日記のような語りのような。

2004年04月12日(月) 君に会いたい5 <続・君がいるから>

「やっと……?」

思わぬ言葉にムウさんが顔をしかめると、アスランくんは小さく頷きました。
そしてはっきりと云います。

「ラウは、父の猫です」
「――っ!」
「ラウが『ラウ』であるというのなら、間違いありません」

ラウは父の――パトリック・ザラの猫です。
確かめるように呟き、アスランくんはラウの前で膝をつきました。
覗きこむように顔を傾け、手を差し伸べるとラウは目の前の手に少しだけ顔をすり寄せました。

「お前、まさか――」

戸惑うムウさんの声が聞こえているのかいないのか、ラウの首元を撫でながらアスランくんはぽつりと零しました。

「まさかこんな日が来るなんて……」
「アスラン?」

心配したようなキラくんの声に、アスランくんは少し振り返って笑ってみせました。
そして手の中にラウのぬくもりを感じたまま、ムウさんを見つめます。

「俺の母は、数年前に死にました」
「……え?」
「父は以前から自分にも他人にも厳しい人で、そんな父が唯一気の許せる場所は、母の前だけでした」

幼いある日のこと、小さなアスランくんは見たのです。
いつでも厳しかった父が、母と2人きりでいるときはいつもより少しだけ表情が穏やかで、見たことのない柔らかな笑みすら浮かべていたことを。
それは、物心ついてからずっと厳格な父の姿しか見たことのないアスランくんにとってはとても衝撃的なことでした。

「母が死んでも、父は何も変わりませんでした。――いえ、変わっていないように見えました」

迅速に的確に葬儀と墓の手配をする父は、それがまるで仕事のひとつと変わらぬものであるかのように見えたのでしょう。
最愛の妻を失ったというのにどういう神経をしている、といった類の心無い陰口を叩くものは少なからずいたのです。

「けれど、俺には父が以前にも増して張り詰めていたように見えたんです。だから、少しでも気休めになればと、ペットを飼うことを勧めたんです」

仕事と関わりのない子供の進言などに耳を貸すことのなかった人間があっさりそれを受け入れ実行していたところをみると、やはり本人にも多少の自覚はあったのでしょう。
数日後、父の秘書が猫を連れてザラ邸を訪れたときは、アスランくんも大層驚いたものです。

「……父は、飼い始めた猫をとても可愛がっていました。母に対するのと同じように優しく触れていて――俺にすら、触れることを許さないほどに」
「その猫が、ラウ?」

キラくんの疑問に、アスランくんは首を横に振りました。

「いや……その猫は死んだよ、1ヶ月前。そして、次に父が選んだ猫が、このラウだったんです」


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紗月 [MAIL]