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| 2004年02月27日(金) 指輪にまつわるお話 |
| 25歳になったので、もう逃げようもない大人なので、「本物」を身に付けなければいけないかなと、たとえば宝石とかね、持ち物とかね。私はいつも右手の薬指に細いシルバーの指輪をしているのだけど、これ、学生のときに買ったやつ。たかだか1万もしなかったような気がする。ジュエリー屋さんで買ったと言うより、雑貨屋で買ったような安物なので、よし、指輪を買おう。本物の石がついた、ダイヤモンドなんか買おうかしら。小さくてもいいから、石がついた指輪が欲しいな。そんな指輪がないわけではないけど、自分で買ったという、なんだかそういう確信が欲しい。自分が25歳を迎えたという証に。 で、某日。 ある結婚式に出席していたその日、ある男性とお茶をしていた。その近所に立派なデパートがあるので、ふたりでぶらっと寄ってみた。で、宝石屋さん。ちょっとのぞいてみると、あ、いいな、これいいな、一目である指輪を気に入ってしまった。 お店のお姉さんが、いわば無理やりに私にお試しになりますかと言いながら、取り出す。小さい石がついた細い指輪。アームが少しカーブがかってキラキラしている。「プラチナ・ダイヤモンドリングでございます。」うーん、本物。薬指に付けてみたり外してみたり。他のものもお試しになりますか、と聞かれたけれど、いやなんか直感がこれを買えといっている。そのお値段2万8千円。 買えないでもない、買えないでもない。よし、買おう。銀行カードで一括引き落とし。思い切った買い物をしました。 その後も、お店のお姉さんが「他の指輪を重ね付けすると、さらにキレイですよ」なんて、二つ目の指輪を買わせようかと張り切っている。一緒にいた男性も、「へぇ、指輪って重ね付けっていうやり方もあるんだ」と、興味津々。お姉さんが持ってきたのは、リングの外側にぎっしりと小さいダイヤが並んでいる指輪。はは。もうそんな余裕はありませんよ。さっきの指輪よりも高いじゃないの。 そして、さっき買った指輪と言えば、合うサイズがないので、サイズ直しに出していただく。 「ふぅん、8号なんだ」 「そうそう、8号。」 「それって太くない?」 なんて男性に言われてややムカついたけど、ちなみに左手の薬指は7号です。どうぞ宜しく。 指輪の受け渡しは、2月27日ですと、とても気の遠くなるような日付だったけれど、とりあえず、自分のために良いものを買ったという満足感を覚えて、家路に着いた。 そして、今日が27日。 あのお店にいた私からすると、27日の私がこんなことになろうだなんて、予想もつかなかったはず。いま、私は病院のベッドで横になりながらテレビを見たり、ぼーっとしたりしている毎日を過ごしている。 昨日、その男性から電話がかかってきてこう言う。 「明日、指輪を受け取りに行く日だね。」 覚えていたのね。数日前から、せっかく指輪を買ったのに受け取りにもいけなくて、こんなところにいる自分が腹立たしくてむしゃくしゃして、だからその男性の一言に、「言われなくてもわかってるよ」と、ひとに八つ当たりなんかしてしまう。すっかり入院生活は私をすさんだものにしてしまったと、これもまた人のせいにしてしまう。 「よかったら、僕がとりに行ってあげようか」 出来るわけないじゃん。引き換え書がないと取りに行ってももらえないに決まってるもの。 あれこれ、話した挙句、とりあえず明日店に行ってみて、その後病院に寄るよと彼は言う。 さて、急なお見舞い客がもうすぐ訪れる。 異母兄以外にこの病室を訪れた人はいない。私が入院してると知っているのは、父母兄、そして上司とこの男性だけだ。そんな状況の中、誰もお見舞いなど来るはずもなく、散らかしていた病室を朝から忙しなく片付けたり、病院なんだからすっぴんだけども、髪もとかなきゃいけないしで、そわそわしていた。 突然のノックに全身を震わせて、緊張していた。 久しぶりに会う彼は、少し痩せたのか。ここ数日、徹夜の仕事が続いているという。痩せたというよりやつれたのかもね。あいちゃんも痩せたんじゃないのって、私もきっとやつれているんです。 やっぱりというか、当然、指輪は受け渡してくれなかったという。 「融通が利かないよなぁ」と彼は言うけれど、結局、指輪なんて彼がここに来る口実だったのかもしれない。私にとっても彼にとっても。 買って来てくれた苺のお土産を、私たちはゆっくり食べて味わった。 実は、あしたから一時退院になったの。と、私が言うと彼はとても驚いて、なんだ、それじゃあ明日お店に行けるんじゃないかと言う。当然なんだけど、さっき決まったことなんだもの。 仕方ないかと言いながら苺に手を伸ばす彼は、けれど満更でもない笑顔を浮かべているけれど、本当に疲れているみたいで来させてしまって悪いことをしたな、と思う。 そしたら明日は美味しいものでも食べに行こうかと、彼は言って、初めて仕事以外の約束をした。これまで仕事の相手だった彼と、明日は会社の外で会うことになるなんて、なんだか不思議なことのように思えた。 |
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