お腹がいっぱいで満足そうなロイに、ハボックさんは呆れたように溜息をつきました。 ロイがねだるおかげで、目当てのおかずはほとんど食べられずハボックさんは少しだけがっかりしていたのです。 けれどロイはそ知らぬ顔で毛づくろいをしていました。 ハボックさんは思わず恨めしげな目でロイを見てしまいますが、ロイは全く気にしていないようです。 ロイは一体、前の飼い主にどれほど甘やかされていたんだろう、と呆れつつもハボックさんは思いました。
「……とりあえず、風呂入るか」
今のロイは外から連れてきたままなので、あまり綺麗とはいいがたいのです。 一度立ち上がってからロイの前にしゃがんだハボックさんをロイは一瞥しました。
「ロイ」
風呂に入れてやるからこっちに来い、とハボックさんは手を伸ばしましたが、ロイは寄ってきません。 それどころか、ぷいっとあらぬ方向を向いてしまいました。
「ロイ? ローイ」
いくら呼びかけても、ロイはハボックさんを無視します。 一瞬、無理矢理に抱き上げて連れて行こうかとも考えたハボックさんでしたが、やはりできればロイの意志でこちらに来てほしいので、どうにか方法を考えてみました。 ふと、ロイが入っていた箱にあった紙のことを思い出しました。
『地位は大佐です』
確かにそう書かれていた紙。 テーブルの隅に放っておかれたそれに視線を向け、ハボックさんは肩をすくめました。
「……俺だって少尉だってのに」
そう、実はハボックさんも軍人なのです。 ハボックさんの地位は少尉。 一般的に見ればかなり優秀な軍人といえるのですが、ロイの『大佐』に比べればまだまだです。
「こーんなちっこい猫が大佐なれるんだったら、誰も苦労しねーよな」
ロイに目を向けるとさらに手を伸ばし、苦笑まじりに呟いたハボックさんにロイの耳がぴくりと揺れました。
「ほら大佐、ちゃっちゃと身体洗って寝ましょーねー」
一歩近づきましたが、ロイは逃げようとはしませんでした。 それどころか、驚いたことにみゃあとひとつ鳴いたではありませんか。 思わずその理由を考えて、ハボックさんは目を丸くしました。
「……もしかして、『ロイ』じゃなくて『大佐』って呼べばいいんスかね?」 みゃあ
呆れまじりの声にも、ロイはちゃんと返事をします。 明らかに肯定の意味が含まれていると理解したハボックさんは、今日何度目かになる溜息を深々とつきました。
|