「静かな大地」を遠く離れて
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2001年07月15日(日) 青いビルケンシュトック(改)

題:33 最初の夏3
画:白樺
話:沖にむかって泳ぐ(with コンプ♪)

                    ※後日、一部改稿しました

日高の海は過去にずいぶん見てきたし波打ち際で海水に触れたりもしたが、
そういえば泳いだことはないなぁ。
でも小舟に乗って昆布を採る漁師さんの仕事ぶりを見たことがあるのは、
以前6月19日のところに書いたとおり。
東静内のあたりは確か自○隊の対空射撃基地みたいなのがあって、
今は漁業はできないんじゃなかったかな?…などと物騒なことを思い出す。
様似の海岸でなんだか日が暮れて星が見えるまで佇んでたこともあった。
…しかしこんな経験してる俺は何者? 松浦武四郎か、伊能忠敬か?(笑)
北海道では本当によく歩いた。普通、車社会なのでかえって歩行距離は
短くなりそうなものだが、僕は公共交通機関を使いながら、好きこのんで
歩き回っていたような気がする。

よく歩くのは、僕の習性だ。
普段の生活でも、仕事でも、海外へ遊びに行っても途方もなく歩く。
ヴァーチャルな世界に体重をかけすぎてはイケナイ。
メディアのゴーグルを、ずっぽり被って呼吸している人が結構多いけど、
そしてそのクセ世界一エライかのような口ぶりで物事を断じる若い人とか
見かけるけど、なかなか格好悪いものです、生の貧しさ、露呈しすぎで。

とりあえず自分の足で歩けること、
それが対話できる、あるいは、したい相手の条件かもしれない。
難しい問題に対する知識や見識なんてなくてもいい、
ただ宇宙に対して謙虚で、それでいて自分の「欲深さ」を楽しむことが
出来れば、まずは合格。
そこから先、どこまで遠くへ歩いて行けるか、
それが人生の価値を知る人たりうるかどうかを決めるのだろう。

たとえば、須賀敦子のように・・・。
『ユルスナールの靴』という、マルグリット・ユルスナールに言寄せた
“自画像”を、ちゃんと彼女が書いておいてくれたことに感謝している。
彼女の本を読めば、何でもわかったような口をきくような浮薄さから
少しは離れられるだろう。
ほんとうに全人格、全人生の時間、つまるところ人が与えられたすべてを
注ぎ込んで「生きる」ということを実践した人だから。
「結構な御本を拝読いたしました」という“趣味の良さ”みたいなところ
に読者を安住させない強い力は、そのへんから出てくるのだろう。

最近まで刊行がつづいていた全集を、予約購入していたので彼女が短い
執筆期間に発表したもの、未発表だったものも含めて読めるものは
すべて手元にあることになる。贅沢な話だ。
でも日々の暮らしの中ではなかなか彼女の文章は読めない。
今の部屋に引っ越した去年の秋、北海道時代に積もり積もった駄本の山
をブックオフの宅本便なるシステムで処分した。十数万円になった。
すっきりした部屋の棚にわずかな書物、とりわけ須賀全集を並べて
静謐なる読書生活を送ろう、と目論んでいたが、そうはいかないようだ。
生活が静謐じゃない以上、ジャンク・フード的な濫読は止まらない。

いっそ本など一切読まずに、緑の中を散策したり、愛する人と語らったり、
観劇や演奏会に出かけたり、そうして過ごせればどんなにか良いだろう?
…ハハ、書いてて自分で空しいぞー、特に二番目のところが切ない(^^;
ずいぶん前からこんなことを言っていながら何も変わらない気がする。
でも同じ去年の秋に出会って、僕の人生を変えてくれた相棒はいる。
ビルケンシュトックの靴だ。

立ち仕事が多くて、プライベートでも歩くのが趣味なのはいいけれど、
どうもピッタリした靴がなくて難儀していた。
それともうひとつ、青く染めた革製の靴を旅先のドイツで見かけて
いいなぁ、と思っていたのだが日本では売っていなかったのだ。
ビルケンの靴自体は知ってはいたが、青のはあまり出回っていなかった。
ある時、青いヴァンクーヴァー・モデルを店先で見つけて購入して以来、
気に入ったので直営店に行って立て続けにスタンフォード・モデルと
モンタナ・モデルの青を注文した。質実にして、特徴あるデザイン、
車にも時計にも服にも全くお金のかからない僕の唯一の贅沢である。

注文した、というのは僕の足の形が幅の狭い欧州人型だという店の人の
見立てで、日本にはナロウ・タイプというのがほとんど入ってこないため、
ドイツの工場からの取り寄せになると言われたから。
おまけに青にこだわったので、日本には全然ないタイプだったのだ。
2ヶ月待って、同時に注文したサンダルのボストン・モデルとともに、
今や彼らなしでは僕はどこへも行けない、という存在になっている。
で、さらに追加注文していたパサデナ・モデルとハイカットのヌバック
の何とかモデルが入荷したというので取りに行った。もち、すべて青♪

ぴったりの靴があれば、どこへだって歩いていける…、
須賀敦子先生のコトバを、めちゃめちゃ即物的に実践してみました(笑)

あとは、歩くのを苦にしない、素敵なパートナーがいれば幸福なんですが。
金のワラジならぬ、青のビルケンシュトックで探しに行こうか(^^)


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