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2004年04月13日(火)  辻仁成と会った
数年前。
自慢じゃないけど自慢だけど、辻仁成に会ったことがある。


いくつか彼の本は読んできたはずだった。
ピアニシモ、クラウディ、冷静と情熱のあいだ、目下の恋人、アンチノイズ、そこに僕はいた、千年旅人、サヨナライツカ、嫉妬の香り、愛はプライドより強く。
しかし、いまになって冷静に考えてみると、彼の本を私は最後まで読んではいない。
最後まで読みきったのは、「冷静と情熱」と「愛はプライドより」だけだった。
これは、一体どうしたことだろう。もちろん最後まで読みきってはいないのでタイトルを聞いてもストーリーが思い浮かばない。


さて、辻仁成と会ったことがあるというはなし。
ある建物の裏口。彼は、3人ほどの男を連れ添えてそこから出てきた。
背はとても低く、ハンチング帽をかぶっていた。
私は何を話すでもなく、何を聞くわけでもなく彼を見ていたけれど、意外にも彼は彼のほうから私に話しかけてきた。残念ながらどんな会話をしたのかは、まったく覚えていない。
驚いたとか緊張したというよりも私の持つ彼のイメージと実物の彼があまりにも違いすぎて拍子抜けしてしまった。彼はハスキーな声でぼそぼそと話していたけれど、その言葉はとても鋭く尖っていた。その反面、顔は満面の笑みをたたえていたけれど。

すごくつっけんどんで傲慢な感じでした。さすが作家ってかんじ。とても傲慢で自尊心の高いイメージをぷんぷん漂わせていた。芥川賞作家なほどだけはあります。ちょっと機嫌が悪かったのかもしれない。けどもし、普段の彼があのとき見た彼そのものだとしたら、それはそれでとても魅力のある人かもしれないと思った。自由でマイノリティな人ほどマスコミには叩かれるけど、それを非難する人はどこかしら嫉妬心を燃やしている気がするから。

近頃は、「辻仁成が好きです」って言うと「……え? マジで?」みたいな顔されることが多いでしょう? ちょっとひく人いるでしょう? あれはなぜ? 「辻仁成が好きです」って声を大にして言えないのは私もそうなんだけど、いや、でも第一、彼が好きならぜんぶ本は読みきっているわけで、やっぱり好きじゃないのかな。というかなんだろう、この気恥ずかしさ、この矛盾。好きなんだけど好きじゃない、好きだけど読んでない、好きだけど好きって言えないこの世の中。なにが私を躊躇させるのでしょう。

とにかくあのとき、彼に会ったことは早く忘れようと思ったのです。いや、繊細でだらしなくてエゴの塊みたいな主人公が登場する本を、こんな傲慢な人が書くわけないと思いたかったわけです。その後すっかり彼のことは忘れてしまって、話した内容もすっかり忘れてしまえているけれど。


とにかくね、とにかく、私が言いたいことは彼の本が好きだというわけではないということです。彼そのものが好きかもなぁ。あの鋭い目つきとぶっきらぼうな話し方、突っかかってくるような傲慢さ、あの態度が怒っていたのか、それとも普段からあんな態度かは知らないけど、まったく手に負えない人のような気がするのは、なんだかとても魅力的な人のように私には映って、とてもむかついた。人間的には興味の絶えない人だろうなと思った。人間的にはね。けど、映画や音楽やドラマはもうやらないほうがいいと思うよ。


ただ、はっきりと言えるのは、暇があれば私は何度となく「愛はプライドより強く」だけは読み返しているし、あのときあの建物の裏側で「やっと会えたね」ってどうしてこの私に言ってくれなかったのかとても複雑な思いでいるわけです嘘ですけど。
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