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| 2004年07月04日(日) 居場所 |
| 足の下を山手線が走り抜けていく。少し向こうには駅が見える。大海原にぽつんと浮かぶ孤島のような駅に人が溢れんばかりに立っている。孤島の両脇を緑の電車が止まっては走り抜けていく。 また、私たちの足の下をくぐって電車が次の孤島へ向っていく。 オレンジの夕暮れがゆっくりと青空を飲み込んでいく瞬間。 私たちはスーパーの帰り道、アーモンドチョコを食べながら何本もの電車が足元を走り抜けていくのを見ていた。彼が、手品のようにポケットからアーモンドチョコを取り出す。取り出すたびに、半分を私の手に落とし、そして自分の口に放り込む。私たちは欄干にもたれ夕暮れと電車を交互に見ながらアーモンドチョコを噛む。 休日の夕方は、子供連れの家族や買い物途中の主婦が歩道を歩き、車はたまに排気ガスをまきながら走っていく。信号は規則正しく青から黄色になって赤になる。コンビニの明かりは変わりなく光っている。 熱風が街を撫でていく。 地方に住む友だちは、東京は人が多くて嫌だと言う。治安も悪くて水もまずくて、何より空も空気も汚いと言う。人が住むところではないと言う。けれど、私はここで馴染んでいる。治安が悪くて怖い思いをしたとしても、人間関係の希薄さがときに辛くても、薄い空の色に満足できなくても、私はここに生きてここで成り立っている。 私は、自分の田舎こそが私にとっての「生きにくい場所」だと思っている。息が詰まり馴染めない場所だと思っている。こここそが、池袋で暮らすことが私の安心できる場所だと思っている。 ある程度、私の生活は両親によって成り立っている。それでもその上に築いたものは私自身の手で手に入れたものだ。働いてお金を稼いで生活をしている。ひとりで生きてきたとは言わない。親が作った基礎がなければ、私は東京の大学さえ進学することが出来なかったのだから。ただ、今はひとりで生きている。自分自身の力で生きている。 遠く離れた都会の街で、私はひとりで生きている。 そう考えると、なんだか涙が溢れてきた。 生まれた家は、もう私にとって住みにくい場所だ。 だからこそ、私は私の場所を見つけなくてはいけない。 だからこそ、私はひとりで生活をしなければいけない。 そしていま、その生活をこの池袋でおくっている。 そのことが、今まであったいろんな出来事を乗り越えてこれた証のような気がする。 こうやって、電車を眺めて行きかう人を眺めて、夕暮れに染まる空を見上げて、そんな安らぐ時間を感じられるようになった自分は、たぶんきっとこの場所を自分の居場所として認めた証拠なのだと思えた。 私は、たぶん田舎には帰らない。帰れない。 田舎は田舎であって、私にとってそれ以上の意味はない。 帰るべき場所は田舎ではなく、私にとってはここなのだ。 母は、私が実家に戻ると落ち着きがなくなることを知っているだろうか。 父は、私が実家に戻っても常に緊張していることを知っているだろうか。 だから帰らない。 ずっとここで暮らす。 私を待つことは諦めて欲しい。 もう帰る気はないのだから。 彼が、また手品をしてアーモンドチョコを私の口の中に放り込んだ。 もう帰ろうかと、私は彼の手をとってアーモンドチョコを噛んだ。 私の帰るべき場所へ、もう帰ろう。 |
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