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| 2004年01月14日(水) たぶん、これが初夢 |
| 昨晩見た夢、といってもたぶん明け方、目が覚める1時間前のあいだに見たものだと思う。 その場所からは、外には田畑が広がる風景が見える。ひどい田舎にいるらしい。私の左側に一人の男が座っている。彼はメガネをかけていて髪の毛は茶色く少しくせ毛っぽい。クリエイターによくいるような顔つきをしている。私の右側には子供が3人座っている。それぞれの手には小さなノートが見える。その男と子供たちは向き合い、座り、彼に一言一言拙い敬語で何かを質問している。 彼は、世界で名を馳せた、なにかの先駆者で(なにかはわからないけれど)とても賢く、皆から尊敬の眼差しを向けられていた。しかしそれでいて、こんな素朴でなにもない田舎の、子供達の前で、自分の成し遂げたことを教えようとやってくるような、労を惜しまない人だった。どこにも誇示する態度は見られなかった。私は彼についてここにやってきた。最初はひどい田舎で退屈だろうと思い、来るのを躊躇ったが、子供の可愛さと純粋さに、つい目を細めて彼らのやりとりを見ている。 私は、彼をこの夢で初めて見た。知り合いでもなければ、どこかで見かけたという記憶もない。だがしかし、夢の中の私は、とても彼を慕っていたし、尊敬していた。 さて、陽も暮れるからそろそろうちに帰ろうかと思い、立ち上がると3人のうちのひとりの子が、もうすぐ海が満潮になるから早く帰ったほうがいいと言う。海か…。海がこんな山奥にあったかしら?と思ったけれど、彼は黙って頷くと靴をはいてその建物を出た。私は、慌てて彼を追いかけた。海なんてありましたっけ?と、私は彼に聞くと、うん、来る途中で見たじゃないかと言った。私はここに来た記憶もなく、一体どうやってきてどこの道を通ったかまったく覚えていなかったが、彼がどんどん先を歩くので、たぶんついていっていれば東京に帰れるだろうと思っていた。だって、彼も同じ東京に住んでいるのだから。 よく舗装もされていない道の両端から草が伸びている。私はその草を避けながら足取りの速い彼を懸命に追いかけていた。私は彼の靴をじっと見つめている。 と、突然草に覆われた道は途切れ、その向こう側は崖っぷちになっている。恐る恐る下を覗き込んでみると、なるほど下は海だった。潮の音も香りもしなかったけれど、こんなところに海があるなんて、驚きだ。真っ青な波が崖に寄せては引いていたが、崖から海までの高さは目も眩むほど高い。そして、海の真ん中には、くっきりと道が伸びている。十戒のモーゼが海を開いてつくった道のように、ずっと沖までその道は伸びている。そうか、あの男の子が言っていた、満潮になれば帰れなくなるといったのはこういうことだったのか、とようやくわかり、私は一体どうやってあの真下にある海までたどり着けるか、悩んでいた。彼は、一言、「行こう」と言って来た道を戻ろうとしていた。私はそれを制してここから飛び降りればすぐ海に出られると彼に言ったが、彼は悲しそうな顔をして、どうしてキミはいつも僕を困らせるようなことばかり言うの、と言うので、私もどうして彼がそんなことを悲しそうな顔で言うのか、わけがわからず、黙って彼に従った。 くねくね道をどれだけ歩いただろう、彼は海に下りられる道を知っているのだろうか、本当に道はくねくね続いて、しかし分かれ道はひとつもなく、迷うこともなく私たちは海を目の前にすることが出来た。しかし残念ながら潮は満ち、あの道はなくなっている。まあいいさ、と彼は言って砂浜に腰をおろした。ここでゆっくり休むのもたまにはいいだろう、と私に向かって言う。こんなところで夜を一晩過ごすなんて、風邪をひいてしまうと心配したが、帰れないのなら仕方がなく、私たちはただ沈む夕陽を眺めていた。涙が出そうなほど美しく大きな夕陽は、これまでに見たこともなく、やっぱり帰れなくてよかったと思った。彼の髪の毛が金色に輝いている。私の髪の毛も同じだろうか。そう思うと、なんだか恥ずかしくなってしまった。 場所は変わってここは、明け方の自分の部屋。ベッドの上には誰かが大いびきをかいて、眠っている。顔を見なくともすぐわかった。彼はさっきまでの彼でなくついこのあいだ別れた恋人だった。彼は私が眠れないことも知らず、自分は大きないびきをかいてぐっすり眠っている。彼の眠りを妨げると私は殺されてしまう、また私がここにいると知れば彼はものすごく腹をたてるだろう、私の顔など見たくないと怒るだろうと、なぜか瞬時にそれを悟った。起こさないように、私がここにいることを気づかれないようにと、ここが自分の部屋だということも忘れて、私は自分の存在そのものを一生懸命に消そうとしていた。目を瞑って息を止めて自分の心臓に、止まれ止まれと念じていた。 ふと、誰かの気配がし、恐る恐る目を開けると、知らない男が立っていた。顔は暗くて見えない。朝陽はまだ昇っていない。怖い、誰なのかわからない。どうしてここにいるのかわからない。彼は人差し指を自分の唇にあて私に黙るようにと、ジェスチャーした。私は怖すぎて声など出ない。彼の顔が段々と見えるようになってくる。それは私の顔に近づけてきたからだ。怖い、怖いけれど何者なのか知りたい。その男の顔がどんどんと近づくにつれ、その向こうに眠っている別れた恋人の背中が見えてきた。彼はこちらに背中を向けて眠ったままだ。起きて、助けて、起き上がって知らない男がいることに気づいて、そのときはそう願ったけれど、彼が物音一つしないしんと静まりかえったこの部屋で、一体いつ目が覚めるというのだろう。私は自分の身に起きる恐怖が絶望的に思えてきた。 知らない男は、一ミリの隙間もなく私の顔にぴったりとその唇を近づけてきた。いけないキスをしたような気がする。私は目を思い切り閉じた。さようならと心の中で別れた恋人に話しかける。さようなら、さようなら。何度も何度も。 涙が出てきて、起き上がると夢は醒めた。 怖くて身震いがした。 あたりを見回してみると、そこは誰かしらない人間の部屋だった。 混乱して昨晩のことを思い出そうとするけれど、一体自分は何をしたか思い出せない。思い出そうとすると頭が締め付けられたような痛みを覚えて、どうしても出来ない。どうしよう、どうしよう。着ている服も自分のものではない。体にかけられている毛布も自分のものではない。汚い。人のものは、誰とも知らぬもので肌を覆うことは、汚い。自分が汚れていく。そう思って私は鳥肌が立った。気絶しそうなほど頭が混乱すると、大きな叫び声をあげた。 起き上がると夢は醒めた。 あたりを見回してみると、そこは自分の部屋だった。 眠っているだけなのに疲れ果てていた。たぶんきっと叫び声をあげたのは現実だったろう。のどが痛む。夢から醒めた夢を見た。怖ろしくて、時計を確かめると午前五時だったけれど、私はそのまま起きあがって太陽が完全に昇るのを待った。 夜が怖い。 |
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