愛なき浜辺に新しい波が打ち寄せる
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2015年06月26日(金) 若真ネタ5

「けんちゃんてさ、小中時代は、クラスの中で目立たないっていうか、なめられてるっていうか、そういう存在だったと思うんだよな。高校や大学でもそうだったかも。だって、見た目地味で、気が弱そうで、鈍くさそうだし。でも、勉強とか就活とか頑張ってさ、いい会社入って、真面目に働いて、相手はうちの姉ちゃんごときだけど結婚の予定もあるし、立派な大人の男じゃん。俺は、けんちゃんと対照的なんだよな。学校で適当にやってるだけで、周りに人が集まってきて、なんかよく分からんけど俺って人気者? とか勘違いしてた。ちょろかったんだよ。そんなもんなんだよな。中身なんかなくても、要領さえよければ、うまくいってた。でもそんなの上辺だけじゃん。社会に出たら、通用しない。通用するも何も、それ以前の問題っていうか、とりあえず高校出たものの、社会には出たくないっていうか。そんなこんなで20歳ですよ。若いって、バイト先では言われるけど、それだけなんだよな。今んとこはまあ若い、って。それだけ」
『ふーん』
「あー、英士に話してすっきりした。俺の話なんか真剣に聞いてないもんな。気楽ー」
 若菜は、郭に電話で話してる。若菜と郭の関係性は、コンビニネタと同じです。同じマンションに住んでて、小中一緒。郭は大学生で、まあまあ遠方の大学に行ったので、今は実家を離れて一人暮らしだよ。普段はお互い連絡取り合ったりしないけど、たまに、しょーもないことで、若菜が郭に電話する。郭は適当に受け答えてる。
『話それだけ? もう切っていい?』
「あ、そうそう、彼女と別れました。まあまあショック受けてる」
『一応聞くけど、何で別れたの?』
「結婚しようって言われて、それはちょっと、って答えたら、じゃあもういい、ってなった」
『いいんじゃない、別に。じゃあもういい、って言われたら、はいそうですか、だよね』
「はー、ドライー」
『じゃあどうするの。結婚について前向きに考えるので別れるのは勘弁して下さい、って?』
「うーん…」
『なら、仕方ない。向こうは、早いとこ結婚したい、そうでなければ別れたい。こちらは、今のところ結婚は考えられない。だったら、別れ話になってもおかしくない』
「そうかもしれないけど、そんな簡単にさあ。付き合ってた三年間は何だったんだろうって」
『それは彼女だって思ってるだろうね。何だったんだろう、って。だからお互い様だよ』
「…うう」
『話終わった?』
「俺って何なんだろう…」
『知らない。けんちゃん、何かコネないの? 就職先を紹介してもらえないの?』
「いやだ。姉ちゃんにお願いするってことだろ。絶対嫌だ。それ以前に、就職が嫌だ。バイトも嫌だけど」
『はいはい。じゃあ切るから』
 ほんとに切るし。
(こんな話、一馬には絶対できないよな)

 こないだの夜、「パフェも食ったし、帰るか」ってなって、予定通り、長居せずに店を出た。会計のレジには牧がいて、
「非日常を楽しめた?」
 だって。含みのない笑顔で。
「おかげさまでー」
「また来てね」
「もう充分!」
 帰りの車の中では、ほとんど会話がなかった。真田は元々無口な方なので、自分からは色々話さない。若菜が話さなければ、しーんとなる、というのは、今に始まったことではないので、気詰まりではない。自然な沈黙だった。静かな時間が、夜の景色と共に流れていき、若菜のマンションに着く。
「おー、着いたー。ありがとな」
「どういたしまして。
 結人、」
 真田が、真っ直ぐに若菜を見る。
「ん?」
(どうしよう。何言われるんだろう。怖い)
「今日は、ありがとう」
「え。それは、こちらの台詞ですが? わざわざ迎えに来ていただきまして」
「そんなのは、全然。またどっか連れてって」
「……」
「あ、駄目?」
「いや、連れてって、てのは変だろ。連れてくのは、車出すのは、一馬じゃん」
「それはそうだけど。俺、店とか知らないし、行きたいとこも特にないし。でも、たまには結人とどこか一緒に行きたいっていうか。どこでもいいんだけど。お前、バイトあるし、彼女いるし、忙しいだろうけどさ」
「別に忙しいってほどでもないけど。まあ、また、どっか行こーぜ」
「うん」
(あー、声の調子が、めっちゃ嬉しそう。なんか、顔見れないけど)
「あ、じゃあ明日、8時半くらいに行くので間に合う?」
「や、それはいいわ。歩いて取り行くわ。晴れみたいだし」
「歩いたら結構かかるよな」
「たまには歩かねーと。パフェ食べたしな!」
「そっか」
(あーあ、残念げな声)
「じゃー、またな! 気をつけて帰れよー」
「うん。じゃあ、また」
(前は、一馬が俺の言動に一喜一憂するのが嬉しかったのに、今は素直に喜べないというか、重いというか)
 そういえば、帰り道も、雨は降っていなかった。でも、雨が降り続く日に、一人、家で何をするでもなく過ごすような気分になっていた。憂鬱で、気怠くて、でも安穏として、底の方でくすぶる焦燥が、怠惰に塗り潰されて、うやむやになる。
(本当は、多分、受け止めて、受け入れたい。でも、そんなの無理だって気持ちの方が大きい。もしも、あのとき、中学のとき、受け止めてたら、どうなってたんだろ)
 彼女との三年間は何だったのか、という思いより、真田との、四歳からだから十六年間か、は、何だったのか、という思いが、胸に広がっていた。
(連れてってほしいのは俺の方だ。一馬に、っていうんじゃなく、神様的な何かに? でも、自分で何とかしない限り、ここから動けない。どこにも行けないのに、誰かを、一馬を、どこかに連れていけるわけがない)


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