日記

2004年05月07日(金) 【夢かマボロシ 3】

つづきです。
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そうしたら。
少しの沈黙のあとで。
うれしそうとも、さびしそうともつかない笑顔で、ショウは笑った。
その笑顔は完璧だった。
完璧っておかしいけど。
青い空とか。白い雲、そこから差す光。
そんなの、思い浮かべる感じで。
「・・・ありがと」
それだけ言って。
するりと。
その笑顔にみとれて、力が抜けた私の手から、自分の手を自然にはずして。
泣きそうだ。とも取れる視線で、でも笑って私にささやいた。
「さつき。ちょっと、目、つぶってみて」
「なんで・・・」
なんでと言いながら。どこか有無を言わせない感じのその響きに、私は目を閉じる。
そしたら。
まぶたに、冷たい唇の感触。
ささやく、低い声。
「オレも、・・・大好きだよ。
 でも、ごめんな」
ごめんってなに、と言おうとして目を開けた。
ひゅう、と風が。吹いて。
「・・・ショウ?」
私の声だけが、駐車場の人気のない暗闇に、うつろに響いて。
目を開けたら。そこには誰も・・・いなかった。


そして数日後の土曜日。
その日は会社が休みで、気晴らしに、と思い、私はひとりで街に出た。
いくつか買い物をして、通りすがりのカフェに入ったとき。
「あれえ? 宮本さん?」
ふいに大声で名前を呼ばれて、声のした方を見る。
「・・・あ、」
そこには。たしか中3のときに(この人も)同じクラスだった、大崎加南子がにこにこ笑って立っていた。
「今からお茶? ひさしぶりー! ちょっと話さない?」
くったくなく笑う彼女に、なんか最近こういうの多いな、とちょっと笑いつつ、「いいよ」と私は応じる。
「ほんと久しぶりだよね。中学卒業以来?」
オーダーしたカフェオレを飲みながら、私は言った。加南子は笑顔のまま、答える。
「そうだよね。宮本さん、高校がちょっと遠いところだったじゃん? 大学は?行った?」
「うん、短大。県外だったんだよね」
「あ、じゃあ、就職して戻ってきたってそういうやつ?」
「そうそう。でも家と会社がちょっと遠いから、今一人暮らししてるんだけどさ」
「えーうらやましい!どこに住んでるの?今」
「ええと、緑ヶ丘」
「そうなんだーいいなあ!」
私なんかまだまだ親元なんだよー。と、加南子は屈託なく笑う。
私は思いたって、聞いてみることにした。
「・・・ね、北村青って、覚えてる?」
私この前、と言いかけたとき。
私の声は、加南子の声にさえぎられた。
「ああ、北村! かわいそうだったよね」
(かわいそうだったよね?)
「かわいそうって、・・・なにが?」
真剣に首をかしげた私に、あれ、という顔で加南子は続けた。
「あれ? あ、そうか。宮本さん、県外に出てたから知らないんだ?」
「・・・知らないって?」
どくん。と。
心臓の鼓動がはやまる。
こわれそうに。胸が。しめつけられたみたいな。変な感覚。
「なにが?」
もう一度、繰り返して私は聞いた。
加南子は、ゆっくりと、こう言ったのだ。
「高校卒業して、4月だったと思うからちょうど今ごろだったと思うんだけど、事故でさ。亡くなったんだよね。バイクに乗ってて。たしか、車よけきれなくて」
そのときの衝撃をなんて言ったらいいんだろうか?
パン。と。
いっぱいにふくれた疑惑の風船が。破裂したような感じがした。
だって私はそんなこと。
中学のときの友達なんて、もはやあんまり交流なくなってて。
そんなことぜんぜん知らない。
知らないから。
「あ、宮本さん、カフェオレこぼれてる!」
「え」
衝撃で、飲みかけのカフェオレをソーサーに、じゃーとこぼしていた。
ぜんぜん手に力が入らなくなった感じで、仕方なく私はソーサーの横にカップを置いた。
「あ、ごめん。びっくりして」
「そうかー。知らなかったなら、驚くよね。ごめん! 私気がまわらなくて!
あ、でも、緑ヶ丘に住んでるって言った? ・・・たぶんね、近くだったような?」
「近くって?」
「事故現場」
・・・それでは。
それではあれは。
あのとき、最初に私に会ったとき、私が彼の名前を呼んだとき。
とても、彼は驚いていたのではなかったか。

