愛なき浜辺に新しい波が打ち寄せる
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電車から降りて帰路に着き、別れ際、 「あの…」 真田が、迷いながら、何か切り出そうとしてる。 告白されるんだろうか、と、郭は身構える。それは不安? 期待? 「こういうのって、迷惑? 迷惑なら、やめようと思って」 こういうのって、どういうのだ? 真田がこの手のことを言うかもしれないというのは、想定外ではない。でも、実際言われると、がっくりくる。 「迷惑だと思ってるのに、動物園に付き合うほど、暇じゃないよ」 郭は、自然と不機嫌な調子になってしまう。 「…ごめん!」 真田の慌てた様子を見て、郭は、しまった、と思うが、もう遅い。真田は、すっかり恐縮してしまっている。 「いや、こっちこそ、ごめん」 迷惑なんかじゃないって言えば済むことだったのに…。 なんとなくぎくしゃくしたまま「それじゃあ、また」となってしまう。
数日後、合格発表。教え子は、無事、見事に合格。郭は、肩の荷が下りた気になる。当然嬉しいが、それ以上に安心が大きい。教え子も保護者も泣いて喜び、郭に大感謝。これで落ちてたら恐ろしい雰囲気だったろうな、と、郭は不吉なことを考え、ちょっと寒気がした。保護者と教え子から塾長に電話がいってるだろうが、自分からも電話する。 『いやー、よかったよかった。英士君、本当にありがとう。こうなると、僕は信じていたよ』 真田の『信じる』とは、全然重みが違って聞こえる。 「いえ、本人の努力と、ご家族のサポートの結果ですから」 『またまたご謙遜を。来年度も期待してるよ』 「いえ、次はもう考えてません。自分の勉強もありますし。今まで色々とお世話になり、ありがとうございました」 『いやいや、君なら大丈夫だよ。実はもう、次の話があってね、』 適当に流しつつも、引き受ける気持ちはないことを伝え、電話を切る。 ああ、なんという解放感。でもそのすぐ後に、どっと疲労が伸し掛かってくる。達成感が訪れるのかと思っていたら。それはともかく。早く知らせたい。誰に? それは勿論。言ってた通り受かったよって。そしたら、きっと、自分のことのように喜んで、安心してくれるのだろう。 今日は、真田がバイトの日だ。郭は、直接言いたかったので、行っていいかとだけ連絡してから、真田がバイト上がる頃にコンビニへ。3月も、もうすぐ下旬、春が近付いているはずだが、昼間でもまだまだ寒い。風が強い日も多いし、つい最近は雪が降った。しかしその夜は、そこまで寒くなく、風もなく、穏やかだった。春はそう遠くないのだと感じさせられる、静かな夜だった。もうすぐ春休みです。 真田は、こないだ別れ際に、ちょっとぎこちない空気になったことを気にしてて、自分が郭を不愉快にさせてしまったのだとしょんぼりしてたので、連絡を貰ったとき、ホッとして嬉しかったのと同時に、会ったら何て言おうって不安になってた。それ以上に気になるのは、合否のこと。どうだったのか。もう分かってるはず。連絡くれた時に明かさなかったのは、よくない結果だったからなのか。とか色々考えちゃう。 まあそんな感じで、バイト後公園でマチカフェ。 「受かったよ。一馬の予想通りだね」 「…!!」 おめでとう、とか、やったな、とか、これで安心だな、とか、おつかれさま、とか、祝福の言葉も労いの言葉もいくつもあって、いい結果の場合もそうでない場合も、何て言うか考えてきたはずなのに、いざとなると、感情が高ぶって言葉にならない。 「よかった…、ほんとに…」 そう言うのが精一杯。 「うん、よかった。ホッとしたよ。ありがとう、一馬」 「えっ、俺は何も」 「こないだ、受かるよ、って言ってくれたとき、なんだか救われた気がしたんだ。それに、こうやって公園でコーヒー飲んだり、一緒に勉強したり、雑談したりするのが、癒しになったというか。動物園も楽しかったし」 「えっ!」 「どういう『えっ』なの、それは。信じられない?」 「…じゃあ、信じる」 「じゃあ、って…」 郭は、なんだか呆れて、でも、不愉快とかでは全然なく、しょうがないな、って感じで。結局、そういうところも真田の美点だと感じてるんだ。 「あの、こないだ、なんか変な感じになっちゃって。改めて、ごめん」 真田は、ほんとに悪かったとは思ってるんだけど、何が悪かったのかは分かってない。 「いや、俺が悪かった。ずっと気にしてた? ごめんね」 「ううん、英士は悪くない」 もう、直接的に言わなければ伝わらない、って、郭は思った。自分こそ、単刀直入に言うべきだ。でも、言ったところで、そのままの意味で受け取られるとは思えない。今更ながら、郭はそう思い至り、呆然とする。 公園の桜の木、蕾が膨らんで、先が薄く色付いてきている。一緒に見れるだろうか。満開の桜を。散りゆく桜を。桜の季節が終わっても、ここで一緒にコーヒーを飲めるのだろうか。 「…とにかく、何はともあれ、よかった! おめでとう。おつかれさま」 あ、やっとちゃんと言えた、って、真田は満足。こないだのことは郭はもう気にしてないみたいだし、改めて、合格してよかったー、って気持ちが高まってきて、上機嫌です。 「…ありがとう」 なんかもどかしいけど、このままでもいいような気がしてくる郭なのでした。ちなみに真田は、郭に告白するつもりとかないよ。困らせるだけだし、せっかく友達っぽくなってきてるのに、それが台無しになる! って思ってるから。
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