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2004年03月14日(日)  この世で一番怖い人
私は異母兄からよくこう言われる。
「あいを本気で怒らせてしまったら最後だね。おまえが怒ればどんなに謝ってもどんなに撤回しても無理だもんね。おまえを敵に回したら二度とこちら側には戻ってこれないもんな」
別に、おかしな他意はないだろうと思う。ただ、兄が言いたいのは私が本気で怒ってしまったらもう二度とその人を許さないということ。ただ、私も心の狭い人間ではないと思っている。本気で怒ったことなどこれまでに数度しかないと思うし。それに、どちらかというと人を許して生きていたほうが幸せだろうと思っている。大抵ヒステリックに怒ったとしてもそれは翌朝になればすぐ忘れる程度のことだ。ただ、もう愛すべき点もなくなり考慮すべき点も見つからなくなって本当に見放したものは、二度と、二度と陽の目を見ることはない、ただそれだけのこと。私自身も自分のその頑なな態度をわかっているし、自分でも自分の怖さに気づくこともある。ダメだと見切りをつけたものはそれの一切を排除し割り切る。気づかない振りをするのではなくその人自身を私の外側に置き、一度としてその人に注目することもないということ。
他人からは好き嫌いが激しいと言われるけれど、こうと決めたら私は一切自分の意志は翻さないだけだ。だからこそ、愛する人は惜しみなく愛せるものだと思う。

そして、私自身が一番怖いものは、絶対的に“私自身”なのだ。


病室で。
久々の休日を彼は思う存分楽しんだようだ。手にはいろんなショップの袋が提げられている。
話しは自然と私たちの関係について及ぶ。まだ恋人ではないけれど友達と呼ぶには近すぎてとても曖昧にぶら下がってしまった関係を、彼はたびたび話題にする。

けれど、あなたは仕事以外の私を知らないでしょう?
これから知っていけばいいんじゃないの?
そうだけど、きっとガッカリすると思うよ。仕事以外の私に。
そんなことやってみないとわからないでしょ。
そうだけどさ。
そんなに僕のこと嫌いなの?
どうだろうね。

こんな深刻そうな会話を険しい顔をするわけでもなく臆面もなく出来るのは、お互いがお互いの曖昧さをわかっているからだと思う。私たちは、お互いのいろんな部分を許容しているからだと思う。それは自分たちにとっても居心地がいいから。
彼から電話がかかってくると私のほうから切る素振りも見せず彼の切りたいときまで電話は続き、会おうかといえば時間が許す限り私は応じている。いろんなことを質問されても私は遠慮することなく真実を話す。そういう状況が、彼にまだ脈はあると思わせるのか、まだそばに居てもいいんだろうと思わせるのか。そんな二人のだぶつきを作っているのは、まさに私自身の意志であることをふたりはとてもよくわかっている。そしてあとは私の決断だけが未来を決めるということもふたりはわかっている。よく、わかっているんだ。

どうして君にガッカリするの?
だって、仕事のときと今の私は違うでしょう。
そんなのは、知ってたよ。
そうかな。
そうだよ。
どんなふうに?
どうしてそれほどまでに君は僕がガッカリすることに拘るの? もう子供じゃあるまいし。
どうしてかなぁ。
考えすぎだよ。
だって、仕事をしながら恋愛するなんて疲れるもの。
仕事なんて関係ないでしょ。現にいま君は仕事を休んでるんだし。
私は、もっと姑息で陰湿で嫉妬ばかりして束縛ばかりしてしまうんだから。
へぇ。
そんなふうに思えなかったでしょ、今まで。
うぅん。
ジメジメしてるの、本当は。みんなが思っているよりずっと。
そうなんだ。
全然ダメなの。自分に自信がなくて迷ってばかりでダメなの。
知ってるよ。
ウソ。
知ってたよ。
なにを?
君は表で見せるほどのクールでもさばさばしているわけでもない。
ふむ。
いつも何かに悩んでいつもそれを考えている。
ふぅん。
そのくせ、君は頑固で自分の決めたことはぜったいに覆さない。
そうね。

君は君自身にいつも怯えてるんだよ。自分に自信がないのはまだ自分では見えない未知の自分が顔を出しては君はただオロオロして何もできないんだ。君は思っているほど自分を知らないからね。だから、僕が思っている事だってぜんぜんわかってない。

ひどい言いかた。
だって図星でしょ?


図星かどうかはわからないけれど、一理あると思った。
兄が言ったのは、私が誰かを敵に回したら、私が私自身をコントロールできなくなってもうその相手をどんなふうに許していいかわからなくなってしまうから、私を怖いと言っているのだと思った。

私は、もっと皆が思っているより、
もっと私が思っているより、
ずっとずっと厄介で恐ろしい人間なんだよ、きっとね。
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