愛なき浜辺に新しい波が打ち寄せる
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2015年07月07日(火) 若真ネタ9

「ねえ、結人ってば、聞いてる?」
 19歳、春。前々回の翌日の話。若菜は、彼女の家に来てる。彼女の名前は、望月美恵子といいます。
「え、うん、聞いてる」
 若菜は、小三のときの出来事を思い出して、ちょっとボーッとしていたよ。
「ほんとに?」
「星野と久米さんの結婚お祝い会に、何着ていくかって話だろ」
「そうだよ。どうしよー。迷うー」
 友人の星野君が若くして結婚するんです。相手の久米さんは、若菜の彼女と友達。式は挙げない。入籍は6月なので、ジューンブライドだ。友達が集まって、カフェ貸し切ってお祝い会をするよ。
(星野がこんな早く結婚するとは。でもまあ、星野らしいといえばらしいかも)
「やっぱり、新しく買う」
「何を?」
「だから、服だよ!」
「うん、いいんじゃない」
「買いに行くのついてきて。一緒に選んでよ」
「いいよー」
「どうでもいいんでしょ」
「うん」
「あー、結人は正直だね。ちょっとムカつくね」
「わはは」
 ムカつく、なんて言ったけど、彼女は全然ムカついてない。ちょっと寂しげな顔になり、若菜の髪に触れる。若菜は猫っ毛なんだけど、彼女は、自分の髪質(太くて硬い直毛)とは真逆の、若菜の髪を触るのが好きなんだ。
「最近、してないね」
 と、彼女が言った。何を? と返せるほど無神経ではなく。
「そうだっけ」
 これはこれで充分過ぎるほどに無神経だが。
「そうだよ」
「ははは」
「何がおかしいの? 飽きた?」
「まさか」
 ここで、歯が浮くような愛の台詞を吐いて、抱き締めて、押し倒して、抱き合ったら。してなかった間を埋めるくらい情熱的な。変態! と罵られるくらいサービス満点の。
(うーん、しんどい…。とか思っちゃう俺って、駄目だな。ひどいな。でも、とてもそんな気にはなれない)
「結人、疲れてるんだね。可哀想に」
 彼女は、若菜の背中を撫でる。
(優しい。女神じゃん)
 彼女を大切にしなきゃ、って思う。幸せにしなきゃ。なのに、昨夜、触れそうで触れなかった、真田の手を思い出してしまう。手を繋げそうだった。でも繋げないし、繋がなくてよかった。
「結人はいつも、自分が気持ちよくなることより、私のことを考えてるね。私が気持ちよければ、別に自分はいけなくてもいいくらいに思ってるでしょ。毎回そんなんじゃ、疲れるよ。自分勝手なときも、大雑把なときも、あっていい」
 彼女は、若菜に優しく口付ける。
「結人、今日は、そんな気にはなれない?」
「いや、ちょっとそんな気になってきた」
 彼女は若菜をそっと押し倒し、
「結人は寝転がってて。何もしなくていいよ。希望があれば、言って。したいことをしてあげる。特にないなら、勝手にするけど、優しくするよ。いい? 嫌?」
「…いいよ、好きにして」
 彼女が笑った。その口元が、色っぽくて、とても好きだと若菜は思う。

『俺は、あの日の夜空も覚えてる』
(俺だって覚えてる)
 若菜が二人いればいいのに、という、バイト先で言われた言葉を思い出した。
(二人いればいいのか。みーこの俺と、一馬の俺。でも俺、一人だし。引き裂くか。真ん中から。できるもんなら。そんなアホな。できるとしても、いらねーだろ、そんなもん。みーこも、一馬も)
 みーこ、というのは彼女のあだ名だ。若菜がつけたわけじゃない。彼女が、みーこって呼んで、って言ったから呼んでる。
(俺のどこが好き?)
 そんなことを今聞いたって、今でなくても、彼女に聞いたところで、ただの睦言になってしまう。真田に聞いたとしたら、また『オニ』扱いされるだろう。聞けるわけないけど。そうじゃないのに。そういうんじゃないのに。
(一体、俺なんかの、どこをどう好きなのか。俺は、あんまり俺が好きじゃないみたい。年々好きじゃなくなっていく感じなんだ)


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