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2004年10月21日(木)  父について
私は、高校生のころから一人暮らしをしている。

通った高校が実家と同じ県内だったけれど、とても遠い場所だったのでアパートを借りたのだ。一人暮らしの第一日目の夕陽をよく覚えている。開放感いっぱいの気持ちできれいなオレンジの夕陽を眺めていたことを覚えている。これから、一人暮らしの自由を思い切り楽しんでやろうと思っていたけれど、その日の夜は意外にも心細くて、一秒だけ家に帰りたいと思った。そして今日まで、実家にもどりたいとホームシックになったことは一度もない。

一人暮らしの高校生に、夜早く帰ってきて勉強机に向うなど期待しないで欲しい。母は当初、毎晩のように電話をしてきては、私が家に居ることを確かめていた。最初は、それを見越していい子に家に居たけれど、そのうち1年もたつと夜遅くに帰宅し始める。そんな中、外泊をした夜に限って母から電話がかかってきたことがあって、そして結局、母は翌朝早くに車を飛ばして、私を叱りに来た。
私も悪いけど、その叱り方にうんざりもした。そのときこそは、早く大人になりたいと思った。いま思うと、母の気持ちもわからなくもないし親不孝なことばかりしているなと思えるけれど。

そんな高校生のとき、父が私に電話をよこしてきたことがあった。
今でも、それは鮮明に覚えている。
父は、外では寡黙だけれどうちではふざけておどけてばかりで、典型的な内弁慶だ。それでも、やはり普通の一人娘の父親のように、私に対しては不器用であり照れもあるようだ。私から実家に電話をしてちょうど父が出たとしても二言三言しか言葉をかわさずすぐ母に変わるくせに、父が自分から受話器をあげて電話をしてくるなどとても考えられず、だからこそ私はその夜の電話の内容をよく覚えている。
元気か?といつもそう言うように切り出してから、毎晩、何を食べているんだとか、学校は面白いかとか、洗濯や掃除は行き届いているかとか、父親らしい質問をしたあと、父は会話を探すように自分の仕事の話を一方的に話し、そして、実は今まだ会社なんだと言った。
残業中に父は私に電話をしようと思いついて電話をしてきたそうだ。

広いオフィスにぽつんとひとつ電気がついて、その下で父が受話器を握り締めているかと思うと、なんとも言い表せない気持ちになった。ふと、お前がいま何をしているかなと思って、電話をしたみたよと父は言って、そしてまたぼそぼそと喋ったあと、電話を切った。
本当はきっと、私のことが気になるくせに、母の手前、家で電話をしづらかったのかもしれない。曖昧な記憶だけれど、私が一人暮らしをしたいと言い出したとき、寮に入れと主張する母に一緒に対抗してくれたのは父だったように思う。


そのことをふと思い出したのは、きっと真夜中の病室でじっと横になっていると、心細くなったからだと思う。
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