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2004年03月03日(水)  上書き
夢の中で私は、誰かに向かって叫んでいた。その相手に何かを伝えたかったけれど、たぶんきっとその人までの距離は遠くて、私の声は届いてないだろう。
もう一度眠ることも出来なくてベッドから出て時計を確かめると、時刻は午前三時。

見てしまった。見てはいけないものを見てしまった。
そのことを起きぬけの頭で思い出した。
別れた恋人とそしてその彼の今の恋人を、見てしまった。

彼はきっと、以前私を恋しいと思ったようにその彼女のことを恋しく思い、愛しいと思ったようにその彼女を愛しく思っているのだろう。嫉妬心を通り越して自分の価値を見失いそうになった。彼の気持ちは、私のことを考えた同じ心で別の女性のことを考えているんだろうなって思ったら、そんな風に思えた。記憶は上書きされて、思いは上塗りされてしまうものなんだろうなって。


午前三時に、電話をかけた。
電話の相手は、もう眠ってしまっているだろうか。
3回コールがなって出なければ切ろうと思った。
2回のコールで、相手は電話を取った。


彼は、まだ会社にいたようで、周りには誰も居ないのか、いつもより今日は声を潜めて話はしない。
はた迷惑な、そして思い切り高飛車なワガママを、私は彼に言った。
彼は笑って受け流した。
無理だってば。無理だよ。出来ないよ。そんなワガママ言わないで。明日にしよう。もうこんな時間なんだからって。
けれど、私もそれを聞き流した。
今じゃないとダメなの。今じゃないと意味がないの。出来ないんだったら、もういい、って。
けれど彼は、慌てる風でもなく、一体どうしたの?って優しい声を出してたずねる。
今じゃなきゃ嫌なのって。私は彼の質問にも答えず、子供のようにずっとそればっかり。

一体どうしちゃったんだろうって。一体何があったんだろうって。
彼は、ずっとずっとそう思っていただろうけれど、けれど結局、彼は午前4時に私の言うとおりに、そうした。

午前4時。
別れた恋人は、新しい恋人と一緒に眠り、そして私は恋人でもない男性と一緒に眠る。
取り返しのつかないことなんて、多分私が、別れた恋人と出会った頃からずっと起き続けているんだろうと思う。誰かに非難されたとしても別にどうでもよくって、後になってこんなことしなければ良かったなんて、後悔することなんか絶対ないと思えた。だって、もう私たちは子供じゃないんだから。子供のするようなことをして子供じゃないと思った。とても可笑しな話だけれど。こうやって、今までもやってきたんだから、だから、今だってこうやってやっていくの。


だから大丈夫。
そのうち、記憶は上書きされて、気持ちは上塗りされていくんだから、きっときっと嫌なことはぜんぶ忘れられる。
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