| 2004年03月27日(土) |
君がいるから2 <ムウラウ> |
受話器を下ろしたムウさんは、ラウの前でかがむとその頭をそっと撫で、なんともいえない困ったような顔をして慌しく家を出て行きました。
お昼休み、なんとなく職場の食堂ではなく外のレストランへ入ったムウさんは、そこでキラくんに出会いました。 キラくんはまだ16歳ですが軍人です。 どちらかというと肉体労働派なムウさんとは正反対で、軍に関係するコンピュータやプログラムなどを作ったりする仕事に就いています。 まだ新人ですが、プロをも唸らせるその能力は軍内において高く評価されています。 キラくんが受けた研修を通して2人は知り合ったのですが妙に馬があい、いつの間にか仲良くなっていたのです。 元々仕事内容が全く違うために最近は会うことがなかったのですが、今日は偶然にも何気なく足を向けたレストランでばったり再会しました。 軽い世間話をしていた2人でしたが、ふいにキラくんが首を傾げました。
「フラガさん、何かあったんですか?」
流石、若いのに優秀なキラくんです。 フラガさんの様子がいつもと違うとすぐに気付いたキラくんは、控えめですが心配そうにフラがさんの顔を見つめていました。 対するフラガさんは、フォークをサラダに刺したまま手元をじっと見下ろしていました。 フラガさんの頭に、今朝の電話の声が繰り返し響きます。
『迷い猫の貼り紙を拝見したのですが』
迷い猫とは、間違いなくラウのことでしょう。 ラウがムウさんの家にきてすぐ、ムウさんは役所に迷い猫の届けを出し、自分でも何枚か貼り紙を書いたのです。 それは一刻も早くラウの元の飼い主を見つけるため。 そしてムウさんが思ったとおり、飼い主らしき人物から連絡が来たのですが。
「フラガさん?」 「――っ、あぁ、悪い」
はっと我に返り、フラガさんは気を持ち直すように笑みを浮かべますが、キラくんにはそれすらも不自然に映るのでしょう、わずかに眉を寄せたキラくんに、フラガさんは苦笑しました。 勘の鋭いキラくんには誤魔化しは逆効果だと悟ったムウさんは、諦めたような、けれどどこか安堵を含んだ溜息を洩らし、ぽつりぽつりと話しだしました。 今猫が家にいるということ、その猫――ラウと初めて出逢ったときのこと、ラウを連れ帰ってからのこと、そして今朝の電話。
『後日、引き取りに伺います』
事務的な男の声を、ムウさんは忘れることができません。 望んでいたはずのことに、動揺するのはなぜなのか、ムウさんにはわかりませんでした。 黙って話を聞いていたキラくんは、少し考えこんでからゆっくりと言葉を紡ぎました。
「――フラガさんは、その猫と一緒にいたいんですか?」
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