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| 2006年04月02日(日) 二月の始めの出来事 |
| 私からするとまったくの赤の他人である異母兄の弟が、遊ぼうと誘ってくれたのでクラブに行った。ふたりだけで遊ぶのかと思ったら、クラブには彼の友だちがたくさん集まっていた。彼は私よりも5つも年下のくせに、あらゆる年齢の人と知り合いらしくいろいろと彼らは私に優しくしてくれたけど、どうにも居心地が悪かったので、一人で隅っこでお酒を飲んでいた。 居心地が悪かったのは、その弟が私のことを「友だち」とみんなに紹介していたからだ。 時々、彼と私のことをどういう風に呼び合っていいのか、又は誰かに紹介するとき何と紹介していいのか、私は迷ってしまう。 だけど、そんなことをゴニョゴニョ考えても仕方がないことだし、そんな仔細なことに理屈を付けたがる自分は、嫌なヤツだとも思った。 音にあわせて踊っていたら、知らないうちに白人の背の高い男の人が側に寄ってきて、なんだか窮屈だったので私はゆっくりと彼から離れたら、今度は日本人の男性とぶつかってしまい私とその人は踊るのを止めてお互いの顔を見やった。 こういう遊ぶ場所の不特定多数の人が集まる場所で、堂々と自分の会社の名刺を出せるということは、自分の仕事や会社にとてつもないプライドを持った人でないと出来ないことのように思う。私はぜったいに出来っこない。もしくは、誰かに誇示することによって自分を尊大に見せることが好きな人でないと出来ないことだとも思う。彼の出した名刺の会社名は、誇示するに充分に足る企業だった。 鼻持ちならない男だなぁと思った。 音楽が大音響で響いているので、私たちはお互いの耳の側で大きな声で怒鳴りあいながら話した。それはなんだかトランシーバで話しているような気がする。 大きな声で耳元で聞かれ、私は少し黙って考えてから、顔を彼の耳元に寄せて大きな声で答える。彼はそれを聞いて大きく頷いて、何かを考えるように少し間をおいてから、私の耳元に顔を寄せる。 その人の耳の下からはいい匂いがした。 お酒をたくさん飲んで段々とおしゃべりをするペースが早くなり、そのうち顔を寄せる私の肩を彼は自然に引寄せたり、私も彼と顔を見合わせる距離が随分と近くなっていることに気づいた。 もう一度お酒を飲んでいると、随分と向こうのテーブルに弟たちが座っているのが見え、私はよたよたと歩いて弟の隣に座った。 弟は、「なぜ僕と一緒に来たのに僕と一緒にいない?」と私に言った。私が知らない間にどこかに行ってしまい姿が見えなかったことを言っているのだ。 「だってあなたはたくさん友達がいるじゃない。」と私が答えたら、彼はむくれていた。 「何が言いたいのかわからないよ」と私はもう一度言ったけれど、彼は聞こえない振りをした。だけどそれは、私が先にわからない振りをしているだけのことだと私はわかっている。 また踊ってまたお酒を飲んで、もうどれくらい時間がたったかわからなくなった頃、またさっき話していた名刺をくれた人と出くわした。 その人とお店を出て、少し歩いた。雨が降っていた。傘をささなくても気にならないくらいの細かな雨だった。 電柱にもたれてキスをしている男女がいた。私たちはその傍らを歩いてファミレスにはいった。目が眩むくらい明るい店内になんだかお互い照れ笑いをした。 鼻持ちならない男だなぁ、と思ったことは遠く彼方に消えてしまって、私たちはまた色んな話しをした。楽しくて話題が尽きなくてたくさん笑って、その人のいろんなことを知りたいと思ったし、私も自分の色んな話しをした。 その人とセックスの話をした。 その人がセックスの話をしていたとき、私は今まで付き合ってきた男の人のいろんなセックスを突然思い出し始めて、よく人は死ぬ間際、走馬灯のように人生を思い返すと言うけれど、そんな走馬灯のように今まで付き合った恋人たちとのセックスを思い返していた。 気持ちの良いセックスもあったし苦い思い出しか残らなかったセックスもあったし、何もかもが雑多に思い返されて、自分のセックスに対する気持ちが一気に自分の内側に向かって走っていくのを感じた。 外が少し明るくなり始めて、もう帰ろうよと私は言った。一緒に眠ろうと彼は言った。 でも私は自分の家のベッドで寝たかったし、かと言って誰かを自分の部屋にあげることは嫌だった。でもどちらかを諦めなければいけない。どちらも諦めないことも出来たけれど、頭が半分眠っていた私には、もう何がどちらでも良くなって、結局その人の家に行った。 シャワーを借りて、新品の歯ブラシをもらって、ベッドに入った。 ベッドから見える本棚には向田邦子の本がたくさん並んでいた。男の人の家に向田邦子の本というのは大きな違和感をおぼえる。偏見だろうか。最近面白かった本はなに? と聞いたら、舞城王太郎という作家の本が面白かったと言った。私も読んでみたかった作家の本だったので、一冊借りた。 セックスしなくていいの? と聞かれたので、この人は特にセックスしたいと思ってないんじゃないだろうかと思えたので、別にしなくていいよと答えた。ただちょっとこういう状況なのでお伺いをたてた程度なんだろうと思った。 半分眠った頭の片隅で、そういうやり取りをしている自分たちがむしょうに可笑しく思えて、私は自分で自分に腹を抱えて笑っていたけれど、とうとう眠ってしまった。 目が覚めて、いいとも増刊号を見てバナナを食べて家に帰った。 まだ、借りた本には手をつけていない。 二月の始めの出来事。 |
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