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2004年08月07日(土)  音もなくあがる花火
8月の毎週土曜日、午後8時過ぎくらい。私の部屋から花火が見える。
としまえんでやっている花火だろう。私の住む場所からどれくらい遠いかわからないけれど、大輪の花火は、高い建物に半分隠れたり、建設中のマンションのクレーン車に邪魔されながらも、ときどきはっきりとその姿をこちらに見せてくれる。
大砲が鳴り響くような音が聞こえたら、私はカーテンを開けベランダに出てその方角を探す。音に遅れて咲く花火を、私はじっと見つめる。街の喧騒でときどき打ち上げ音は聞こえなくなる。音もなくあがる打ち上げ花火がどれだけきれいか、誰か知っているだろうか。
トムハンクスが映画「アポロ13」の中で、庭に寝転がって月を眺めるシーンを思い出す。これから自分が行くであろう小さな月に向って片目を閉じ、親指を伸ばしてのぞいたり隠したりするシーンだ。私は真似して、花火の咲く位置に親指をかざしてみたりする。

毎年、その花火を見ていた。

恋人に振られてひとりぼっちで過ごす週末の夜や、バイトから疲れて帰ってきた夜や、一日中だらけて過ごした休日の夜、たくさんの買い物の品で散らかっている部屋で、ひとりっきり、或いは誰かと、私は毎年小さく遠くにあがる打ち上げ花火を見ていた。

いつかの夏、私は暗い部屋でその花火を見ながら泣いていたと思う。誰かと泣きながら電話で話していた。あの電話の相手は一体誰だったろう。私は、花火を見ながら「今だったら花火が見えるから、早く帰ってきて」と懇願していたような気がする。私は、その花火をその人とこの部屋で見たいために泣いていたわけではなく、もう戻らない、もしくはまだ戻らない誰かに淋しさを訴えていたような気がする。ここにはいない誰かに、悲しくて淋しくて、早く一緒に花火を見ようと呼んでいたのかもしれない。
あれは、いつのときだったろう。あれは、誰と話していたときだったろう。
私はもう忘れてしまって、そのときのことを鮮明に思い出すことは出来ない。


いつしか、雨が降ってきていた。今日は一日中雨が降りそうで降らない天気だったのに、今になってやっと降りだした。としまえんでは、何百人と言う観客がこの花火を見ていることだろう。とうとう降りだした雨を避けながらも空を見上げているのかもしれない。青い花火や赤い花火を。
私と恋人は、雨を避けることもなく、濡れる服を気にすることもなく、部屋の中で遠くの花火を見つめる。黄色い花火や緑色の花火を。

打ち上げ音がかき消され、音もなく咲く花火を誰が美しいと知っているだろうか。
誰も知らない。この部屋にいる私と恋人しかきっと知らない。
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