日記のような語りのような。

2004年03月26日(金) 君がいるから <ムウラウ>

それはいつもと変わらない朝でした。
目覚まし時計より少しだけ早く目覚めたムウさんは、まずカーテンを開いて部屋の中に光を入れるとキッチンに向かいます。
お鍋にミルクを入れて火にかけ、温めるあいだに顔を洗って寝癖も整えてしまいます。
そうして温まったミルクのほとんどをマグカップに、残った少しを浅いお皿に入れると、パンや卵を焼いたり残り物を使ったりして軽い朝食を作ります。

「……うっし、完璧だな」

今日のムウさんの朝食は、トーストしたパンとベーコンにスクランブルエッグ、昨晩たくさん作っておいたサラダと、ホットミルク。
ざっとテーブルに並べてひとつ頷くと、ムウさんはテーブルと反対の方へ身体を向けました。

「ラウ、起きろ。朝だぞ」

ムウさんの足元には、白い塊がひとつ。
丸いクッションを薄い毛布でくるんだものの上で、さらに丸くなっている真っ白のもの。
そう、それはラウでした。
ムウさんの声が聞こえたのか、ラウはぴくりと耳を動かすとゆっくりと頭を上げました。
そして、目の前にいるムウさんを見つめると小さくにゃーと鳴きました。
おそらく起きたくないとでも云っているのでしょうが、ムウさんは気にせずラウの頭をぽんぽんと軽く叩きます。

「ほら、ミルクが冷たくなる前にちゃんと起きろ」

ムウさんがラウにちゃんとエサを与えることができるのは、実は朝のこの時間だけなのです。
昼間はムウさんは仕事でいませんし、夜に家に帰る時間は、大抵は同じですがそれでも少し遅めで、ときどき残業が入ってしまえば帰るのは日付が変わった後になってしまいます。
なので、ムウさんは朝きちんとラウにエサをやると、昼夜の分のエサをもしものためにと多めに置いて家を出るのです。
ラウは温かいミルクが好きなのですが、こういった事情のために昼と夜に飲むミルクはみんな冷たいものなので、温かいミルクは朝またはムウさんの帰宅後しか飲むことができません。
そのため、本当はちょっと嫌でも朝になるとラウはちゃんと起きてくるのです。
ゆっくりとラウが起き上がるのを確認すると、ムウさんはラウをひょいと持ち上げてテーブルの上、2枚のお皿の前に下ろしてやります。
1枚には温めたミルクが、もう1枚には近所のペットショップで勧められて買った仔猫用のエサが入っていました。

「……」

お皿の前でじっとするラウを、ムウさんも思わずじっと見つめてしまいます。
ラウがこの家に来てもうそろそろで1週間経ちますが、ラウはあまりエサを食べません。
ミルクは飲むのですが、どうもエサを食べているところを見かけないのです。
ムウさんがいない間には置いておいたエサを多少は食べているようなのですが、ムウさんが見ている前では未だにちゃんと食べてくれません。
実のところ、ムウさんはそれが残念でならないのです。
なので今日こそは、と思いながら、ムウさんはラウを見つめます。
いつもならすぐにミルクを舐めはじめるラウが、今日は2つのお皿を見つめていました。
どうしたのだろう、とムウさんが思ったそのとき、ラウの頭が動きました。

「あ……」

ラウは、ミルクの方でなくエサの方のお皿に顔を向け、エサをぺろりと舐めました。
食べにくいものではないと確認したのか、何度か繰り返してからきちんと口をつけて食べ始めます。
よかった、とムウさんは安心して小さく息を吐きました。
そしてラウを見て少しだけ笑うと、自分のご飯へと向き直ったのです。


ムウさんが家を出ようとしたそのとき、電話が鳴りました。
急いで電話を取ったムウさんは、驚いた顔をして、そうしてラウの方を振り返りました。


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紗月 [MAIL]