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| 2004年03月27日(土) 雪が残る街からの手紙 |
| 出発する羽田空港から私はいくつか彼に注意事項を言い渡されている。 夜は早く眠ること。食べ過ぎないこと。お酒や煙草は控えること。薬はきちんと飲むこと。我侭は言わないこと。彼の言いつけをよく守ること。ここへ来た本来の目的を忘れないこと。 入院して一ヶ月。私はまた、ある医師の診断を受けるため札幌にやってきた。都合よく相手の医師がこの期間は札幌にいることもあり、私は遠くへ旅行へ行きたいという好奇心とすりかえて、外泊許可とセカンドオピニオンの紹介状を主治医から得た。異例中の異例であることを医師は何度も言い、私に同行者をつけることを望んだ。医師の信頼する私の同行者は、最初こそ私にいろんな忠告をするけれど、私は耳半分も彼には傾けずに笑みさえ浮かべていた。 だって、その忠告は遠くへ来てみればほとんどが無意味になってしまうだろうから。薬を飲み忘れてしまうほど眠りたくないほど楽しかったり、美味しいものが豊富だといわれている北海道でどうして質素な食事で過ごせることが出来るだろうか。私よりも先に彼が自分の言い渡した注意事項を破ってしまうという私の計算もある。だって、彼のポケットの手帳には知り合いから教えてもらった美味しいラーメン屋さんの地図と店の名前が書いてあるのを私は知っているから。 私はこれまで東京以北の街に行ったことがない。雪が多く降るということにまったく慣れていない。東京なら少し積もるほどの雪でさえ交通機関は麻痺してしまう。会社や学校へ行くことが出来なければ東京の機能のほとんどが失われてしまい、仕事や勉強どころではなくなる。雪が降るということは四国で育った私にとって、台風が近づき学校が休みになるその期待や喜びに似ている。明日は雪だという天気予報を聞いた翌朝、カーテンを開けたときの嬉々とした驚きにとても似ている。 簡単な札幌のガイドマップと札幌グルメ辞典の冊子を買い、私たちはまず目に付いた駅ビルのカフェに陣取った。隅から隅までその雑誌を読む時点で彼の注意事項はすべてが無効となる。 札幌の街はとても案内しやすい。駅の前に広がる街はまさに碁盤の目であり、縦のブロックごとに「条」と名前が付けられ、それを横に1丁目2丁目と分けられている。「北4西4」と言えば北4条西4丁目ということになるそうだ。本当に驚いたのはどの道も寸分の歪みもなく真っ直ぐに伸びていること。いつの時代から札幌がこんな風につくられたのか、東京で真っ直ぐに伸びた道を作れば観光客が迷子になることはないだろうし、タクシーの運転手にも行き先を告げるのは簡単だろうと思う。誰が考え出したのかどうして東京はあれほど複雑に曲がりくねってしまったのだろう。ジェットコースターのように高速道路は宙で曲がりくねっているし、感心してしまうほどそれぞれの道は何層にも渡って交差していて、車高は規制されいつもすれすれの距離を保たなければならない。東京は上へ上へと空間を広げなければならないのに比べて、北海道はいくら横へ横へと伸ばして行ってもその空間は尽きることがないということなのだろうか。 とりあえずは、やはりいくら「ガッカリ名所」と言われていても時計台やテレビ塔はみておいたほうがいいだろう。駅から何ブロックか歩くと一軒家がぽつりと立っているのかと見間違うほど時計台はそこにあった。本当に小さくて、通り過ぎてしまいそうだったのにそれでももう週末だという今日は幾人かの観光客がカメラのレンズを向けていた。私も首からぶら下げていたデジカメでぱしゃりとおさめた。テレビ塔という名前を知らずに、私たちは札幌に滞在中ずっと「札幌タワー」と呼んでいたけれどとくに東京タワーと違わず夜はとてもきれいにライトアップされている札幌タワーもぱしゃりとデジカメでおさめる。とてもお約束。地下街に降りると、南国に生まれた私は小学校の頃担任教師が話してくれた話を思い出した。札幌には街中を網羅した地下街があり、真冬になると外を歩く人はひとりもいないのに比べ、地下街には夏や春と変わらない街の風景や人々の姿がある。北の国の人は冬は地下の街で暮らしていて、その地下街の広さは街中の人たちが暮らせるほどの大きさがある、と。満足に雪も見たことのない小学生だった私たちに話したそのエピソードはからかい半分なところもあっただろうけれど、あながち間違ってもいないのではないかと思いなおした。東京の地下鉄の駅とはまったく違い、地上と同じように地下には街が広がっていた。 駅ビルや大通りまでの道を何度か往復して散策し、私たちはほとんどその札幌の繁華街を歩きつくしたかもしれない。西武や東急やパルコやロフトやアルタや私がよく買い物をするショップまである札幌は東京の街をぎゅっと凝縮したようであまり変わりもなかった。ただ、小さい街だからこそ便宜だと思える。人も多くなくごみごみしておらず小さいからこそ密着できる親密感は東京のものとは違う気がする。便利で親切でわかりやすいこの街が私はとても気に入った。 |
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