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2002年01月06日(日)
清水玲子『秘密』つづき

こないだから頭のすみっこで、『秘密』で扱われている感情が
たいしたことないのに、心に残るような気がするのはなぜかと考えていた(ようだ)
一応、理由を思いついたので書いてみよう。

脳に刻まれた視覚の記録を、映像として見ることができるようになったという設定で
登場人物はその技術を犯罪捜査に利用する。
なんせ、脳を調べるわけだから、持ち主はすでに死んでいる。
死者からのメッセージということで、それだけである程度のインパクトがある。
そして、ストレートに伝わる音声を排除したことで、
鮮明でありながら距離がある。
多大な手間をかけて、生前脳の持ち主が抱いていた気持ちにたどりつく。
ささいな取るに足りない、他人には見せることのない『秘密』へ。
人の秘密をのぞく、多少のうしろめたさもそこにある。
(そしてもちろん人はそういうことが大好きだったりする)

気持ちへたどりつくまでの、距離と時間が
ボトルレターやタイムレターのような効果を持っているんだろうか
と思った。死者との距離は、現実のどんな距離よりも遠い。
そして、死者の気持ちはどんなに近くても、現在になることはない。

この設定を思いついた清水さんはすごいと思う。
問題はそれによって何を描くかということなんだろう。
どうしても、作品の底流に死者を悼む気持ちがあるので
明るくなりようがない。そして、死者の気持ちが、生きている人間に
なにかしかの影響を与えたとしても、そのことが、死んだ人間には帰っていかないので
一方通行になってしまう。
そうしたら、話はそれ以上すすまないのでは・・・・
話は、生きている人間達の、死者の脳を間に置いてのお話になってしまう。
そうすると中心がひとつになりにくい。脳の持ち主と、脳の記憶を見た人、
その人の横にいて助けてくれる生きた人。

生きた人間の視覚をたどるということも可能になったという話なら
もう少しお話は動くだろうか?
ささいな気持ちを取り出すのに、脳まで取り出さなくても、
いいと思うんだけれども・・・・