インストラクターはだんだんと深いほうに誘導していく。少し余裕ができてきたのか周りの状況も見えるようになった。まわりにはたくさんの魚がいるが手でさわるまでにはいかない。 そうこうしているうちにインストラクターはポケットから魚のえさを取り出した。「ふ」のようなものだ。するとどこからとなく魚が寄ってくるではないか。私たちにもえさを渡してくれたので魚たちに差し出すと食らいついてきた。
こんどは「ニモ」に会いに行こうとボードに書いて移動をはじめた。とはいっても優雅に足ヒレをたなびかせて泳ぐには程遠いスタイルでうごめいていった。 わたしは「ニモ」が何たるかをよく知らなかったが、それらしきものを指差している。
なにやら妻があわてている。どうも重いタンクがずれてきてそのままひっくり返ってしまった。タンクを下にしてあお向け状態になっている。と、後ろから何者かがタンクを持ってちゃんと起こしてくれている。オーナーである稲村インストラクターとともに、もう一人のインストラクターが後ろから護衛で付いていてくれたのだ。おそらく初心者のうえに小学生まで伴っているので心配して付いて来てくれたのだろう。
「少し泳ぎましょう」とインストラクター。どうやってと一瞬とまどってしまったが、装備している機材のボタンを押してジャケットにエアーを入れたようだ。身体が自然に浮いてきた。これなら足ヒレをばたばたさせることができる。 やっとわかった。海の中を悠々と泳いでいるのは、じつは潜水艦のごとくエアーを入れたり抜いたりして上昇下降をしているようだ。腰に鉛のウエイトを巻いているが、最初はほんとうにちゃんと浮いてくれるのかどうか心配だった。もし鉛のほうが重たかったら、そのまま海の底に沈んでしまうことになる。
海面近くに上昇して海底を見ながらの遊泳だ。シュノーケルをつけて泳ぐのと違って、もっとはっきりと魚たちを見ることができる。
ぼちぼち上がることになった。海岸に寄っていって足がたつようになると、ぐっと力を入れて立ち上がろうとするのだが、なにせエアータンクが重いのと、足場が悪いのとでぜんぜんだめだ。 インストラクターが言った。「海の中でじっとしていてください。こちらで全部はずしますから。」 私たちは両手を広げていると、ロックをはずしてタンクのついたジャケットを脱がしてくれた。足ヒレまではずしてくれるのだ。おお、いたれりつくせりというか、逆に自分たちでは何もできないわけだ。
身軽になると後は帰るだけ。またもや崖を登っていって、駐車場に移動した。圧縮された空気は乾燥しているようなので、のどがとても乾く。麦茶を一杯いただいた後、車に乗って店まで帰っていった・
それにしても疲れたが、楽しい思い出のできた一日であった。店でスタッフが「みなさんの集合写真はホームページに載せますから楽しみにしていてください。」と言った。しかし無念にも私たちの写真は載らなかったことは昨日の日記のとおりである。 〜つづく〜



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