日記のような語りのような。

2004年05月29日(土) さよなら、大好きなひと。7 <ハボロイ>

みゃあ、とロイが鳴きました。
みゃあみゃあ、と続けて鳴きました。

「大佐……」

もう見えないヒューズさんの乗ったタクシーを追うように。
行ってしまったハボックさんを呼ぶように、ただただ鳴き続けるロイを見てハボックさんは思いました。
彼はあのときも、こんな風にあの人を呼び続けたのだろうか、と。
決して振り返ることがないとわかっているはずなのに。
それでも、鳴かずにいられないほどに、ロイはヒューズさんが好きなのでしょう。

「……大佐」

ロイの横に回ったハボックさんは、その場にすとんとしゃがみこみました。

「大佐」

顔を覗きこむようにして呼びかけると、今度はロイはこちらを振り返ります。
真っ直ぐな瞳をそらされないように、ハボックさんは慎重に口を開きました。

「今度一緒に中佐ん家に行きましょうよ。グレイシアさんとエリシアちゃんに会いに」

ロイは、ハボックさんを見ていました。

「だってあんたは嫌われたわけじゃない。口実さえあれば、いつだって会えるんだから」

『ごめんな、ロイ』

ハボックさんが電話をしているとき、ヒューズさんがロイに云った言葉がまだハボックさんの耳にはしっかりと残っています。
ヒューズさんはロイを捨てるのに相当の決心が要ったのだと、ハボックさんがすぐに気づいてしまうほどに、あの呟きはヒューズさんの気持ちそのものだったのでしょう。
それに、優しいグレイシアさんが、エリシアちゃんが、望んでロイを捨てることに同意したわけがないのです。
きっとまだ、会いたいと思っている、とハボックさんには確信めいた思いがありました。

「俺が、ちゃんと連れて行ってあげますから」

例え一緒にいることができなくても、互いに想っているのなら会うことくらいは可能なはずです。
大丈夫だ、とハボックさんは思っています。
彼らはきっと、こぼれんばかりの笑顔でハボックさんとロイを迎えてくれるはずです。

「ねぇ大佐」

大人しくハボックさんを見上げたままのロイの瞳は、いつもと変わらない真っ黒な強い光をもっていて。

「だから、帰りましょ?」

ハボックさんが差し伸ばした手を、ロイはじっと見つめました。
数瞬後、するりと手に収まったあたたかな黒に、ハボックさんは目を細めます。
手の中の黒を抱き上げ、ハボックさんは自分たちの家へと足を向けました。


1人と1匹の生活は、ここからまた新たに始まるのです――。


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紗月 [MAIL]