ムウさんがお皿に入れてやったミルクを半分ほど飲んで満足したらしいラウは、舐めるのをやめてちろりとムウさんを見上げました。 ラウの青い瞳にムウさんがどきりとしたとき、ラウが小さくみゃーと鳴きました。 その声に我に返ったムウさんは、慌ててバスルームからタオルを持ってくると、それにラウをくるんでやりました。 しばらく、ラウは所在なさげに視線を彷徨わせていましたが、お腹がいっぱいでさらに柔らかな毛布があたたかく気持ちが良かったのか、うとうととし始めました。 ラウの目がゆっくりと閉じていく様子を、ムウさんは静かにじっと見守っていました。
ラウが寝入った頃、ムウさんはキッチンに置きっ放しだったラウがしていた首輪のことを思い出し、それを取ってきました。 首輪についている金属のプレートの汚れを落として、少しだけ磨いてみると、見えにくかった文字がだんだんとはっきり読めるようになってきます。 上の方に細かい字、下の方に少しだけ大きめの字が書いてあるようです。
「R、A、W、W……だな。やっぱ『ラウ』か」
下の字は最初にムウさんが読んだとおり『RAWW』と書いてあったようです。 けれど、おそらくラウの飼い主の名や住んでいた場所のことが書かれていたであろう上の字は小さすぎるためか潰れてしまって読めません。
「お前、ホントにどっから来たんだ?」
ぽつりと零してみせますが、眠っているラウに聞こえるはずがありません。 ムウさんは小さく溜息をつくと軽く頭を掻きました。 道端で倒れていたラウを思わず連れ帰ったはいいものの、実のところムウさんにはラウを飼う気はなかったのです。 ムウさんは軍人です。 しかも、大尉というほどの地位にいますから、どちらかというと公務員に近い一般兵に比べればかなり不規則な生活になりがちなのです。 そんな風に、毎日の帰宅時間も定まらない状態で、仔猫など満足に飼えるはずもありません。 だから、とムウさんは思いました。
「……明日、迷い猫の届けを出してくるからな?」
ネームプレートまでついている首輪をしていたのですから、ラウが誰かの飼い猫である可能性は大いにあります。 事情などはわかりませんが、もし本当の飼い主がラウを探してるのだとしたら、ラウは本当の飼い主の元へ帰るべきだとムウさんは思うのです。
「ちゃんと世話もしてやれないけど、今だけ我慢してくれよな」
綺麗に洗ったお陰か、ラウの真っ白な毛はふわふわになっています。 そしてタオルからひょっこりのぞくこれまた真っ白な頭をムウさんは指先で優しくなでました。
その顔に浮かぶ穏やかな笑みに、気付かないのは本人ばかり。
|