日記のような語りのような。

2004年05月12日(水) 君の帰るところ6 <ハボック&?>

「それで、その子は少尉の家の?」
「はい、名前はロイ・マスタング。拾ったときから名前はついてたみたいで、『大佐』って呼ばないと振り向いてくれないんです」
「大佐……こりゃ参ったな、俺たちより上なのか」

大人しくなったロイの頭を撫で、ハボックさんは苦笑しました。

「だから大変なんですよ、ワガママで」
「ああ〜なんかそれっぽいな、雰囲気が」
「そっちはどうですか? ラウ……でしたっけ?」
「こいつはいいぞ〜。可愛いし気品があるし、素っ気ないところもまた魅力だしな!」
「……はあ。そうっスか」

明らかにラウにぞっこんなムウさんに、ハボックさんは思わず呆けてしまいますが、人それぞれだろうと思いなおしてどうにか持ち直しました。
そしてひとつ、気になっていたことを云ってみます。

「そいつ、うちのベランダにいたんスけど、散歩とか好きなんですか?」
「ラウが? ……ああ、ときどきふらっといなくなることはあるな。ちゃんと帰ってくるから放っておくけど、そうか、少尉の家にいるときもあるのか」
「なんか普通にベランダにいて気づかなかったんですけど、もしかしてしょっちゅうウチに来てたりするんスかね」
「そうかもな、いつの間にか友達できてたりするから、こいつ」

……となると、もしかしなくてもハボックさん不在時にはハボックさんの家が溜まり
場になっていたりなどということがあったかもしれないということで。
そういえば最近あたたかいから窓を開け放しておくことがよくあったのですが、もしやそのときにラウとロイは知り合ったのかもしれない、とハボックさんは思いました。
まあ別に、害があるわけでもないので構わないのですけれど。

「しっかし、少尉までが猫を飼ってるとは思わなかったな」

しかも隣の家で、だ。
いたずらっぽくウインクをしてみせるムウさんに、ハボックさんも笑ってしまいます。
なんだか、猫のお陰でそれまでつながりすらほとんどなかったムウさんとの距離がぐっと縮んだような気がします。

「プライベートなんですから、少尉はやめてくださよ。ハボックで結構です」
「じゃあ俺もフラガで頼むな。あんまり大尉大尉云われると狙われそうで怖いから」

確かに、大尉や少尉という地位の人間がこんな住宅街のよくあるアパートに住むなんてことはとても珍しいことで。
諸々の事情で、ムウさんとハボックさんは軍内部の寮でなく外部のアパートを借りているのですが、外部ともなると、内部の寮ほど警備が整っていないので、下手に軍人であるとバレると何かと面倒なことが起こりやすくなってしまうのです。
――今のところは、まだ何の問題も起こってはいませんが。

「それじゃあハボック、また何かあったらよろしくな」

いくらか世間話も交えた話をして、ムウさんは爽やかに手を振り背を向けました。

「はい、こっちこそよろしくお願いします、フラガさん」

隣室に消えたムウさんの横顔を見ながら、ふとハボックさんは、ムウさんのあの最初の剣幕は一体どこへ行ったんだろう、と思いましたが、でもまぁ今さらだからいいか、と思い直して自室へと戻りました。

それぞれの、帰るべき場所へ。


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紗月 [MAIL]