しばらくセイランとの無言の攻防をしていたランディくんでしたが、妙に耳につく時計の秒針の音にはっと我に返ると、ちょっと視線を彷徨わせてまたセイランを見ました。 セイランはただランディくんを見ています。
「……えっと……」
何か云ってくれないかな、とランディくんは思ってしまいましたが、セイランは猫なので喋ることなどできません。 そんなことは当たり前なのですが、このセイランはどうも人間よりも瞳の力が強いようで、いきなり話しだしてもおかしくないように感じるのです。
「せ、せめてミルクくらいは飲みませんか?」
なぜいきなり敬語になったのか、実はランディくんにもよくわかっていません。 ただ、どうしてかこの小さな猫の前だとどうも緊張してしまうのです。 セイランはまたしばらくランディくんを見つめていました。 ランディくんも、じっとセイランの返答を待ちました。
「……セ、セイラン……さん?」
ふいにセイランが動き出しました。 ランディくんは慌てて後を追うように立ち上がりますが、セイランは気にせずにその横を通り過ぎます。 セイランのためのエサが広げられたテーブルまでやってくると、セイランは軽い身のこなしでその上に飛び乗りました。 テーブルはランディくんの膝の高さほどあり、仔猫のセイランにはかなり高いはずなのですが、そんな様子をセイランは微塵も見せません。 テーブルの上のセイランは、エサの上に乗せられた空のビニール袋に顔を突っこんでいました。
「セイランさん、ちょっと待って」
何かを探しているのだろうか、とランディくんが袋をどかしてやると、下から出てきたいくつものエサのうち、ひとつの缶詰にセイランは興味を示したようでした。 缶詰を鼻先で押すようにしているセイランに気づいたランディくんは、その缶をひょいっと取りあげました。 するとセイランは缶を追うようにランディくんを見上げます。
「……これが食べたかったんですか?」
何の反応もないことを今回は肯定と受けとめ、ランディくんはキッチンから缶切りとお皿を持ってくると、缶詰を開けてお皿に移してやりました。 するとどうでしょう。 キャットフードには見向きもしなかったセイランが、黙々と缶のエサを食べ始めたではないですか。 その様子を見ながら、ランディくんはオスカー先輩から貰ったメモに、追記のように書かれた部分があったことを思いだしました。
『その日の気分によって食べるエサが異なるので、エサは臨機応変に与えること』
メモを取りだし目の前のセイランと見比べて、ランディくんは軽く溜息をつきました。
「……こういうことですか、オスカー先輩……」
これからうまくやっていけるだろうかとかなり不安になりながら、ランディくんは美味しそうにエサを食べるセイランの頭をほんの少し撫でました。
|