| 2004年05月07日(金) |
【夢かマボロシ 3】 |
つづきです。 ********************************* そうしたら。 少しの沈黙のあとで。 うれしそうとも、さびしそうともつかない笑顔で、ショウは笑った。 その笑顔は完璧だった。 完璧っておかしいけど。 青い空とか。白い雲、そこから差す光。 そんなの、思い浮かべる感じで。 「・・・ありがと」 それだけ言って。 するりと。 その笑顔にみとれて、力が抜けた私の手から、自分の手を自然にはずして。 泣きそうだ。とも取れる視線で、でも笑って私にささやいた。 「さつき。ちょっと、目、つぶってみて」 「なんで・・・」 なんでと言いながら。どこか有無を言わせない感じのその響きに、私は目を閉じる。 そしたら。 まぶたに、冷たい唇の感触。 ささやく、低い声。 「オレも、・・・大好きだよ。 でも、ごめんな」 ごめんってなに、と言おうとして目を開けた。 ひゅう、と風が。吹いて。 「・・・ショウ?」 私の声だけが、駐車場の人気のない暗闇に、うつろに響いて。 目を開けたら。そこには誰も・・・いなかった。
そして数日後の土曜日。 その日は会社が休みで、気晴らしに、と思い、私はひとりで街に出た。 いくつか買い物をして、通りすがりのカフェに入ったとき。 「あれえ? 宮本さん?」 ふいに大声で名前を呼ばれて、声のした方を見る。 「・・・あ、」 そこには。たしか中3のときに(この人も)同じクラスだった、大崎加南子がにこにこ笑って立っていた。 「今からお茶? ひさしぶりー! ちょっと話さない?」 くったくなく笑う彼女に、なんか最近こういうの多いな、とちょっと笑いつつ、「いいよ」と私は応じる。 「ほんと久しぶりだよね。中学卒業以来?」 オーダーしたカフェオレを飲みながら、私は言った。加南子は笑顔のまま、答える。 「そうだよね。宮本さん、高校がちょっと遠いところだったじゃん? 大学は?行った?」 「うん、短大。県外だったんだよね」 「あ、じゃあ、就職して戻ってきたってそういうやつ?」 「そうそう。でも家と会社がちょっと遠いから、今一人暮らししてるんだけどさ」 「えーうらやましい!どこに住んでるの?今」 「ええと、緑ヶ丘」 「そうなんだーいいなあ!」 私なんかまだまだ親元なんだよー。と、加南子は屈託なく笑う。 私は思いたって、聞いてみることにした。 「・・・ね、北村青って、覚えてる?」 私この前、と言いかけたとき。 私の声は、加南子の声にさえぎられた。 「ああ、北村! かわいそうだったよね」 (かわいそうだったよね?) 「かわいそうって、・・・なにが?」 真剣に首をかしげた私に、あれ、という顔で加南子は続けた。 「あれ? あ、そうか。宮本さん、県外に出てたから知らないんだ?」 「・・・知らないって?」 どくん。と。 心臓の鼓動がはやまる。 こわれそうに。胸が。しめつけられたみたいな。変な感覚。 「なにが?」 もう一度、繰り返して私は聞いた。 加南子は、ゆっくりと、こう言ったのだ。 「高校卒業して、4月だったと思うからちょうど今ごろだったと思うんだけど、事故でさ。亡くなったんだよね。バイクに乗ってて。たしか、車よけきれなくて」 そのときの衝撃をなんて言ったらいいんだろうか? パン。と。 いっぱいにふくれた疑惑の風船が。破裂したような感じがした。 だって私はそんなこと。 中学のときの友達なんて、もはやあんまり交流なくなってて。 そんなことぜんぜん知らない。 知らないから。 「あ、宮本さん、カフェオレこぼれてる!」 「え」 衝撃で、飲みかけのカフェオレをソーサーに、じゃーとこぼしていた。 ぜんぜん手に力が入らなくなった感じで、仕方なく私はソーサーの横にカップを置いた。 「あ、ごめん。びっくりして」 「そうかー。知らなかったなら、驚くよね。ごめん! 私気がまわらなくて! あ、でも、緑ヶ丘に住んでるって言った? ・・・たぶんね、近くだったような?」 「近くって?」 「事故現場」 ・・・それでは。 それではあれは。 あのとき、最初に私に会ったとき、私が彼の名前を呼んだとき。 とても、彼は驚いていたのではなかったか。
