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2002年12月10日(火)
 神の一手。


昨日は酷い目にあった。
予想以上の悲劇だった。
いや、喜劇だろうか。


横浜でも雪の多いこの地域は、朝9時の時点で積雪10cm弱。
駅までの地獄坂。
最大斜度25度はあろうと思われるこの坂で、悲劇はおこった。


少し水分を含み、滑って下さいと言わんばかりの地獄坂に1歩足を踏み入れたとたん、
ワタシは滑った。
転んだのではない。
両足を地面に着けたまま、ツツツツツゥーーーーーーと滑って行ったのだ。


初めはさほど怖くはなかった。
だってすぐに止まるだろうと思ったのだ。
しかし、ワタシは止まらなかった。
体が右に左に不安定に傾く。
転ぶ。
このままでは転んでしまう。
怖い。
そして、スピードが増していく。





ヒィイイイーーーーーーーーーーーー!!!!





叫びながら運良くそこにあった、大仏のような電信柱にしがみ付いた。
そして、戻ろう、そう思った。
このままでは無事では済むまい。
だってこうやっている間にもいくつもの悲鳴やらいくつものドスンという転ぶ音が聞えるのだ。
彼らにできなくて、ワタシにできるはずがない。
ワタシはこの坂を降りる勇気を失った。


ワタシは180度向きを変え、今滑って来た地獄坂を戻ろうとした。
距離にしてたった10メートル。
この位なら登って行けるだろう。


しかし、一歩前に足を出したとたん、
また滑ってしまったのだ。
ツツツツツゥーーーーーーと今度は後ろに向かって。





ぎゃあああああああああああああああああ!!!!
怖いぃーーーー!!!! 誰か止めてぇーーー!!!!





ワタシは叫んだ。
手を前に出しながら大声で叫んだ。
その時だった。
ワタシは手を差し伸べられたのだ。
後ろ向きで滑っていたワタシの両手をしっかりと掴んでくれた人がいたのだ。


「大丈夫?」
坂を軽快に降りて来る50代前後のおば様だった。
そのおば様はワタシの手をしっかりと掴みながら、
「おばさんが手を繋いであげるから、一緒に降りましょう。」
と仰って下さったのだ。


これを神の一手と言わずなんと言うのだろうか!


ワタシは恥ずかしかったのだが、おば様の厚意に甘えることにした。
いや、今思えば速攻手を繋いだ気がする。
おば様の右手をしっかりと握ると、おば様と一緒に坂を降りることにした。


「おばさんの靴は裏に滑り止めが付いてるのよ。」
坂を下りながら、おば様がそう教えて下さった。
そう言えば、先日坂の上にあるヨーカドーをぷらぷら見ていると、
婦人靴売場に、後ろに留め金のような滑り止めがついたショートブーツがあった。
それを手に取り、夫と「誰がこんなの履くんだ?」とそのブーツをバカにしたことを思い出した。
失礼なことを言ったものだ。
あのブーツは神のブーツだったのだ。
ワタシは神のブーツを眺めながら、心の中で深く深く謝罪した。


ワタシのヒールは本当によく滑った。
坂に一歩足を踏み入れてから、ワタシの両足は地面に着いたままなのだ。
つまり、次の一歩が踏み出せないのだ。


おば様と手を繋いでいても、おば様より速いスピードで、おば様の先を滑って行く。
散歩を喜んで飼い主の言うことをきかない犬のようだ。
「すみません。すみません。」
そう呟きながら、おば様は坂を歩き、ワタシは坂を滑る。
恥ずかしさで身体が熱い。
顔には汗が滲んでいる。
周りでは悲鳴と転ぶ音が入り混じる。
でもワタシは転ばない。
ワタシにはおば様がついているのだ。
少し優越感。
しっかりとおば様の手を繋ぐワタシ。
情けなくて恥ずかしい。


そんな複雑な思いで地獄坂をようやくクリアした。
はぁー。
心の底から安心する声が出た。
「ありがとうございました。おかげで助かりました。」
おば様に何度も何度も頭を下げ、お礼を言い、駅の前で別れた。


この世に神はいたのだ。
本当にそう思った。


でも、本当に、本当に、恥ずかしかった。














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今日は迂回して出勤します(涙)。




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