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| 2004年02月24日(火) 深夜の病室にて |
| 夜の病室では、やっぱり少し鬱々としてしまいます。 考えなければいいのに、どうして自分だけこんな病気になってしまうんだろう、どうして病院なんかに閉じ込められているのだろう、これからどうすればいいのか、どうやって生きていくのか、仕事はどうなるのか、これからも人を好きになることがあるのだろうか、なんて考えてしまいます。 ひとしきり泣いて、ベッドに横になったまま、眠ることも出来ず朝を迎えることもしばしばです。 私を担当している看護士のうちのひとりは男性です。 主に夜、出勤してくることが多く、夜の見回りはきっちり2時間おきに私の病室をたずねて来る。 私が起きていることを前提にでもしているかのように、彼はいつも小さくドアをノックする。彼は、さあこれから部屋に入りますよ、人が部屋に入るんだから涙を見られたくないのだったら、今のうちに拭いておきなさいね、とでも言うように。 そして、私はそのほとんどを起きて過ごしている。そして泣いて過ごしている。 暗いままの部屋に、彼はのっそりと入ってくる。 早く寝ないといけないとか、どうして薬を飲んでないのかとか、そんなことは一切口に出さず、私の顔色を窺った後、今日は何の本を読んでいたのかとか、今日の食事はうまかったかとか、そんな話しばかりをしはじめる。 たまに病院の怪談話しを始めて私を本気で怖がらせたりして、なんだか看護士の彼は私の病室を訪ねてくることを楽しんでいるようだ。 彼と話せる夜は、とても気持ちの良い眠りに包まれる。なにを話すわけでもないけれど、彼のクマのような容姿と低くて優しい声が遠い昔に出会ったような錯覚を私に与えて、幸福な夢を見ることが出来る。 ある夜。 私はその日、とても機嫌が悪かった。 予定していた入院の期間が長引きそうだということになったからだ。私はずっと入院することを拒んできたけれど、医師は以前から幾度も入院を勧めていた。風邪が悪化したのを理由に私は仕方なく入院したけれど、医師はこの入院をきっかけに長期入院を勧めてきた。はじめの約束は熱がさがったら退院させてくれるという約束だったのに。 「嘘つき」と私は医師に言ったけれど、医師は私に「現実を見ろ」と言った。 その夜、看護士の彼は私の病室を訪れた。 聞いたよ、と言っていつものようにベッドの端に腰掛けた。私はむくれて布団に潜り込んでずっと黙っていた。今日は誰とも口を聞きたくなかったし、誰にも何も言われたくなかったし、誰とも会いたくなかった。 長い沈黙が続いたけれど、彼はその沈黙にたまりかねた様にこう言った。 キミはまだ25歳で若いのに、こんな病室に閉じこもっていなきゃいけないなんて、悔しいよね、って。やりたいこともたくさんあるだろうにね、って。 私はこの言葉で、いっぺんに彼を嫌いになった。 私は、もう誰の優しさにも自分の身をまかせたくないと思った。誰にも私の気持ちなんてわからないのに、同情したような、私に近づくようなそんな言葉をいう人なんて、信用できない気がした。 心がすさんでいく。すべてが私を攻撃している言葉のように思えてしまう。 相手にそんなつもりがないことくらい、わかっているのに。わかっているはずなのに。せめてもの彼の言葉を、けれど私は受け止められなかった。 わかっている、わかっている。医師は、医師のくせして私をとても心配している。兄なんて医師の心配とは比にならないほどの不安を感じている。父と母には心労を抱えさせてしまって今にも倒れそうな様子で東京を発っていったのに、みんなみんな、私以上に私のことで悩んでいるのに、けれどだって、みんなにあれこれ言われても、私はどうすることも出来ない。なにが正しいのかわからない。どうしたらいいのかわからない。誰を信じていいのかわからない。 |
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