日常喜劇

2002年10月18日(金) 「2分後の…」


(昨日の日記の続きです。未読の方は昨日の日記「2分前のためらい」からお読み下さい)


「…密」
柔らかい髪に頬をうずめて、都筑は大好きな人の名前を囁いた。
それだけで心が震える。胸の奥が痛い。
どうしようもなく、愛しい。
「密」
何度呼んだら、何度囁いたら気持ちは届くのだろう。
もどかしい気持ちのまま、都筑は密を抱きしめ直した。
「…都筑」
密が名前を呼んでくれる、その声が好きだ。
小さいくせに、胸の奥深いところまで響く。
一番、心地よい場所で感情をくすぐる。
いつまでもその声を聞いていたくなる。
これがきっと、好きってことなんだろう。

手に、毛糸の柔らかい感触が触れた。
それでふと、我に返る。
「…あぁゴメン」
密が身をこわばらせている。都筑は苦笑いして身を離した。
急に強く抱きしめたからだろう、密はほっとした顔をした。
都筑は話題を変えた。
「これ、してみていい?」
マフラーを目の高さに掲げてみせる。
首に巻いてみていいか聞いたのだ。
「うん」
と、声は聞こえなかったけれど密が小さく頷いた。
その顔が嬉しそうに微笑んだのを見て、都筑も笑みがこぼれた。
「じゃあ、早速させてもらお♪」
首に、さっきと同じ柔らかい毛糸の感触。
毛糸に包まれた辺りだけ、冷たい風が止んだ。
「…あったかい」
たったそれだけなのに、すごく驚いた。
ただマフラーを巻いただけなのに、一瞬ですごく
暖かくなった。体の芯まで満たされたカンジだ。
都筑は素直に感動していた。
ただのマフラーだ。なのに、密にもらったものはこんなにも違う。
好きな人にもらったものは、こんなにも心が暖かくなるものなんだ。
…気持ちってすごい。
都筑は正直に、思ったままの感想を言った。
「…ありがとう密」
こんなに嬉しいなんて思わなかった−。
なんだか泣きたくなってきて、都筑はつい大きな声を出した。
「どう?似合う?」
大げさにポーズをとってみせる。
そうしたら密が、小さく手招きをした。
その手につられて密に近寄った都筑は、ぐいと
首に巻かれたマフラーを引かれた。
近すぎてドキドキする。つい、小声で尋ねた。
「なに?」
心臓の音まで聞こえそうだ。
顔が赤くなってないだろうか。
ぎこちなくないだろうか。
そんなウブな心配をよそに、密は小さく笑って言った。
「…曲がってる」
マフラーの位置を少しずらす指先が、すぐ近くになる。
息がかかりそうな場所に、密の笑い顔がある。
「あ、ありがと」
なんだかちょっと、肩透かしを食らった気分がしたけれど都筑は
笑って感謝した。今だってこれだけで十分ドキドキしてるのに、
早々急に、いろいろ発展するわけがない。
そして、気まずい気分を変えるように話題も変えた。
「なんだかあべこべになっちゃったね。ホントは今日は密の誕生日で、
俺が密にプレゼントしようとしてたのに」
こんなステキなものをもらっておいて今さら、
自分のプレゼントなんかチープすぎて渡せない−。
都筑が俯いた理由が分かったのだろう。密が小さく笑った。
「プレゼントなら、今もらうから平気だ」
「…え?」
密の言った意味が解らず、首を傾げた向こうに、
ちょうど反対側に首を傾けた密と、唇が重なった。


(ぎゃふ…限界です、まだ続く。でもその前に後楽園遊びに行って来まっす!)


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