| 2004年05月08日(土) |
【夢かマボロシ 2】 |
つづきです。 *********************************** 同居して、はじめての日曜日。 よく晴れた日で、二人ともヒマで、ちょっと遠出、と言って、私の車(私は軽自動車を持っている)でふたりで海に行った。 風と波音。 光る砂浜。白い波。海の色はそう綺麗でもないけど、青い。 季節は春先、うす青の高い空と、白い雲。 ちょっと寒いね、と笑顔で、ホットの缶コーヒーを買って飲んだ。 「ショウ、仕事は?」 「んー、今職探し中―」 「あ、じゃあ、私が出かけてる間は職探ししてんの?」 「ま、そんなとこ」 「ふうん」 私は、最初からちょっと疑問に思っていたことを聞いてみる。 「・・・ね、なんで私のこと覚えてたの?」 「だから言ったじゃん。オレさつきのこと好きだったからってー」 軽い口調でそう返してきて、またか、と思って私は肩をすくめる。 「あーハイハイ」 「なんで信じないかな・・・」 「どうしてそういう軽口を信じられるかなあ?」 そう言う私に、ショウは。かすかに笑ってみせる。 (笑った顔が。) そんなの気のせいだって、きっと誰もが言うだろう。 でも、笑った顔が、光に透けてしまうような気がした。 空気に溶けちゃうみたいな。 いっつもそんな気がしてたって言っても、ウソじゃないと思う。 出会った最初から。そんな錯覚。 「・・・ショウ?」 風。春先の、まだ冷たい風が吹く。風に乗って潮の匂い。ただ気持ちいいはずなのに、なんだか切ない気持ちになる。・・・なんで? 私は。思わずショウの手をつかんだ。なんだか必死だった。自分でもよくわからない感情の波に支配されていた。 ・・・冷たい手。 そして沈黙。 ぱりんと、一瞬で割れて壊れてしまいそうな、沈黙。 「・・・なに?」 彼はかすかに笑って聞いた。 私はとたんに恥ずかしくなり、「なんでもない」と、言う。 でも、つかんだその手はそのままで。 「・・・ショウ。手が、つめたいね」 私の声に、ショウは、ふふ、と笑った。 「そりゃあ、心が温かいからね」 「あっそう」その台詞に、くっくと笑う私、一瞬彼から目を離したら。 彼は低い声で、こう言った。 「オレの、ショウって名前の漢字、どう書くか知ってる?」 「知らない・・・ごめん、覚えてナイ」 「青、って書いてショウって読むんだよね。海の青とか、空の青とか。くっさい名前だろー? 絶対一発で読めるやついねーし。ガキの頃は結構イヤだったんだよね」 「えーそうだったっけ? くやしい、覚えてない!」 「なんでくやしいの」 「え、なんとなく。 でもいいじゃん。私なんて単に5月生まれだからさつきなんだよ? しかもひらがな! 単純すぎてイヤになるよ」 「それがイイんじゃん」 「そうかあ?」 「そうだよ! ああ〜、でも」 ふいに、言葉を切って。 「でも?」 聞き返す私に、ふと、また光にすけるような笑い方をして、ショウはこう言った。 「海とかさ、空とかさ。見たらオレのこと思い出してよ。 さつきがオレのこと思い出すんだったら、まあ結構イイかも。この名前も」 「なにそれ。どうせ毎日会ってんじゃん」 思い出すも何も。と私は言った。 そりゃそうだ。とショウが笑った。 でも。 どうしてそのことが、その場面が、こんなにも私の心に焼きついただろうか?
そして。 幕切れはあっけなくやって来た。 どんどん、ショウが空気にすけてしまうような、そんな感じが私の中で強くなって行く。 すると私は不安でたまらなくなる。 たった1週間くらいしかいっしょにいない。 人間が空気にとけて消えるなんてありえない。 ありえないはずなのに? どうしてこんなに不安になるのか。 自分で自分がわからなくて余計にあせるような気持ちになる。 そしてその朝。 「行ってきます」と私は言った。 「行ってらっしゃーい。また夜に会おうぜー」 いつもの軽い口調でショウはたしかにそう言った。 でも、帰ったときには私の部屋は、まっくらなまま。誰もいなくて。 そのまま2日、ショウは帰ってこなかった。
3日目。その日は勤め先の関連会社に一日出張で行くことになり、普段は電車で通勤しているのだが、その日だけは車で、家を出た。 夜になって、まだ4月だっていうのに変に暑い日で、車の窓をいっぱいに開けて家路についた。 いつもとあんまり変わらない帰宅時間になり、夜9時頃。 アパートの隣の敷地にある駐車場に車を入れたところで。 ドアを開けようと、ふと車の右側を見て、おどろいた。 運転席の横、車のドア隔てた向こうに、ショウが立っていたからだ。 「・・・ショウ」 「・・・よ」 元気ない。 一目でそう思った。 でも、不安な心とは裏腹に、私はどこかで、やっぱり。と思っている。 かすかに笑ったその顔は。 いつも感じる、すけちゃう感じ。それが一層つよくなった感じがした。 私は怖くなった。 今にも消えちゃうんじゃないかって。 怖くて。 「ねえ。」 私は開いた窓から、車の外には出ないまま、もう車から出る時間も惜しい、って気持ちで、ショウの手をつかんでいた。 「なに」 車の外。 暑いのに、なぜか黒いコート姿で。私のことを見下ろして。 (冷たい手。) 「・・・手。つめたいね・・・」 前にも言った、同じ台詞を私の唇はつむぎだす。 それを聞いてショウは、ふと、口の端でやさしく笑った。 「・・・なに?」 「どこ行ってたの?」 そう言った私の声は、泣きそうに頼りないものだっただろうか。 変に冷たい調子で、ショウは言葉を返す。 「・・・べつに。ちょっと買い物」 「なんで・・・」 かえってこなかったの。なんて。口がさけても言えないと思って、つづきを言うのをやめる。 ショウはふと、からかうように笑ってみせて。 まるで私が不安なのを追い払うみたいに、なんて思ったのは、自分に都合のいい私の考え? でもそれだけで私は泣きそうになっている。 ショウの手を、つかんだ手の平、はなすことも出来ないでいる。 「なんで、何だよ?」 でもその私のプライドは。 口が裂けても言えない、なんて、一体なんのためのプライドだろうか? (・・・終わりが) 私は心の声を理解しない。 終わりってなんだ。 今日のショウを見てると浮かぶ。カウントダウンのイメージ。 そんなの、絶対信じない。 そんなことを強く強く考えながら、私は言った。 「わたし。 好きだよ。・・・ショウのことが。大好きだよ?」 言葉。まだ、一度も言ったことがなかったその言葉。 それを言ったら。 一瞬、泣きそうに、ショウのその目がうるんで見えたのは、私の気のせい? それは気のせいだっただろうか?
*********************************** まだまだつづきます。↓過去をクリックしてください。
|