだけ見て、帰っていったのでホッとする。
 あとは、斜め後ろでむずかってる外人の赤ちゃんが、どうか寝てくれますように〜。

 「実盛物語」は遙か4階から眺めても楽しめた。
 ここからは花道は全く見えないのだが、
 馬上の引っ込みだったので、ちゃんと見える!
 おおー何度観てもすばらしい!
 他のベテラン俳優の実盛だと、ここはゆったりと引っ込むらしく、
 颯爽と駆け抜ける新之助を、目に焼き付ける。

 念願の筋書きも買えたし、幕見ワールドも堪能し、満足。
 給料日前だし、クリスマス前だし、
 さくっと帰宅。


2003年12月16日(火) 通しで一日。

 今日は一日中、朝から晩まで歌舞伎座。
 昼の部と夜の部では演目が違うので、
 全部観ようと思ったら、朝の十時に家を出て、夜の十時に帰宅となる。
 あの古びた、不思議な空気の漂う歌舞伎座の中にずうっといると、
 魔法でもかけられたように、時間の感覚がゆがんでしまう。
 それがまた心地よい。

 昼の部は一階の二等席。

 「舞妓の花宴」
 三味線八丁、長唄八枚の豪華な舞台。
 長唄っていいもんだなあ〜とつくづく思う。
 びしっと姿勢を正した裃姿の男性が、それはそれは美しい声で唄うのだ。
 うっとり聞き惚れて、ウォーミングアップ終了。

 「実盛物語」
 先日の三階からは見られなかったアレコレを、今日はきっと見せていただくぜ!と気合充分。

 人気の演目だけに、このお話ってよく出来てるなあと思う。
 しどころいっぱい、見せ所いっぱいで、楽しめる。
 けれどその分、実盛役の役者の持ち味も、ニンも魅力も、足りないところまでも、
 ダイレクトに舞台に表れる気がする。

 「生締めものは初めて」と新がインタビューに答えてるのをみて、
 ナマジメモノって何??と思ったのだが、
 生締めのかつらは、時代物の、分別も情けもある武士の役に用いられるそうで、
 新にとって、1つ階段を上ることになる役なのだなあとしみじみ。

 そうしてたっぷり、思う存分、実盛を観て、
 実盛にぞっこん惚れてしまった。
 実盛が実在の武将だと知り、その気持ちはますます強くなる。
 これは新之助に惚れ惚れするのとは、またちょっと違う。
 もちろん他でもない新が演じたからこその、あの清潔感や爽やかさ、そして色気ではあるのだろうが、
 それだけではない気がする。
 あの乱世に、男としてああいう生き方をした実盛を、かっこいいと思った。
 
 渡辺保「歌舞伎手帳」より
 ドラマとして大きな特徴がある。それは終わりの方で、実盛が何十年後かに北陸篠原の戦場で自分の死を予想するところである。これはきわめて非合理的でバカバカしく思えるが、実はそうではない。浄瑠璃の大きい特色は、歴史の起源を説くというところにあるので、実盛が予言者なのではなくて、ドラマの中で時間が逆行するのである。事実名優の舞台、名人の浄瑠璃では、その瞬間、歴史の時間の一筋の流れ、その流れの中にうかぶ人間の一生が、この芸能の中にうかび上がってくる。その意味で、この作品のテーマは「時間(歴史)」だといえるだろう。

 これを帰宅してから読んだのだけど、そうか!これか!と納得する。
 あの時あの瞬間、新之助を通して、実盛の武将としての一生をかいま見た気がして、
 それでこんなに心が離れないのだ。

 今日も昼の部はここで完全燃焼してしまい、
 その後の踊り「道行き旅路の嫁入り」と「西郷と豚姫」は上の空。
 どうしたもんか。
 けど本当にそれくらい実盛は凄かった。

 この日のランチ 宴弁当(12月限定)
 それぞれが程良いお味で、美味しゅうござった。

 夜の部までの間に気分転換しようと銀座まで歩く。
 山野楽器でCDを買い、
 ランチはちょっと豪華だったので、夜の分はエスプレッソとサンドイッチをテイクアウト。
 
  
 夜の部は一階一等席。
 「太十」の佐藤正清は、加藤清正のことだそう。
 「“荒ぶるもの”を意識しながらつとめます」(新談)とのことで、
 おうおう!凄いわい!
 瞬きもしないくらい、力がみなぎってる。
 加藤清正の末裔が酒作りをしているらしく、飲んでみたい気がする。

 「狐狸狐狸ばなし」を近くでみると、やっぱりなんともいえず色っぽいっす。

 一日通しで見ると、役それぞれの、違った顔の新が一気に観られて、
 盛りだくさん。
 そして、この人の華というか、オーラというか、
 出てきただけで空気を振るわせるような力を確認できて、
 とても嬉しい。

 ずっと歌舞伎から離れていたので、
 以前新の舞台をみた時、彼はまだ十代で、
 ヒヨヒヨと声も定まらないような、少年だった記憶しかない。
 白塗りの新や、時代物の新が、思ったよりも良くなかったら、
 これで私の熱も少しは冷めて、お財布も痛くないし、
 それはそれでいいかも、なんて
 ふとどきなことすら考えていた。
 けれど、それは嬉しい方向に裏切られて、
 これからどうなってゆくのか、本当に楽しみな人だと思う。
 まだまだ私も頑張らねば。

 ○○追記○○
 オマケ?のプチ画像日記を作りました。
 
 
 


2003年12月14日(日) 十二月大歌舞伎 昼の部 実盛物語!

