雲間の朝日に想うこと


< 其れでも欲しい唇でしたか >


其処に滞って居た香りが、
幾ら仄かでも。

其の香りは、
対敵行動を暴発させ得る、
劇薬だから。



瞬時に、
鮮明に、
過去が蘇る。



唇の感触と。

バナナの様な、
嫌な匂い。




今擦れ違った男は。

其の敵とは、
別人な筈なのに。










酔いに委せて、
迷走する其の対象を。

やっとの想いで探し当て、
捕獲した瞬間に。


 「男なんかみんな同じだよ!」


街中の、
人の視線も省みず、
突然大声で泣き出して。



それでも。

皆同じ男に分類される筈の俺に、
必死に抱き付いて、
必死に背伸びをして。



あの時姫は、
俺の唇をせがんだ。









吸い込まれる様に、
口付けた時。

俺は姫への想いより、
軽々しく見ず知らずと会った姫への怒りと、
敵に対する本能で動いて居た。


ついさっき、
別の男に陵辱された此の唇を。

俺の唇で上書きする目的で、
姫に口付けた。






 「俺が消してやる。」
 「だからもう泣くな・・・」



其の言葉は誤りで。

何の想いも存在しない、
陵辱の延長に違いなかったから。











今尚、
劇薬に触れると。

姫にも俺自身にも、
嫌気が指す。











擦れ違い様に。

僅かに嗅覚を刺激した、
此の、
バナナの様な香りは。



きっと、
姫の唇を奪った男の匂いだ。


2004年04月07日(水)


----------
History
2003年04月07日(月) 無理強いしていますか





Add MyEnpitu

小坊主
MAIL