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漫画関連ファイル


2004年05月03日(月)
BSこだわり館「少女まんが」の感想

さて、BSこだわり館の少女マンガ作品についての三回の番組を見て、考えたことなど。各回の感想にいろいろ書いたけれど、全体として見ればきちんと取材した良い番組でした。基本情報が間違っていないし、ゲストに呼ぶ人も的確。ファンや関係者のインタビューも入っていて、全方位的に及第点。BSまんが夜話にくらべれば、文句を言うのが申し訳ない仕上がりでした。その上で思ったことを以下に書きます。

まんがについてのテレビ番組を見たときにいつも違和感を感じます。小説の朗読番組(あんまり見ないけれど)にも感じる違和感かも。紙媒体の作品を映像で見ると、自分の頭の中にある作品とは違って見えるんですね。ネームを思いいれたっぷりにナレーターが読むことのマイナスもこのあたりにあって、マンガを読んだ時に頭の中に響いている声は、読者ひとりひとりで違っているんだろうと思います。映像や音声はイメージを限定するのにひきかえ、紙媒体の作品には想像の余地が大きいんでしょう。(マンガは絵があるので、小説の方が想像力を必要としますが)かなり出来の良い映像と音声でないと、ファンは納得しないかも。ただし、原作より映像化したものを先に見ると、そのイメージに助けられて読みやすい場合もあるので、マイナスばかりがあるわけでもない。まあ、これは別の話。
この三回分の放送でナレーションを一番すんなり聞けたのは『デザイナー』でした。ちょっと面白いくらいでした。次が『ベルばら』全然だと思ったのが『ポーの一族』・・・でも、これは私の思いいれの度合いの順番かも。

作品紹介も、目に見えるものを紹介するだけでは不十分な感じがする。あらすじをまとめたものには、そのマンガが読者に与えた一番大事なものがすり抜けてしまう。だから、熱心なファンが自分の言葉で語った作品紹介の方が聞きやすい。それが、自分のイメージと違っていても、それは語っている人のフィルターを通して出てきたものだと納得できるから。(そして、その語った人についても、作品の感想を通していろんなことがわかって面白い)NHKがマンガの番組を作って、どうもガラスケースに入れたようなもどかしさを感じるのは、このへんに理由があるんじゃないかと思います。だからいいかげん、そういうものを感じさせない番組を作ってよ!といいたい。今回はかなりいい線まで来たけれど。

今回の番組は「ポーの一族」の長編の三部作以外は、雑誌でリアルタイムに読んでいたので、いろいろ言いたくなるんだろうなあ。リアルタイムで読んで、その作品の前後まで知っていて、この30年間の作者の動向を追ってきたようなその筋の読者と、全然読んだことのない人、少ししか知らない人では、見た感想が違うと思う。この番組を見て、「そうだったのか」と感心したり、本を手にとって読んでみようと思わせる効果があったなら、それはそれで成功なんでしょう。そのへんはどうだったんだろう。

実は、この三人の漫画家の作品は、偶然わたしが、子供たちに読ませたものでした。うちの子供たちは、ひとりはあまり本を読まないタイプ。もうひとりは少しは読むタイプ。でも、昔の私ほどは、本もマンガも読まないみたい。(文庫に通ったり、読み聞かせもしたのになあ。)『ベルサイユのばら』は、まあ、基礎教養だから読んどいて。みたいな感じ。『ポーの一族』は、ママが一番好きなマンガだから読んで。と言って、ハードカバーを渡した。一条さんは『デザイナー』じゃないけれど『プライド』を買って三人で読んでいる。で、結局一番読めたのは『プライド』だった・・・雑誌を立ち読みして続きを追いかけているようだ。『ベルサイユのバラ』はオスカルとアンドレ、という視点で読むには時期が早すぎたか。『ポーの一族』は長くて難しいと言われてしまった・・・(しくしく)そして、私が番組を見ている後ろをうろうろしながら、立ち止まって一緒に見たのは一条さんの回だけだった。実際、私が見ても、一番おもしろかったのは一条さんの回だったと思う。

それは作品の評価とはあんまり関係ない。番組としてみた時に、一番わかりやすかったせいだと思う。作者が作品を書くときのモチベーションがはっきりしていて、『デザイナー』と現在の作品の『プライド』両方に共通のものがあって、しかも人気もある。一条さんの過去と現在と未来がつながっていることを、この番組は表現することができていたと思う。じゃあ、ほかの二人についてはどうだろう。

今回の番組は作品がテーマになっているので、そのへんについて掘り下げなくてもいい、という言い訳ができるしな。池田さんは今何をしてるんだっけ。オペラ歌手?マンガは描いてるのかな?『オルフェウスの窓』のあと、この人は何をしていたのか、私は知らない。『ベルサイユのバラ』という作品が他の媒体に移されて、再生産されているそのあたりを追いかけてもおもしろかったと思うんだけれど。昔、私達が夢中になったあの作品の中の「オスカル」という存在と、現在のファン達の中の「オスカル」は同じなのか?違うのか?あのマンガの経済効果はどんなものなのか、そのへんも知りたい。

萩尾さんについては、もし『ポーの一族』を、思春期の対人関係だの自分の存在についての悩みの反映だのという視点で見るのなら、彼女にとって、そういう問題から抜けた時期はいつか、それはどんなふうに訪れたのか、今はどうなのか、というところまで追ってほしい。内側から外側に向かい合うことができるようになったのはどうしてか。そして、今は何を描いているのか。今現在もすごい作品を発表し続けている萩尾さんの現在の中で、『ポーの一族』は何だったのか?どこにつながっているのか。『ポーの一族』がマンガ全体に与えた影響はどういうものだったのか。

作品と作者の現在と未来まで、視野に入れて番組が作られていたら、もっと面白かっただろうと思う。あ、それと萩尾さんの作品については、映像的に素晴らしいことを、たとえばプロのカメラマンとか映画監督に、作品の一場面を映像化してもらうとかそいうアプローチもあるんじゃないかなあ。(お金かかりすぎ?)それと、大昔、私は萩尾さんの作品のネームを全部紙に書き取ったことがあるんだけれど、文章としてもすごいということがそれでよくわかた。そういう分析もおもしろいと思うんだよね。    

他の漫画家で、こういう番組を作るのは、どんなもんだろう。きっと難しいと思う。過去、こんな作品がありましたじゃ、一時間もたないと思う。それこそマニアが知っていること以外に話が及ぶことはめったにないだろうし。現在につながっていて、その先を見通せるような題材がやっぱり面白いんだよね。

話がまとまらないけれど(笑)一条さんの姿勢が面白いと思う。少女マンガって、初期の頃ははらはらどきどきの物語が主流だったんだよね。それが妙に難しくなったり、軽くなったり、焦点が定まらなくなってるけれど、いや、いろんな作品があっていいんだけれど、あまり本を読まないうちの子供たちにも、マンガの面白さを伝えてくれてありがとう。という感じ。