「いらっしゃいませ〜・・・と、りょうちゃん。おかえり」 こういうとき、今来たばかりのりょうちゃんに、おかえり、なんて言葉が 出てくる直人は、りょうちゃんのことを家族的な視点で見ているんだなあ、 と思う。 「はやく終わったから来ちゃった。あ、エミコさん。こんばんは〜」 私の隣に来て笑顔を作ってみせるけど・・・あら〜と、思った。 だってもともと細い子なんだけど、たしかに、明らかに痩せた感じがするし、 顔色もよくない気がする。私は毎日夜7時頃、この店に来ているが、 そう言えば最近、すれ違いでりょうちゃんとはなかなか会えなかったんだよな。 と思い出す。 綺麗なうすい青のキャミソールにジーンズという格好で、それが余計に細さを 際立たせてる? ブルーの色が顔色を悪く見せている?
それだけじゃない気がして、私はりょうちゃんの顔を見るなり、思わず こう言っていた。 「りょうちゃん。ちょっと座って」 「ハイ?」 私に促されるようにして(もしかしたら我ながら、有無を言わさない 強引な感じだったのかもしれないんだけど)、私の隣のカウンター用の 背の高い椅子に、すとんと座ったりょうちゃんは、やっぱり明らかに 線が細くて元気がない。 「りょうちゃん、牛乳好き?」 私の突飛な台詞に、少し笑って。でも、心ここにあらずな感じだ。 直人じゃないが、正直言って、それだけでも心配になっちゃうくらいだ。 「なんですか? 急にー。好きですよ?」 「直人、ミルクカラメル。追加でお願いー。私のおごりね」 「なな、なんですか? ダメですよエミコさん! そんなの!」 慌てて立ち上がりかけるりょうちゃんを、まあまあ、と片手で制して、 私は笑った。 「いいじゃん。たまには。 今日、もう、お店入らなくていいんでしょ? ほんとはお酒飲みたい気分だけど、りょうちゃん未成年だし一応まずいでしょ? ここってお酒ないし。私、給料日後で、ちょっとリッチなのよね〜。 素直におごられて? たまにはいいじゃん。そういうのも」 「でも」 「だいじょうぶよ。別にウラでヘンなこと要求したりしないから」 「ヘンなことってなんですか・・・」 「ええ〜じゃあ、オレにもおごってよ」 脱力した感じで呟くりょうちゃんに、横から会話に割り込んでくる直人。 私はわざと、 「あんたは駄目」と言ってみる。 「なんでさ」 不満気な直人に、くすくす笑って続ける私。 「りょうちゃんへの愛の方が深いから」 「ハイハイ」 肩をすくめる直人。りょうちゃんは、そんな私たちのやりとりに呆れた感じで、 でも面白そうにくすくす笑った。やっと笑顔に生気が戻った感じがして、 私は思わず呟いている。 「ああ、やっとちゃんと笑顔になった」 その私の台詞に彼女は、一瞬固まった感じだった。 「う」 って感じ。結構顔に出ちゃうこの子は、本当に素直でかわいいなあと思う。
「直人のミルクカラメル、飲んだことある?」 「・・・いえ、ないんですよ。でも直ちゃんの入れてくれるコーヒーとか、 本当に美味しいと思う」 「ほめられてるよ、直人」 「うん、うれしい」 「ミルクカラメルもね、おいしいよ? 騙されたと思って飲んでみて?」 「なんで騙されるのさ」 「あ、ごめん。今のは言葉のアヤってものよ、直人」 「ま、そういうことにしといてあげてもいいけどね」 しばらくして、ミルクカラメルは出来上がり、白い、大きめなマグカップに 入れられた、その甘い飲み物が、りょうちゃんの目の前に差し出された。 直人はそのまま、もう一組の客がお金を払おうとしていて、レジに行って その対応をしていた。 そして、カランとドアベルの音がして、店には私たちだけが残された。
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