日記

2003年02月25日(火) スロウ・ダンス 2

つづきです。
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「・・・直人」
反射的に名前を呟いて、彼を見上げたまま黙る私に、直人は少し笑った。ような
気がした。
「なんかあった?」
するっと。
別に特別やさしくもない、でも冷たいってワケでもない口調でそう聞くから。
その、ごくごくフツウの感じに無性にぐっと来て、ヤバイ泣くかも。なんて思う。
「なんで?」
でも、悟られまいと、平静を装って私は聞き返す。
こうなったらもうバレバレだって、わかってはいたけれど。

そうしたら、直人は言った。少し笑みを含んだ表情をして。
「だってここ2〜3日、電話も出てくんないし。
 店の前通り過ぎる所も見ちゃったし。
 オレ、なんかしたかなあ?って」
「そんなこと!」
思わず大きな声を出す私に、直人はくすくす笑う。
「うん。心当たりないし」
それだけ言って、そのまま、ふいにきゅっと私を抱きしめた。
「なな直人?」
あんまり突然のことに驚いて、固まってる私の耳に、直人の胸から直接声が響く。
「ハイハイ、身体の力抜いて?」
ふざけた調子でそう言う直人。うながされるように自然に、固まってた身体の力
がすうっと抜けちゃう。
なんなんだろう。と思う。こういうの。
そしてそのまま、直人は続けた。

「だから、たぶん原因はオレじゃなくて、ああ、仕事か家か、どっちかでなんか
 あったかなあ。って。
 なんか、前にもこういうことあったし。
 そしたら、やっぱり追いかけてきてよかった。
 なんでエミコさん、そんな、泣きそうな顔してんのさ?」
そんなこと言われて、今度こそ本当に、私は泣き出しそうになる。
なんだろうコイツは。って思う。
あたたかくなっている胸の隅で、そんなことを考える。
なんでこの子はこんなにも。
私がうれしくなる言葉を、知ってるんだろう?

そして私はそのまま、思わず弱音なんて吐いてしまう。
「もーイヤ。仕事やめたい〜〜〜」
「・・・じゃあ、やめちゃえば?」
笑いを含んだままの直人の声。耳の奥に響いてくる。
「だって、それじゃイヤなんだもん。なんか負けるみたいで嫌なの。だから」
それだけ言って直人を見上げて。
その時私は、自分でも予想外の台詞に我ながら驚いていた。
負けるみたいで嫌だとか。
そんなこと言うなんて、自分でぜんぜん判ってなかった。
そういう時、まったく私は、本当に鈍い。って実感する。
自分で心の奥の底のところで考えてることなんて。
最後の最後でしか、わからないのだ。いつも。

そうしたら直人は。
「そう言うと思った。ほんっと負けず嫌いだよね、エミコさん」
くすくす笑って、そう言った。
(・・・私、コイツに完全に負けてるわ。)
その笑顔を見ながら、そんなことを思った。

そして内心、私がかなり感激していたら。突然、直人がこう言った。
「ねえエミコさん。ダンスしようよ」
「はあ?」
あまりに突飛な思いつきに、ちょっと笑う。笑ってる自分にもびっくりする。
完全に立ち直ってるわ私。と思って。
「ダンスって、今ここで? この道端で?」
「そう。イイでしょ、結構」
「ええ〜イヤだあ! 恥ずかしくない?」
くすくす笑ってそう言う私に、直人は内緒話をするみたいに小声でこう言ってくる。
「そこで笑ってるってことは、結構やってみたいでしょ」
「・・・いいけど。誰もいないし。夜だし」
「じゃあやろうよ」
「ええ〜?」

笑いながら。直人にリードされて、ちょっとゆっくり踊ってみた。
バカだなあ! と思うけど。
見知らぬ人が通りかかったら、「コイツら、どうしちゃったんだ?」と
思われること請け合いだったけど。
たまにはこういうのも、いいんじゃないかなあ? と思ってしまう私は、
もう本当にノリやすい。いい気なものだ。
だけど人生って本当に、ゆっくりダンスしているようなモノかもしれない。
そうであったらいいなあ! なんて。
笑いながら踊りながら、そんなことを考えていた。

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すみませんすみません。って感じ。ですが。−−;
感想など聞かせていただけたら幸いでございまする〜。


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