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| 2004年02月01日(日) 泥の眠り |
| 私は、こんこんと眠り続ける。 喉が渇いても何も飲まず、太陽が空の一番高い位置に昇ってもまだ起きない。兄が心配して私の鼻に手をかざす。死んだように眠る私は、このままおばあちゃんになるまで眠り続けるのかと思うほど。この数十日間、眠れなかった恨みを晴らすように、ぐったりと疲れた心と体を存分に甘やかすかのように。やがて、陽の光がオレンジ色を帯びて、それぞれの家のお母さんたちがスーパーへ買い物に行き始める時間。それでも、私は眠り続ける。 夢は見ない。ただ誰かの声が聞こえる。何時間もその声は私の心の中で囁きかける。時間が許される限り、私はその声に身を任せる。このまま眠り続けたらあなたに会えなくなるかもしれない。このまま眠り続けたら会社に行けなくなるかもしれない。このまま眠り続けたら兄が心配するかもしれない。けれど、その声は、私をまだ逃してはくれない。優しくて低い声。男性の声。とても気持ちいい。あなたの声はとても気持ちがいい。このままずっと、ずっとこのままでいたい。誰も邪魔しないで。 私は気恥ずかしかったけれど、それになんだかまとわりつく女のように思えたけれど、けれど私はその声に聞いた。 「愛してる?」 その声は、微かに息を吸い込む音を立てて私に答えをくれようとする。 その声はあともう少し。その声はあともう少しで私の鼓膜を響かせる。なんと答えてくれるの。 地震が起きて私は、どろついた沼から引き上げられた。 うっすらと目を開けると兄が大きな声で、私に怒鳴った。 「兄ちゃん、我慢できない! 心配!」 うるさいと、顔をしかめた。兄が無理やり私の体を起こして頬っぺたを叩く。いいじゃないか、何時間だって眠っても、今日は日曜だし、休日は長い。その長さは私にとって辛い。兄は知らないじゃないか、眠れないことがどれだけ辛いことか、わかってないんだから。 「時計を見ろ」と、兄は私の携帯を開いてみせる。着信3件。電話なんて出ないよ。眠いんだから。 「いいから、時計を見ろ」と、兄はデジタル時計を指す。 愕然とした、午後五時。合計18時間の眠り。 私はまだ眠い。 |
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