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2004年05月02日(日)  親不孝娘、結婚を考える
「ホテル代を浮かすため」
という名目のもと、私は彼を実家に連れ帰った。

異母兄がいるけれど、一応、私はこの家の一人娘であり、いつかは結婚して家を出て行くことになるだろう。そのときの予行練習として、そのときまでの親への免疫として、男性を実家につれて帰った。だって、「結婚したいんです」と急にどこの馬の骨ともわからない男性を、父が許してくれるとは思わないんですもの。男性を実家に連れて帰って父に紹介する、という予行練習と娘のボーイフレンドに会う免疫をつけておきたかったから。ちょっと可哀想かな、お父さん。

母はとても喜んで歓迎してくれた。男性を私が連れて来たのは初めてのことで、母にとっては息子のように可愛がる対象が出来たと喜んでいるのかもしれない。実は、彼は私の父と母と面識がある。まったく知らない人の家にお世話になるというほど堅苦しくはならず、「お言葉に甘えて」といった感じで快く私の家に遊びに来てくれた。けれど私が彼を家に連れてきた本当の本当の理由は、私ひとりで実家に帰ることがどうしても苦痛でならなかった、ということだ。ここ最近、私が入院したりいろいろと家族の揉め事があったので、私ひとりだけで家に帰るとまたその話の続きが行われるのではないかと思い、彼を連れて帰ることで迂遠に家族だけの話をすることを避けたのだ。
彼はその理由もちゃんと知っている。

父は
父は、やはり予想通り、むっつりとした顔だった。前もって電話で彼を連れて行くことを告げていたのだけれど、父の雰囲気はやはり歓迎していない感じがする。むむ、……やっぱり、そうか。お父さん、ごめんなさい。
いろいろと彼が気を使って父に話しかけている。夜、居間で父が野球観戦をしていると、「どこのチームのファンですか?」と話しかけたり、「今年はどこが優勝でしょうね」と聞いてみたりするけれど、父はむっつりして「中日」と答えたっきり口を開かなくなってしまった。
ちなみに、我が家のプロ野球チームファン分布図は、父がアンチ巨人。(好きなチームをあえて言うなら中日。)母が巨人ファン。彼も巨人ファン。私は、一切興味なし。という具合だ。巨人戦を見る時の父と母の雰囲気は毎度毎度ピリピリしたものになる。巨人が優勢なら母は大喜びで父は不機嫌だし、巨人が劣勢なら父はご機嫌で母はテレビの前で清原を罵倒する。我が家の居間は、すさまじい地獄絵のようになり変わります。
だから、野球の話になると父と彼とのあいだは明らかに溝が深まる。ダ、ダメだよ。野球の話をしちゃ! と私は焦りながら父と彼との会話を聞いているけれど、いつの間にか居間に来た母が巨人を応援し始めると、彼も一緒になって巨人の話に花を咲かせ始める。あらー、マズイ。父は、たちまち不機嫌になって、家の外へ煙草を吸いに出た。

それにしても、日本でケンカの種になるのは、「政治」と「プロ野球」の話しらしいね。

父が外に出たので、私も何気なくを装って追いかけてみると、ちょっとその背中が淋しそう。
ごめんね、お父さん。ちょっと刺激が強すぎたかな。
「おまえ、どれくらい付き合ってるの」と父は聞くけれど、ごめんなさい。私たち、付き合っているとかってことでもないんです。中途半端でごめんなさい。「おまえ、ああいう男がいいのか」と父は聞くけれど、ごめんなさい。私たちだからまだキスもしてないんです。ホントごめんなさい。「……結婚するのか」とボソッと父は呟くけれど、ごめんなさい。当分まだ、私は結婚しないし、だからお父さんに孫の顔を見せてあげられるのも当分先になりそうです。甲斐性のない娘でホントごめんなさい。

お父さん、親不孝な娘を許して!

夜になって部屋に戻って、彼に「大丈夫だった?」と聞くと、「なにが?」と意外にも緊張していなかった様子? きっと、私のほうが必要以上に気を張り詰めていたのかな。私の我侭にあなたを巻き込んでしまってごめんね。と言うと彼は笑って、「一人娘は苦労するな」と言ってベッドに潜り込んだ。子供みたいな無垢な笑顔ではじけたように笑うけれど、彼は実はいろんなことを冷静に見ている。私と両親の関係、家族の中の私、母と私、父と私、父と母。ずけずけと土足で上がりこむようなことを言うのではなく、あくまでも客観的な、私にとっては新鮮なことを言ってくれる。いろんなことを家族の中で悩んでいたけれど、ふと他の人の視点を取り入れることでとても気が楽になることを知った。
そういう気持ちが、もしかしたら「結婚の良さ」を表しているのかもしれないね。
私たち、父と母と私の家族3人は時どき家族であることに息詰まってしまうけれど、もしかしたら私が結婚して家族が増えることで私たち家族は明るい方向へ進むことが出来るのかもしれない。もちろん、私の旦那様にその突破口の役割だけを求めるわけではなく、結婚してよかったねと笑いあえる、ささやかでもいいから少しの幸せを結婚に見出せればいいと思う。


父と母の結婚。
私の結婚。
それぞれの家族のあり方を考えてみた。
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