 今日は昼の部。
 三階西の席は、座っていると花道が全然見えない・・・。
 しかも比較的舞台寄りの席だったためか、
 真横から見下ろすような位置で、舞台の上手半分くらいまでしか見えないのだ。
 さすがは歌舞伎座だ。うぬう。
 それでもめげずに、目の前の手すりを鉄棒に見立て、
 殆ど前まわり!するくらいにのぞき込むと、かろうじて花道を真上から見ることができる。
 4つある演目のうち、新が出るのは一つだけ。
 大河帰りの歌舞伎リハビリと思えば、こんなものだろうか。

 「舞妓の花宴」(しらびょうしのはなのえん)
 昼の部最初は11時から始まるので、さっくりした踊りがちょうどいい。
 客席もまだチラホラ空席がある。
 衣装がとてもとてもキレイ。
 
 「源平布引滝〜実盛物語」(げんぺいぬのびきのたき〜さねもりものがたり)
 まってました!
 新之助は主人公の実盛。
 源平争乱の時代。
 ストーリーは案外複雑で、平家方の検分役として登場の実盛は
 実は昔の恩を忘れず源氏に心を寄せている。
 そして、源氏の葵御前と、そのまだお腹にいる赤ん坊(後の木曽義仲)を守ろうとする。
 平家なのに源氏の見方の心。
 それ以外にも、実の娘だと思っていたら実は捨て子だったり、
 敵かと思えば、捨て子の父親であったり、
 死んだと思っていたら息を吹き返したり、
 歌舞伎ならではの波乱の物語。
 新の実盛は、大きくて懐が深く、知的で情け深い、実に格好いいヒーローの役。
 これを爽やかに力強く演じていた。
 10年前の頃は私には聞き取れなかったり、わかりにくかった台詞や義太夫の声も、
 今回は何故かしみこむように理解できる。
 新之助に集中してるからか。
 それだけ自分が年取ったからなのか、嬉しかったり悲しかったり。
 なので新の実盛の良さも相まって、物語に入り込み、泣けて仕方なかった。
 くううーー。

 ことに幕切れ、漆黒の馬にまたがり花道幕外引っ込みの大見得は、
 三階からぶら下がるようにして眺めていても素晴らしかった。
 客席に「じわ」がくるというのを、初めて目撃してしまった。
 以前「じわ」って言葉を知ったとき、ほーと思ったものだが、
 「劇場で、クライマックスや入神絶妙の演技の直後に、
  観客が詰めていた息を一斉に吐くために起こる低いどよめき。じわじわ。」(国語辞典より)
 これだよこれ。
 三階から見下ろすと、馬上の新之助のタメに客席が心一つに息を詰め、
 見得が決まると、ほぉ〜やら、はあ〜やら、声にならないどよめきが自然に起きる。
 その中を颯爽と馬で駆け抜け、
 張りだした二階席の天井をさらりとかがんでくぐり抜ける後ろ姿が、もうたまらん。
 やっぱりいいなあ、新之助。

 ぼーっとしたまま、ロビーのソファに倒れ込み見上げると、
 そこには十一代目の笑顔が。
 ここは思い出の名優達の写真がズラリと掲げられているコーナー。
 じいちゃんの写真に、新は頑張ってるよねーとかアレコレ胸の内で語りかけながら、
 しょっぱい焼きタラコが美味しい歌舞伎おにぎりを、パクつく。

 見づらいショボイ席でも、連日の観劇でも、疲れもなにも吹っ飛ぶ思い。
 来て良かった〜。

 ここで完全燃焼してしまって、
 次の踊り、「仮名手本忠臣蔵〜道行旅路の嫁入り」ではウトウトしてしまう。
 これがまた気持ちいいのよね。
 三味線の音のせいか?

