愛なき浜辺に新しい波が打ち寄せる
DiaryINDEX|past|will
次のテストというのは、一学期の中間のことだ。真田と郭のやりとりは4月下旬頃。中間まで、一ヶ月程ある。数学で一位、全教科で五位以内、というのは、そこまで無茶な目標ではない。真田はいつも全教科で九位以内に入ってるし、数学では三位以内なんだ。春休みも真面目に勉強してたので、それなりに自信はある。でも、何でもする、と自分から言ってしまった手前、プレッシャーが半端ない。 ところで、郭は、「考えさせて」とIに言ってしまった時点で、もう引き受けるしかないだろうと感じていた。なので、家庭教師のバイトをまたすることになった。 ゴールデンウィークに入り、真田はまあまあシフトが入ってる。バイトがない日に、真田は郭の家で一緒に勉強。一緒に勉強という名目だけど、お家デートだよね、もう。でも、真面目に勉強して、たまに雑談してるだけなんだが。 キリがいいとこで休憩しようってなって、真田は、手土産のお菓子を郭に勧めるが、自分はいいと言い、机に突っ伏す。 「疲れた?」 「うん」 「シフト結構入ってるもんね」 「バイトは全然平気。中間のことを思うと…」 「大丈夫だよ」 「五位以内か…。上手くいけばいけるかもしれないけど、数学はな…、いつも一位になってる子が同じクラスにいるんだけど、ほぼ満点だしな…」 「一馬も満点に近いじゃない」 「うーん…」 「撤回しようか?」 郭は、真田の頭にそっと手を置き、髪を優しく梳く。真田は、ばっと顔を上げ、首を横に振った。 「何でもするって言ったのは俺だし、とにかく、やります」 「はい」 「あと、中間終わるまで、そんな気安く触らないでくれる?」 「えっ」 「気が散るので!」 「気安く触ったわけではないけど」 「まあとにかく、触らないということで」 「幼稚園の時の写真、見せてくれる気になった?」 「まだ言うか。見せる気にならないよ」 「今度、一馬のお母さんに言ってみようかな」 「あっ、それは駄目」 「すぐ見せてくれそう」 「だから駄目なんだって。 そんなことより、女の子なんだってな。家庭教師先の中二の子。結人から聞いたけど、すごい可愛いんだってな」 「…結人は見たことないだろ」 「結人の彼女が知ってたんだって。小学校が同じだったって」 「世間は狭いね」 「女の子と部屋で二人きり…」 「中二だよ。あと、部屋で二人きりじゃない。リビングで勉強するから、お母さんがいつでも様子見れるし」 「三つ下だろ。うちの両親なんか八つ離れてるし」 「それとこれとは話が違うよ」 「あと、否定しないということは、すごい可愛いってほんとなんだ」 「可愛いかどうかという視点で見たことないから分からない。勉強熱心ではある。あと、一馬と同じで、理系が得意だよ。それだけ」 「すごい可愛い女の子と部屋で二人きりって…」 「だから、そうじゃないって」 「気が散るから、この件について考えるのはやめる」 「一馬」 郭は、真田の手を握ろうとするが、容赦なく払われる。 「触らないということで」 「痛いよ」 「悪かった。でも、さっき触らないようにって言ったのに触ろうとするから」 「中間が終わったらいいの?」 「中間の結果が、英士の提示した条件をクリアしてたら」 「してなかったら?」 「期末で頑張る」 「期末終わるまで、というか期末でクリアしないと触れない?」 「そう」 「ほんとに、真面目に、心底、撤回したいんだけど」 「無理。そもそも、英士は俺に触りたいのか?」 「当然だよ」 「俺達って、何なの? どういう関係? 触り合いたい友達同士? 俺、英士のこと好きで、英士も俺のこと好きって言ってくれたけど、好き合ってるってこと? 好き合っているとしても、付き合ってはいない状態だよな? そんなやりとりは交わしてないから。でも、付き合うって何なんだろう。同性だし」 真田はまくし立てながら、自己嫌悪に陥っていく。ただ好きでいたいだけだったのに、どうしたいとか、どうされたいとかなかったはずなのに、郭に多くを求めてる。わがまま過ぎる。さっきから、言ってることが滅茶苦茶だ。イライラして、モヤモヤしてる。嫌われる。嫌われて当然。むしろ、いっそ、嫌われたい? 嫌われるのが嫌過ぎて怖過ぎて、今すぐ嫌われてしまいたい。とか。ほら。滅茶苦茶だ。 「一馬は、付き合ってる状態がいいの?」 「…うん」 「じゃあ、付き合って下さい」 「…はい。…って! じゃあ、って! 言わした感、言わされた感がある…。なんか悲しくなってきた…」 「俺も悲しい。指一本触れないなんて」 「ほんと勉強しよ…中間に向けて必死で勉強しよう…。ゴールデンウィーク明けからテスト終わるまで一切シフト入れてないし」 「一馬…」 「あ、英士、この問題なんだけど、」 「…はい…」
|