すべての疑問が。不思議だったことが。全部つながるような気がした。呆然とした中で。
あれは実体じゃなかったって言うのか?
もうとっくにここにはいなかったと。
(冷たい手。)
何度も思った。びっくりするくらいに冷たいあの手。
・・・そんな。
(そんな救いのないことってあるだろうか?)
しばらくして、加南子と別れて。道を歩いて家へと帰りながら。
臆面もなく、ただぼろぼろと私は泣いた。
ユウレイになってまで私のところに来たショウの気持ちのために。
そして、いつのまにかすごくあの子を好きになってしまってた、私の行き場のない心のために。

いつか、このことをなつかしく思い出す日がくるんだろうか。
今はこんなに、生々しく痛いだけなのに?
生々しく。
いたくて。
でも、私に中に残ったものはたしかにある。
あまりにもあまりにも、きらきらした記憶が。たしかにある。

頭の中で繰り返される。
「思い出してよ」
海に行ったときのショウの台詞。
くりかえして。
そんなことを思いながら、私は泣いた。
失ってしまった、もう二度とは取り戻せない、あのきらきらした日々のために。


・・・しかし。
現実はそう、悲劇的なままでは終わらなかった。
その数日後。
仕事帰りに家に帰ると、部屋に灯がついている。
「・・・?」
不審に思って、おそるおそる扉を開けた。
「おお!おかえりなっさーい」
無邪気な声が。この耳に。
がたん!
思わず、持っていたバッグを取り落とす。
「・・・シ、シ、ショウ?」
「ひさしぶりー☆」
呑気というか。前よりも一層明るく、そう私に笑いかける。
「な、なんで? あんた、事故で随分前に亡くなったって、聞いたんですけど?」
ドアに張り付いたまま、それだけを言う私に、ショウは首をかしげてこう言った。
「あ、やっぱりバレてた?」
「バレてた?じゃなくて!」
「いや、なんかさ、オレも、あのときこの体消えて、ついに成仏できると思ってたんだけどさー。なんか、気付いたらここにまた、出てきちゃってたんだよね。今日」
「はああ?」思わず床に座り込みそうな気持ちを、私は必死で抑える。
「で、思うに、今までオレ、あんな事故で死んじゃったなんて納得いかねー!って思って成仏できてなかったんだと思うんだけどさ。
今回、さつきのこと、好きだ〜!と思いながら消えたじゃん?
どうもそれが未練になって、また成仏できなかったんじゃないかなあ〜って思・・・って、え、・・・さつき?」
すごくびっくりした顔して。無言でまっすぐショウを見たまま泣いてる私を、まじまじと見た。
私はそうっと、彼の肩に触れる。
やっぱり冷たい。でも。さわれる。消えたりしない。ここにいる。ユウレイでもなんでも。
「バカ〜・・・! 私の涙かえせ! そしてもう二度と私の前から消えたりするなあ!」
きゅっとしがみつくみたいにして。
ぽろぽろ泣いた。
ショウは、「あーよしよし」と私の背中をなでて・・・しばらくして私たちは、顔を見合わせ、
「あーあ、これからどうしよう!」と、ひとしきり笑った。
だって人間とユウレイの恋なんて?
そんなの悲恋に決まってないか?
でも、お互いがお互いの傍にいられたら、とりあえずそれでいいか。と、呑気に考えることにする。
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終わりです。
よろしければ感想聞かせてくださいー。


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