すべての疑問が。不思議だったことが。全部つながるような気がした。呆然とした中で。 あれは実体じゃなかったって言うのか? もうとっくにここにはいなかったと。 (冷たい手。) 何度も思った。びっくりするくらいに冷たいあの手。 ・・・そんな。 (そんな救いのないことってあるだろうか?) しばらくして、加南子と別れて。道を歩いて家へと帰りながら。 臆面もなく、ただぼろぼろと私は泣いた。 ユウレイになってまで私のところに来たショウの気持ちのために。 そして、いつのまにかすごくあの子を好きになってしまってた、私の行き場のない心のために。
いつか、このことをなつかしく思い出す日がくるんだろうか。 今はこんなに、生々しく痛いだけなのに? 生々しく。 いたくて。 でも、私に中に残ったものはたしかにある。 あまりにもあまりにも、きらきらした記憶が。たしかにある。
頭の中で繰り返される。 「思い出してよ」 海に行ったときのショウの台詞。 くりかえして。 そんなことを思いながら、私は泣いた。 失ってしまった、もう二度とは取り戻せない、あのきらきらした日々のために。
・・・しかし。 現実はそう、悲劇的なままでは終わらなかった。 その数日後。 仕事帰りに家に帰ると、部屋に灯がついている。 「・・・?」 不審に思って、おそるおそる扉を開けた。 「おお!おかえりなっさーい」 無邪気な声が。この耳に。 がたん! 思わず、持っていたバッグを取り落とす。 「・・・シ、シ、ショウ?」 「ひさしぶりー☆」 呑気というか。前よりも一層明るく、そう私に笑いかける。 「な、なんで? あんた、事故で随分前に亡くなったって、聞いたんですけど?」 ドアに張り付いたまま、それだけを言う私に、ショウは首をかしげてこう言った。 「あ、やっぱりバレてた?」 「バレてた?じゃなくて!」 「いや、なんかさ、オレも、あのときこの体消えて、ついに成仏できると思ってたんだけどさー。なんか、気付いたらここにまた、出てきちゃってたんだよね。今日」 「はああ?」思わず床に座り込みそうな気持ちを、私は必死で抑える。 「で、思うに、今までオレ、あんな事故で死んじゃったなんて納得いかねー!って思って成仏できてなかったんだと思うんだけどさ。 今回、さつきのこと、好きだ〜!と思いながら消えたじゃん? どうもそれが未練になって、また成仏できなかったんじゃないかなあ〜って思・・・って、え、・・・さつき?」 すごくびっくりした顔して。無言でまっすぐショウを見たまま泣いてる私を、まじまじと見た。 私はそうっと、彼の肩に触れる。 やっぱり冷たい。でも。さわれる。消えたりしない。ここにいる。ユウレイでもなんでも。 「バカ〜・・・! 私の涙かえせ! そしてもう二度と私の前から消えたりするなあ!」 きゅっとしがみつくみたいにして。 ぽろぽろ泣いた。 ショウは、「あーよしよし」と私の背中をなでて・・・しばらくして私たちは、顔を見合わせ、 「あーあ、これからどうしよう!」と、ひとしきり笑った。 だって人間とユウレイの恋なんて? そんなの悲恋に決まってないか? でも、お互いがお互いの傍にいられたら、とりあえずそれでいいか。と、呑気に考えることにする。 ********************************** 終わりです。 よろしければ感想聞かせてくださいー。
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