「静かな大地」を遠く離れて
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2002年01月22日(火) 不在という構図

題:218話 函館から来た娘8
画:キューピー人形
話:開拓使長官と言っても、北海道にずっといたわけではないでしょう

黒田清隆の“妻殺し”は、明治日本の鉄血宰相・大久保利通を襲ったテロの一因
にもなったという。テロリストの犯行声明に黒田を処罰しない政府の法治感覚を
糾弾する文面も含まれていたのだ。日本の進路さえ変えるような、大久保の死。
孝明天皇謀殺の嫌疑などに発する、明治政府の正統性の議論はおくとするならば
とにもかくにも国を運営していかなくてはならない状況下で、大久保利通という
希有な政治家を失ったのは、もしかしたら致命的な損失だったかもしれない。

残された薩摩の頭目として黒田はいかにも弱い。明治初年から北海道開拓の仕事
に力を注いだ黒田は、のちに「官有物払い下げ事件」の渦中の人物となってゆく。
エドウィン・ダンが尽力し、夢をかけた北海道開拓は、国家財政の支えを失って
ほどなく利権の巣窟と化してしまった。その辺りは昨夜も触れた古典的名著にて。

■色川大吉『日本の歴史 21近代国家の出発』(中公文庫)
(引用)
 北海道の処女地がみるみるうちに姿を消していくのは、むしろ二十三年以降、
 とくに明治三十年に開墾地無償貸与の制度が実施されてからである。内地では
 自由にふるまえない官僚・華族・資本家・大商人たちも、ここでは遠慮会釈
 ない荒っぽさで、広大な土地を囲い込み、やがて小作人をつれこんで家令に
 支配させ、自分たちは東京に住む不在地主になってしまった。
 「自由な開拓者の土地北海道」という夢はこうして失われていった。
(引用おわり)

このプロセスに倍加してアイヌの人々の悲劇が重なったのは言うまでもなかろう。
その流れの中に三郎の運命の導線もまた在る。

昭和になってこれを満州や南方に派手に拡大して繰り返したのが日本の近代史か。
北海道の不在地主の子弟には有島武郎がいて、後には鳩山由紀夫なんて人もいる。
ふと漱石の『それから』のヒロインの父が何か北海道に関係してなかったっけ…?
などと思いはじめると、そのへんはもう西東始先生にお任せするしかないけど(^^)

せっかく色川大吉氏が出てきたのだから、自由民権運動と北海道のつながりなら
断然この劇画↓を押さえるべきでしょう♪

■安彦良和『王道の狗』(講談社)
(第3巻より、あらすじ引用)
 自由民権運動が激化する明治中期、秩父事件・大阪事件等に関わった
 若き自由党員加納周助は、服役中だった北海道上川の仮檻から脱獄する。
 一緒に脱獄した風間一太郎とともにアイヌの猟師ニシテに救われた二人は、
 途中で知り合った旅の武術家武田惣角と徳弘正輝のもとで働くことになる。
 しかし、ニシテは恋人を助けようとして警察に捕まり、自分の無力さを
 痛感した加納は、武田惣角に弟子入りをした。
(後略、引用おわり)

蝦夷・北海道の歴史に関しても、琉球・沖縄↓のような本が必要なのではないか?
■新城俊昭著 『高等学校 琉球・沖縄史』(編集工房東洋企画)
…などと思ってみたりもする。ふーむ。




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