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2005年02月02日(水)  逃げない
愚痴とか不満っていうものは、自分の手で止めないといつまでもいつまでも垂れ流されるものだ。

今日は、「もう帰れ」と言われて早々に会社を出た。

一ヶ月間、異動してきた新しい上司と付き合って、ひとつ見えてきたものがあった。

私の仕事や、私の書いた書類ひとつとっても、上司は何かしら一言付け加えて、私に詰め寄る。詰められる理由があるのか、詰められる落ち度があるのか、それを何度も確かめたり周りと見比べてみたけれど、別段、私だけ何かが違うとか誤っているとかというわけではなさそうだ。
決裁をもらうのに何時間も時間がかかることもある。
私の仕事は、一向に前へ進まない。
上司が問う疑問は、私にとって何が問題なのか少しもわからない。話しているうちに何が問題点なのか見失ってしまうくらいだ。
いま、話し合っているのは何が問題で話しをしているのか、それを求めても「ちょっと、部長に相談してみるから」と自分の口では何も答えず、上の上司に案件の採否を求めにいく。

上司の話はいつも一方方向なものばかりで、正面からしか話しを受け止めようとしない。真裏からの検証や外側からの判断はいつも忘れ去られてしまうように思える。

上司がいないとき、部長に呼ばれて、部長まで決裁のいった案件について詳細をたずねられた。どうしてそれくらいの案件をお前の課長は決裁できないのかと、私に聞かれても答えようがない。「私の仕事が気に入らないんじゃないですか」と言ったら、「そんなこというな、あいつはあいつで頑張っているんだから。真面目な男なんだからさ」と言われた。

振り返れば、私はけっこう周りのメンバーと比べて、好き勝手に仕事をさせてもらえたと思う。これまでは、上司が判断する件でさえ、自由に仕事をすすめ、上司の決裁はあとになってもらっていたくらいだ。それで許されていた状況があったし、それで上手くいった実績もあった。課外の企画の仕事を並行してやらせてもらい、少しばかりの課内の仕事を免除してもらっていたこともあった。
けれど、そのやり方が、上司が変わっても変わらずまかり通るとまでは、私も思っていない。用心して細かく相互理解をしなければいけないとは、思っていたはずだ。

遠くから噂が聞こえてくる。
新しく異動してきたその上司が、私のことを誰彼なく聞きまわっているという話。
あの子はどんな子? あの子はどんな仕事をこれまでしてきたの?
こんなことをされるのは、社会に出てから二回目だ。
いい気分ではない。こそこそ何かを知り得たいなら、面と向かって聞けばいい。
それが出来ないのなら、こちらから聞くまでである。

今日の昼間、営業メンバー達はみんな出払っていて、空きが目立つデスクには私とその上司しか座っていなかった。今日もいろいろと目ざとく指摘され、私はそれにいちいち答えていた。結局、上司の持つ疑問のアウトラインさえつかめず、時間は刻々と過ぎていく。仕事の納期は迫り、クライアントからは催促の電話まではいった。私は居留守をしてまで上司のこと細かい質問に、繰り返し答える。

なにを知りたいんですかと、私は聞いた。ふたりの間のデスクはたったひとつ。何が疑問なのかわかるように言ってください。なにか落ち度があってなにかミスがあるのなら、そう言ってくれないと私は気をつけようがない。ずっとこのままの繰り返しであれば、私はあなたの下で働けません、と言った。

先週、この上司の歓迎会を課内で開いた。
みんな、忙しくてスケジュールが合わずに、結局その予定はずるずる延びてここまで遅くなってしまった。仕事を途中で切り上げたけれど、みんな気乗りもせずだらだらと呑んでは食べて、上司は男の子のメンバーと仕事の話ばかりしていた。その横で女の子たちは別の話しばかりしていて、盛り上がりもせず終わった。
仕事の仲間と飲むとき、仕事の話題しか出てこないこの上司はとても不器用なのだと思った。気を使ったアシスタントの女の子が、話題を変えようとしても上司の口からは上手く言葉が出てこない。仕事が終わってまで仕事の話をされても、メンバー達の疲れた顔は色濃くなるだけではないだろうか。
駅のコンコースで、先を歩く仲間たちに遅れて、私ともうひとりの同僚とで、「盛り上がらなかったね」などと言いながら追いつこうともせず歩いていた。先にいる同僚たちのすぐ後ろを上司がひとり歩いている。
上司は振り返り振り返り、私たちの姿を確認しながら、前を歩く同僚に追いつこうと歩いている。
その振り返った顔が、とてももの悲しく、とても疲れたように見えたのは、私だけなのだろうか。

一番気を使っているのは誰か、ということを考えてわかったとしても、それはそれで何もしようがない。メンバーはただただ仕事に追われ、課内がうまく噛みあっているとはいえない。それは何のせいなのか、誰のせいなのか、それを考えたとしても解決してくれるのは時間だけではないだろうか。
まだまとまりきっていないこの課を、誰が力を振り絞ってまとめ上げようとするのか。
みんな、自分のことしか頭になく、誰も手をあげることもない。そんなことに時間を割くのであれば、みんな自分の仕事に没頭したいと思うだろう。私も例外なく。

私は、確かに部下としては扱いにくいかもしれない。
素直に、上司の気に入るように仕事をすることはない。自分が自分が、と自分の判断や自分の意見を主張することが多いだろう。力でねじ伏せようとするなら、それはかなりの抵抗力だろう。裏で姑息な根回しをしようものなら、真正面から直球を投げつけられるだろう。
だけれども、私は逃げたことは一度だってないと思う。
上司と相反することになっても、逃げたことは一度だってないはずだ。
相手が逃げるのはかまわない。
ただ、逃げ果せたいのなら、私にはもう二度と構わないで欲しいのである。


上司はもう一度私の案件に目を通している。
いらいらして、私は喫煙室に篭り何本もタバコを吸う。
見かねた先輩が、今日はもう帰れと私に言い、明日には必ず決裁をくださいと上司に言って会社を出た。
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