| 2004年03月30日(火) |
君がいるから5 <ムウラウ> |
ムウさんの家を訪ねてくる人はとても少なく、それは休日であっても同じことです。 久々に何の予定もない休日、ムウさんは日頃の疲れをそぎ落とすかのようにひたすら惰眠を貪っていました。 一度はラウにエサをやるために起きましたが、その後はまたベッドに潜りこんでだらだらと過ごしていたのです。 開け放した窓からあたたかな風が部屋中を満たして、それはとても気持ちの良い朝でした。
「……っあー?」
家のチャイムが鳴ったような気がして、ムウさんはのっそりと起き上がると玄関へと向かいました。 どうせ新聞の勧誘かなにかだろうと、あまり良くない態度で扉を開けると、そこにはぴしりとスーツを着こんだ真面目そうな男の人が立っていました。
「ムウ・ラ・フラガさんですね?」 「はあ、そうですけど。……あの、どちらさんで?」
真面目というよりむしろお堅いといった風な男の人は、微動だにせず睨むようにムウさんを見ていました。
「先日電話をさしあげた者です」 「あ……」
ということは、彼がラウの飼い主なのでしょう。 安易に答えにたどりつき、ムウさんはどきりとしました。 それと同時に、自分の格好を見て、男の人の目がどことなくきつい理由が何となくわかったので、思わず苦笑してしまいました。
「すいません、もうちょっと待っててください」
有無を云わさず扉を閉めると、ムウさんは慌ててよれよれのシャツを脱ぎ捨てました。 ああいうタイプから見ると、こんな服で人前に出るのはきっと信じられないことなのでしょう。 確かに真面目そうな人ではありましたが、彼が本当にラウの飼い主なのだろうかと思うとムウさんは首を傾げざるを得ませんでした。 どうも彼が、ペットを飼ったり愛でたりするタイプには見えなかったからです。
「でもまぁ、仕方ないよな……」
実をいうと、ムウさんはまだ迷っていました。 ムウさんの気持ちは変わりません。 けれど、ラウがどうなのかは未だによくわからないのです。 あの日、確かに気持ちが繋がったように思えましたが、それでもまだ考えてしまうのです。 一体どうすることが、ラウにとって幸せなのか。
「ラウ」
しかし心を決める前に、タイムリミットはやってきてしまいました。 どうしようもないけれど、せめてたまにでもラウに会わせてもらえるよう交渉しようと思いながら、ムウさんは最後のお別れのためにラウを呼びました。
「ラウー」
先刻までそこにいたはずのラウがいません。 部屋を見回してもキッチンを覗いてもラウの姿が見えず、ムウさんは戸惑いました。
「……ラウ?」
ふわりと風が動き、窓を開け放していたことを思い出したムウさんは窓の外に顔を出しましたが、ベランダにもラウの姿はありませんでした。
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