押し入れの中を覗いていた。いわゆるひとつの雑多な状態。
フランスを旅行した時の写真が目に入った。 アビニョンの法皇庁だっけ。一人で関空を飛び立ち、 シンガポール航空でパリを目指して飛ぶと、なぜか私は高熱を 出してしまい、英語の表記とスペイン語から類推して文を読む 以外には言葉のわからないフランスに、頭がぼうっとした状態で 降り立ってしまったのであった。
ユーレイルパスとかいうヨーロッパ数カ国の列車の乗り放題 チケットをあらかじめ手に入れていたのは幸いであった。
なにしろただでさえ電車の切符を買うのはどちらかというと 苦手で、特に東京なんかに行った日には、目的の駅がどこに あるのかすら探すのに一苦労。それから乗り換えがどこなのか、 何色の電車に乗ったらいいのか、分かりにくいことこの上ない。
フランスで、1からチケットの購入だの、時刻表の確認だのして いたら、どこか知らない国に行ってしまいそうだ。 でも駅の数は(日本と比較すると)そんなに多くないから、 迷いはしないだろうけど。
年月というのは残酷なもので、5年も経つと、あんなに楽しかった はずの旅行ですら記憶の中でおぼろげなものとなっている。 物持ちが悪い私なので、記念の品とか日記とか写真の大半は、 すでにどこか遠いところに散逸してしまったようだ。
結局のところ、空港からすぐ電車に乗ってパリを出て、 (なぜかパリには全く興味がなかった)アビニョンを目指したのだった。 過剰なまでに一極集中したパリと違って、アビニョンに行けば、 自分のイメージの中にある、「綺麗なフランスの街」というものに 出会えるのでは、と思っていた。実際、あの街は綺麗だった。 ただし、道中は高熱+耳のひどい痛みで、アビニョンでホテルを 見付けた時にはふらふら。Ibizaとかいうチェーンのホテルに泊まった。
かの街の法王庁は、信者ではない私の目にも美しく映った。 法王庁から街を見下ろして、近くや遠くに見える小さな家々。
雑踏。声。犬の鳴き声。オープンカフェから漂うハーブの香り。 ピザにやたらオリーブオイルがまったりと塗られていたのが まだ印象に残っている。
私は、なんだか魔法にかけられたように、酩酊したように、 感じられる印象の全てを吸収しようとしていたのか。
9月下旬のアビニョン。
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