愛なき浜辺に新しい波が打ち寄せる
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中三の秋。受験生ですな。 「一馬君もE高行くつもりみたいよ」 と、若菜母。 「あっ、そうなんだ。もっといいとこ行くのかと思ってた」 「あっそうなんだ、って。最近会ってないみたいだけど、連絡も取り合ってないの?」 「そういや全然だな」 「ケンカでもしたの?」 「してないよ。学校違うし、あんまり会わなくなるのは仕方ないじゃん。でも、高校同じなら、会うようになるな」 「ふーん、あんた、ほんとにE高受かる気なんだ」 「それ、親の台詞かよ」 中二の夏休みの件以来、ぱったりと親交が途絶えてしまった若菜と真田。家がまあまあ近いし、どこかで偶然出くわすこともあるだろうと思っていた。それを不安に思う反面、期待もしていた。連絡はできない。考えとく、と言ってしまったからには、回答が必要だが、結局見つからなかった。振り返ってみると、考えたけど分からなかった、と、ありのままを伝えたらよかったのだが、そうできなかった。こちらから連絡できないし、向こうからも連絡しづらいだろう。どこかでたまたま会ってしまったなら、状況が打開するかもしれない。悪化するかもしれないけど。とか考えてるうちに、一年以上経ってしまった。 (会わなきゃ会わないで、平気、っていうか、普通だな) なんて。ひどい。でも、こんなの、強がりなんだ。ほんとは、罪悪感があって、不安で、心配で、迷ってる。そういう思いが石のように固まって、積み重なって、壁ができてる。向かい合うのが怖くて、壁に背を向けてる。背中の後ろの壁の向こうに、真田がいる。 (一馬は、どんな気持ちでいるんだろう) 自分自身の気持ちすら掴みかねてるのに、相手の気持ちなど。 さらに月日は流れ、若菜はE高に合格。母は「奇跡が起こった」と驚き、姉は「ありえない」と不満げ。父と弟は素直に喜んでる。もちろん、真田も合格したよ。あと、星野君もE高です。若菜は、連絡するのにちょうどいいタイミングだって思う。「久しぶりー。E高だってな。合格おめでと。俺も奇跡的に合格したんだ。よろしくな!」とか。どうだろう。自然? 中二の夏のことは、自分からは触れずにいよう。向こうが触れてきたら、そのときは、とりあえず謝ろう。と、思いつつ、あっという間に、入学説明会の日(3月末)になる。結局、連絡できず終い。 (いかん。このままでは…。どんな感じで再会すりゃいいんだ。とりあえず、「よー、久しぶりー」? 無視されたらどうしよう) 「ああっ、もうこんな時間! 結人、早く! バスの時間が!」 若菜も若菜母も、いつも時間ぎりぎり気味。母は慌ててる。 「間に合わなかったら自転車で行けばいいじゃん」 「しんどいからいやー!」 E高までは近いといえば近い。自転車で20分くらい。バスでも行ける。車ならすぐだが、駐車場に限りがあるため車でのご来校は極力ご遠慮下さい、とのことなので、車では行けない。若菜は、家から近い高校に行きたかったんです。一番近いのがD高。しかし、偏差値が高いので絶対無理。二番目に近いのがE高だ。若菜の学力では厳しかったんだけど、運良く受かりました。何とか無事にバスに間に合い、E高前で降りる。校門を入ったところで、 「あ!」 若菜母が、真田母子を見つけて手を上げた。 (あーー……) 一年と8ヶ月ぶりに対面した。背が伸びてる。顔付きも、なんかちょっと大人びたような。 「結人、久しぶりだな」 声は変わってない。そりゃそうか。 「おー。あー、どうも」 って、なんだそりゃ。 (一馬、普通だな。まあ、親いるし、普通にしとくのが普通か) 途中で、星野にも会って、適当に挨拶を交わし、説明会に参加。その後は、教科書買ったりするんですかね。まあとにかくそれらが終了し、昼前に解散。若菜母と真田母は、この後近くで何か食べてから帰ろう、なんて話してる。それでいいよね、と母に聞かれ、 「いや、俺は帰る。疲れたし。家で適当に何か食べるわ」 と答えたら、真田も、 「俺も帰る。そんなにお腹空いてないし」 だって。二人でバスに乗って帰ることに。 (う、二人きり、という展開。気まずい。いやいや、なんとか、普通の感じで…) バスを待つ間、 「お前、背、伸びた?」 「え? さあ…、どうかな」 「いやいやいや、伸びてるだろ。じゃなきゃ、俺が縮んだっていうのか」 「はは。…よかった」 「よかった?」 「普通でよかった。結構長い間、会ってなかったし、気まずい感じになったらどうしようって思ってたから、普通に話せてよかった。あ、バスきた」 そこで、若菜は、跪いて謝りたい気持ちになる。俺が悪かった、って。でも、謝ったら、「お前の気持ちに応えられなくてごめん」って意味に取られる、って思った。そうじゃないのに。もっと単純に、「長いこと連絡しなくてごめん」ってことなんだけど。でも、そう言ったって、やっぱり、応えられずにごめん、って受け取られる気がした。そうは捉えられたくない。じゃあ、応えられるっていうのか。分からない。同性の幼馴染みからの告白に応えるって、どういうものなのか。分からない。リアリティがない。でも、嫌悪感はない。真田は自分に何を望んでいるのだろう。それを知りたいけど、知るのが怖い気もしてる。それにしたって、もう、一年半以上前の話。蒸し返さない方がいいのだろう、きっと。 バスは、座れないほどではないが、まあまあ混んでた。二人がけの席に並んで座る。 「俺も、よかったと思ってる。普通に話せて。同じ高校だな。今更だけど。よろしく」 なんか恥ずかしい…。真田は、しばらくの間の後、 「うん」 とだけ。 (俺が悪かった) 若菜はまた、改めて思い、 (でも、とりあえず、これでよかったんだよな。これって、あれはもうなかったことにするって流れなんかな。それでいいのかな。俺はそれでいいとしても、一馬はそれでいいんだろうか。ていうか、俺は、いいのか、それで。ほんとに、それでいいと思ってるのか) 当たり障りない会話をぽつぽつとしているうちに、真田の最寄りのバス停に着く。 「じゃあ、また、入学式で」 「おー、またな」 (同じクラスになったらどうしよう。って、どうもしないだろ。いいじゃん、同じクラス。いや、でも、ならないな。選抜クラスがあるらしいから、それに入るだろ、一馬は) 真田が降り、しばらくして、バスのドアが閉まる。なんとなく心が引っ張られるような感じがして、バスの窓から外を見ると、真田がバス停で突っ立ったままこちらを見ていた。若菜は、思わず席を立ちそうになる。降ります、って言いたくなる。 (いや、降りてどうすんだ…) バスが発車する。気を落ち着け、窓から見える真田に向かって、軽く手を上げてみせた。真田は、少し気まずげに、小さく笑って、手を振る。その表情が、寂しげで、悲しげで、でも、寂しさを、悲しさを、隠そうとしてるようで、 (昔からそうだった。一馬って、幼稚園のときから、こんな感じだった。成長したって、根っこは変わらないんだ) 一年半以上かけて積み上がった壁が、がらがら崩れ落ちていく。だからって、罪悪感や不安が消え去るわけはなく、また別の形になって胸を覆うんだけど、壁は、音を立てて崩れた。なんで長いこと会わず、連絡もせず、それでも別に平気なんて、強がってたんだろう。全然平気じゃない。ずっと会いたかったのに。会いたくて、顔を見たくて、並んで話をしたくて、何も話をしなくても、何もしなくても、ただ一緒にいるだけでよかった。 まあ、でも、友情なんですよね…、若菜は。そんな感じで、ここから高校生編になるんですが、若菜と真田の話というよりは、若菜と真田とみーこと星野君と久米さんの五人の話になっちゃうんで、面白くないんですよ(素)若菜と真田の関係も停滞してるし、結果的には、若菜とみーこ、星野君と久米さんが付き合う、ってなるんで、真田が可哀相で、そんな萌え所のない話を誰も見たくないだろう。というわけで、ざっくりいきます。次回、一回でまとめてしまいたい。でも、適当に日記も放り込んでいきたいです。だってほんとにこれいつ終わるか分からないから。というか終わらない気もしている。ここまで書いといてすみません。
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