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| 2004年02月02日(月) 深夜23時 |
| 深夜22時。 今日も遅くなってしまった。新宿駅の南口でぐるりと腕をまわす。 私は池袋に住んでいるけれど、最近は新宿駅で電車をおりる。理由は、兄の家があるから。なので、最近の拠点は池袋から新宿に変わったわけだ。たまにやはり、池袋に帰りたいなぁと思う。物騒で汚くて狭くてチープなネオンが光る街。 新宿から歩くこと10分。 賑やかな場所から離れると、あたりは一気に真っ暗になる。東京の夜は、本当は真っ暗なんだ。人がたくさんいてネオンが光る、明るい場所なんて本当はそんなに多くない。有名な会社が立ち並ぶオフィス街は、夜になると真っ暗で、等間隔に並んでいる街灯だけが足元を照らしているだけだと思う。本当の東京の夜は、本格的に人っ子一人いない真っ暗な夜になる。誰かに襲われて悲鳴をあげても誰も気づいてくれないほど、真っ暗な夜。 夜道に負けないように鼻歌をうたう。 看板がひとつ、ずっと向こうに光っている。足を速めてあれを目指して歩こう。 店の看板。ダイニングバー。半地下のその店は体をかがめて中をのぞくと、なんだか薄暗い店内に、ろうそくの灯りみたいにところどころに点る照明が揺れている。 入ってみようかしら。なにかのみたいな。病院でお酒は呑んじゃいけないって言われたけど、今日は金曜だし、それに呑んではいけないって言われれば言われるほど、のみたくなったりする。 店内をのぞいてみて、お客が4人以下だったら入ろう。たくさん人が入ってたら帰ろう。そう決めて階段をおりてみる。そろり、そろり。ガラス戸から中をのぞいてみる。二人組みが一組、ひとりの客が二組。そしてもうひとつの人影で、5人目。やめた、帰ろう。すると、5人目の影がすすっとこちらに向かってくる。ドアを開けてその陰は言う。「よろしかったら、どうぞ」その人影は店員だった。そう、店員を入れたら5人。見つかってしまったので、入らざる得ない。 カウンターの席かテーブルの席か聞かれ、ひとりでテーブルに座るのも嫌なのでカウンターの足の長いスツールに腰掛ける。ほとんど真っ暗な店内。明るいのは店員の立つ場所だけ、カラフルなお酒のボトルと透明で様々な形をしたグラスが棚にぎっしりと並んでいる。テーブル席にはステンドグラスで出来たキャンドル立ての上で炎がゆらゆら揺れている。手を置いたカウンターは真っ黒くて冷たい。真っ黒な服を着た目の前の男が、何にしましょうかと聞く。甘いお酒を下さい。わかりましたと答えて、私は出されたお酒を素直に飲み干す。男は、私のグラスが空になったら、シェイカーを振る。呑む。振る。呑む。振る。 一向に酔えなくても、それでいいと思う。 シェイカーを振る姿は、黒い壁で黒い男が踊っているように見える。ただひとつ銀色に光るのはシェイカーだけ。大げさな手振りでアルコールと振り入れる。大げさな手振りで一滴残らずグラスに絞り落とす。 カウンターに肘をついて、酒を呑む女とシェイカーを振る男のことを思ってみた。 仕事のことを考えてみた。明日の予定を考えて、ベッドでぐっすり眠ることを想像してみた。 会話もなく、カウンターだけを挟む私とその男は、ただただ酒をつくり酒を呑む。 私はこれからどうなっていくんだろう。 仕事を続けていくのだろうか。 誰かと出会うのだろうか。 自分の子の顔を見ることが出来るのだろうか。 深夜23時。 私はまだここに居たいと思う。 |
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