日記のような語りのような。

2004年06月06日(日) 君といつまで4 <ランセイ>

「……あたたかいな、お前は」

そんな呟きが耳に入り、ランディくんははっと我に返りました。
オスカー先輩の背中は先刻と全く変わっていませんでした。
ただ、手が動いている様子なので、きっとセイランを撫でているのでしょう。
オスカー先輩が触れているであろうセイランの柔らかな毛皮を思い出し、ランディくんはテーブルの上で手をぎゅっと握り締めました。

「ランディ」

ふいに振り返ったオスカー先輩は、腕にセイランを抱いたまま真っ直ぐにランディくんを見つめます。

「今まで、迷惑かけて悪かったな」

オスカー先輩の真紅の髪、射るようなアイスブルーの瞳、そしてセイランの深い蒼は、絶妙なバランスでそこにありました。
他に何者の存在も許さない、それは既に完成した風景に見えて、ランディくんは泣きたくなりました。
――こんなに、近くにいるのに。
どうして自分が『そこ』にいないのだろうと、悔しいような泣きたいような想いが頭の中をぐるぐると回っています。

「……ランディ?」

オリヴィエ先輩の手が、きつく握ったランディくんの手に重なります。
驚いてオリヴィエ先輩を見て、初めてランディくんはオリヴィエ先輩の心配そうな目に気づきました。
そうしてやっと、わかったのです。
オリヴィエ先輩が、玄関で云った言葉の意味を。

『アンタ、大丈夫?』

それはきっと、こうなることを危惧して云ったことだったのでしょう。
ランディくんが気づいていなかった、いえ、気づかないフリをしていたことを、オリヴィエ先輩は見抜いていたのかもしれません。

『オレに止める権利なんて、ない』

わかっていた結末を、今になって否定したくなるなんてどうかしている、とランディくんは思いました。
セイランはオスカー先輩の猫で、ランディくんくんのものではありません。
けれどそれでも、想ってしまうのはどうしようもないことなのかもしれません。

「オスカー先輩、オレ……」

真っ直ぐにオスカー先輩を見据え、ランディくんはゆっくりと口を開きました。
ランディくんの頭の中には今、ひとつの想いしかありません。
これでもうサヨナラなんて、嫌だ――。


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紗月 [MAIL]