(仮)耽奇館主人の日記
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檀家さんのお孫さんから相談を受けた。 十九歳になる短大生のお嬢さんである。 ズバリ、いい男の条件とは何かといきなり聞いてきたので、そりゃあ、おまえさんの人柄によるよ、誰にとってもいい男なんていねえからなと、詳細を話すように促した。 話を聞くと、こうである。 お嬢さんは、いわゆる、恋多き女というやつで、彼氏が一度に何人もいるとか。 しかし、男運はあまりよろしくないようで、全員が携帯チェックしたり、とにかく束縛したがるので、心の底から相手に甘えられないとのこと。 私はニヤッと笑った。 何で笑うんですかと言ってきたので、「いや別に」と言って、「おまえさん、猫は好きかね?」と聞いてみた。 「えっ。ええ、大好きですよ、飼ってますから」とお嬢さん。 「そうかい。女はみんな猫なんだよな。おまえさんなんか、特にな。猫のように移り気で、気まぐれでいながら、その実、甘ったれでよ。いや、別に、猫であることを恥じるこたあねえんだ。生まれつきのものを恥じたってしょうがねえからな。女はそういうもんなんだから。で、いい男ってえのは、猫を可愛がることの出来る男だね。それも野外でな」 それで、お嬢さんははっとしたようだった。 野外で猫を可愛がることの出来る男。 部屋の中で、愛猫を一歩も外に出さないで飼う男と比べて、どちらが人間としてゆとりがあるか、分かったようだった。 相手を束縛せず、自由にふるまわせつつ、求められるがままに可愛がる。 そして、女としての、我儘、嘘、嫉妬などを受け止めつつ、許す。 「そんな、いい男、どこにいるんですか?」 「そいつは向こうからやってきやしねえよ、てめえで見つけねえと。つまり、いい出会いがあるまで、恋を重ねるこったね」 「いなかったら、どうすればいいんですか?」 「いないわけねえだろ、猫をいじめて喜んでる特殊な野郎より、可愛がる野郎の方が圧倒的に多いんだから。要は、おまえさんの眼力なんだよ。いい男か、そうでないか、見極める眼力。そいつは、猫の方がうまくやってるぜ」 ううーんと唸りつつ、お嬢さんは分かりましたと立ち上がった。 「ちょっと待ちなよ、面白いもん見してやるぜ。そこの障子開けてみな」 障子の向こうには、苔むしたブロック塀しかないのだが、私がチッチッと歯の間から舌を出すようにして、舌打ちしてみせると、ダーッと、どこかからか、子猫が二匹飛び込んできた。 障子の開いたところから、尻尾をぴんとおったてつつ、にゃーにゃー鳴きながら私のところへ擦り寄ってきた。 「わーっ、かわいい!」 「野良猫の子供なんだけどね、まだ縁側の下にいっぱいいるよ。で、オレはここに来るたんび、こうして遊んでやってるから、自然になついたわけさね。おまえさんも、心の底から、自然になつける相手を探しなよ、幸運を祈ってるぜ」
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猫とうまくつきあうには、女というものをよく知る必要がある。 また、 女とうまくつきあうには、猫というものをよく知る必要がある。 そして、猫というものは、ほんとうに束縛されることを嫌う。 私は常々思うのだが、なにゆえに、今時の若いのは相手をそんなに束縛したがるのだろうか? お互いを所有しあって、何になる? 自信のなさのあらわれだろうな、やっぱり。 猫を見てみな、猫を。 自分がどうしたいのかをよく知ってるということに、絶大な自信を持ってるんだ。 自信があってこそ、自由に生きられるからね。 自分自身からも。 そういうこと。 携帯チェックなどという情けないことしないで、達観しろ! 今日はここまで。
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