レストランをいろいろ検討したが、けっきょくフランス・イタリア料理にした。娘が「パスタ」というものだからしかたなく入ったが、雰囲気的に、がらにもなくといったほうがいいかもしれない。 とりあえず入り口でメニューを見せてもらった。ほうほう、なかなか豪勢なメニューになっている。といってもよくわからないが、とにかく高いということだけだ。しかしそこらはちゃんと計算にいれているようだ。別メニューとして「バイキング」がある。おお、これしかないと頭では決めていたが、娘と相談するような格好をしてウエイトレスに告げ、悠々と席に向かった。
しかしどうも椅子を下げてもらうのには慣れていない。どうしても緊張して自然な動作にならない。 「お飲み物は何にいたしましょう。」と聞いてきた。妻と娘はなにやらトロピカル系のジュースを注文していたが、私はアルコールだ。飲み物のメニューも数が多くてよくわからない。迷っていると「こちらのシャンパンがおすすめでございます。」ときた。グラスなら1,500円からある。よしこれにしようと指差した。あらためてボーイに聞いてみた。「シャンパンですか。」「はい、シャンパンでございます。」
以前にこの日記でも書いたが、『シャンパン』とはフランス・シャンパーニュ地方で作られたものしかそう呼ぶことはできない。製法も昔ながらの方法でないとだめなのだ。いわゆる炭酸を封入した『スパークリングワイン』では『シャンパン』と呼ぶことはできない。瓶の中で自然発酵されるので時間もかかる。したがって高価なものになってしまう。最低でも1万円以上はすると物の本に書いてあった。
テーブルにはグラスだけでも3種類置かれている。それにナイフ、フォーク、スプーン、それぞれがメニューに合わせて大小がある。ちょっと食事するだけなのに洋食はたいへんだ。箸と湯呑みさえあれば事足りるのに。ボーイはワゴンに並べられた氷が入ったバケツからシャンパンを一本取り出すと、手馴れた手つきでシャンパン・グラスに注ぎはじめた。このグラス、ワイングラスよりも細めですらっとしている。容量は100mlはないだろう。ということは720mlのボトルからは10杯以内がグラスに注がれることになる。ボトルで1万数千円か、やはり本物のシャンパンと思っていいのかな。とたわいもないことを考えている。
バイキングといっても大会場でよくやるタイプではないので、メニューはそんなに多くはない。取りに行くと、シェフが一つ一つ説明をしてくれるのだが、名前や何でできているかなどどうでもいい。適当に盛り付けてテーブルに着くのだが、どうもボーイの視線が気になる。監視されているような気分だ。目と目が合うとすぐにこちらにやって来そうなのでなるべく、目をそらす。いやー、やっぱり田舎もんにはこういうレストランは似合わない。
あたりを見渡すとお客はまばらだが、みんなそれぞれのスタイルで和やかに食事を楽しんでいるようだ。まもなくすると隣りの席にもお客さんが。ちょっとそば耳を立ててボーイとの会話を盗み聞きしてみた。なにやらメニューのことで会話をしている。そう会話なのだ。長いことやりとりをした後、ボーイがこう言っている。 「パスタがお望みでしたら、一品でご注文なさるより、バイキングにされればいろいろなパスタがお召し上がりになれますよ。」なんだ、けっきょくバイキングか・・・。
どうもバイキングとなると全品を平らげなければ気がすまない。まあ、ここのメニューはさほどの種類ではないので2回ほど調達に行けばすむのだが。 それでもみんな満腹状態になってしまった。すると「私たちは先に帰ってますから。」と妻たちはお金を渡してさっさと出て行ってしまった。 しばらくして私も立ち上がり、さてどうするものかと一瞬考えた。いつものバインダーに閉じた勘定票らしきものがないのだ。「あーそうか、出口で告げればお勘定をしてくれるのだろう。」と歩き出すと、ボーイがあわてて、「お客さん、お席でお待ちください。」と促された。すぐさま計算をして飛んできた。そして「お部屋に付けておきましょうか。それとも現金になされますか。」頭の中でぐるぐると回転した。部屋にしておけば後払いか、この現金は・・・。「いや、現金で支払っておこう。」ともったいぶって渡した。
みんなそのまま海岸のほうに出て行って、夕涼みだ。娘が言った。「あのレストランいや。」そうだろう、わかる気がする。慣れていないのだから。 〜つづく〜

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