 勘九郎と団十郎の「西郷と豚姫」も良かったが、
 もはや今日のオレにはオマケでしかない。

 ○○追記○○
 渡辺保氏も「新之助実盛の大出来」と褒めてる!
 とても嬉しい。
 


2003年12月13日(土) 十二月大歌舞伎 夜の部 歳末チャリティーサイン会

 朝から気合いを入れて仕事。
 それでも仕事が終わったのは、いつもよりも少し遅め。

 必死で帰宅し、今日発売の寿一月初春大歌舞伎のチケットゲットのため、
 電話をリダイヤルしまくる。
 出かけるまでの1時間で、どうかつながりますようにー!と念じていたら、
 思いがけず20分でつながる。
 チケットホン松竹の凄いのは、
 電話で希望の日や希望の席種を言うと、今とれる席の席番号を調べてくれ、
 こちらが納得して決めるまで付き合ってくれるってところ。
 でも、自分も気に入った席が選べる分、
 一通話は長くなり、当然電話はつながりにくくなる。
 そして、こういうとき何故かヘタレな私は、事前に第三希望くらいまで考え、
 ちゃんとシミュレーションしてあるにもかかわらず、
 いつもへどもどしてしまう。
 ずっと電話かけまくって、不意打ちに繋がるのも心の準備ってものが出来ないし、
 発売日の殺気だった空気が、私を追いつめるんだと思う。
 結局、後で、あーこっちの日の二等席も聞いてみるんだった・・・とか、後悔するはめに。
 とはいえ無事チケットを手に入れ、ほっとする。

 おにぎりで遅い昼をすませ、いざ歌舞伎座!
 地下鉄で、ほんの10分くらいだったけれど、深ーく眠れて気持ちよかった。
 週末の歌舞伎座前は熱気がムンムン。
 チャリティーのサイン色紙をひやかし、富十郎の隈取り(20万円)をホ〜っと見上げ、
 すっかり楽しくなる。
 今日の席は二等席(¥10500)だが、こないだ急遽買い足した席で、
 一階の最後列。
 どんだけヘボイ席かと覚悟して行ったせいか、思ったよりはずっと観やすい。
 思えば10年前はまってた時は、いつもいつも三階だった。
 あれが基準になってるせいか、一等は勿論二等でも、満足な気持ちになれる。

 「絵本太功記〜尼ヶ崎閑居の場〜」
 このお話は13段からなっているのだけど、今は専ら十段目の尼ヶ崎のみ上演されるらしい。
 なので通称「太十」と呼ばれる。
 これだから歌舞伎ってこんがらかるんだよ。
 なので覚え書きとして記す。
 もともと人気の人形浄瑠璃を役者がやるんだから、面白くないわけはない。
 佐藤正清役の新之助の出番は、後半10分くらいだけ。
 けれど、凄かったー。
 追いつめられた光秀を挟み撃ちにするために、
 花道、揚げ幕の内側から大声で呼ばわる新の声を聞いただけで、
 ひょひょひょ〜歌舞伎だーーーー!新之助だーーー!と興奮。
 隈取りも荒々しく、見得をきるその姿!
 そしてジッとしてる所でも、素足の親指だけがピンッ!と立っていて、
 まさに頭のてっぺんから爪先まで、力がみなぎりともかく美しかった。
 この人が荒事のお家の生まれで本当に良かった!と感激。
 時代物のお決まりの、華やかな絵面の見得が決まって幕が降り、
 なぜこの段だけが人気で残ったかが、よーくわかった次第。

 幕間
 勘九郎がロビーでサイン会。
 さっきまで白塗り前髪姿だったのに、もうさっぱりとセーターに着替えてる。
 気さくに機嫌良くサインしてた。
 70名分、あっという間に定員になってた。
 それを横目にみながら、今日から売り出された今月の舞台写真にクラクラ。
 新之助の分は14枚。どれにしようか??
 気に入った写真と、千代紙の表紙のブロマイド入れを買いもとめ、大満足。

 「素襖落」
 松葉目物の舞踏で、新も出ないし、気楽に見る。
 この幕のイヤホンガイドの女性が渋くて、聞いていて楽しかった。

 「狐狸狐狸ばなし」
 これはもう、勘九郎がのびのびと「ザ・中村座」!という感じで笑わせてくれた。
 ねちっこいダンナ(勘九郎)に嫌気がさした女房(福助)が、
 モテモテなまぐさ坊主(新之助)と浮気をし、
 ダンナが邪魔になり殺してしまう。
 ところが殺されたはずのダンナが生き返り〜という、
 ドタバタあり、濡れ場(?)ありの、喜劇。
 いい加減で女にだらしなくてワルで、でもモテモテ!の坊主を、楽しげにやってる新。
 案外、素でもこれに近いかも?とか思ったり。わはは。
 新は「牛娘」なる大女にも惚れられ、体中舐め回されるシーンがあって、
 昔の人はこれで喜んでたのか・・・?と苦笑い。


 そんなこんなで、なんだかとっても楽しかったのだった。
 あー贔屓の役者が毎月歌舞伎座に出る幸せ。たまらぬ。

 明日は昼の部を三階のしかも西の、しょぼしょぼの席で観てくるぜ。
 うは。


 ○○追記○○
 新の佐藤正清について、演劇評論家の渡辺保氏が、
 「新之助の正清は、怪物の如く、並外れたエネルギーはあるが、
  それがキッチリ箱に入ってこそ義太夫狂言の芸である。」と書いており、
 カイブツかー!うはは!と笑ってしまう。


しま |てがみもくじを見てみるひとつ前

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